第69章 第19代/允恭天皇(2)
不義密通と皇位継承
允恭天皇の御子・軽の王 かるのみこ は 美形のルックスの美男子 そして 妹・軽の大郎女 かるのおおいらつめ も
それまた めったに見られない絶世の美女で 皆から羨望 せんぼう されていました。
並ぶ姿は 絵になるほどの二人でしたが この実の兄と妹は 男女の関係の仲だったのです。
はやい話が不倫のことやろ お前たち くずだ くやしい‥‥‥モテナイ ボサツマン 吠えた
その経緯 宮中に衝撃が走る!
允恭天皇が崩御 ほうぎょ した後 兄・軽の王 かるのみこ が 第20代/天皇に即位することが決まっていた そんな折
兄・軽の王と 実の妹・軽の大郎女の不義密通 ふぎみっつう の関係が 宮中に露見 ろけん し広まったのです。
宮中に衝撃が走り 軽の王の皇位継承問題は白紙撤回となる 大騒動 そうどう が勃発ぼっぱつ しました。
二人の噂が広まると 家臣の百官 ひゃっかん たちからも 世間の人民・烏合の衆 うごうのしゅう たちからも
実の妹と不義な関係の男は 天皇に相応しくない と声が上がり 軽の王の皇位継承は頓挫とんざしました。
ほかにも 黒日子の王 くろひこのみこ 白日子の王 しろひこのみこ など 允恭天皇の御子たちがいましたが
宮中の大臣たちの動きは 弟・穴穂の命 あなほのみこと を 次の天皇に擁立することで 纏まとまりつつありました。
こうした状況にも 弟・穴穂の命は 冷静な態度を貫き通していました。
不義密通の噂にも 皇位継承問題にも 無関心を装い触れず 静かに動きを見ておりました。
弟・穴穂の命の心中は 非常に複雑な思いでした。 自分の兄と妹が男女関係にあったのですから。
一方 兄・軽の王は武力で反対者たちを封じ込めようと思い 武器庫担当大臣 おおおみ の物部 もののべ の
大前小前の宿禰 おおまえこまえのすくね の屋敷の武器庫へ 向かいました。
武器庫担当大臣の説得を退け 武器庫にて「軽矢 かるや」(銅製の矢)を用意し 戦闘の準備を整えました。
兄の過激な行動を黙認するわけにいかない穴穂の命は 新しく造った穴穂矢 あなほや(鉄製の矢)を手に持ち
先頭に立って軍隊を引き連れ 大前小前の宿禰の屋敷を 取り囲みました。
穴穂の命の軍が 屋敷を取り囲んでいるとき 空からいきなり 凍るように冷たい雹ひょうと雨が 降り出した。
穴穂の命は 歌にて 「大前小前の宿禰が 金門陰 かく寄り来ね 雨立ち止めむ」と 味方軍に伝えた。
意味: 大前小前の宿禰の屋敷の 金で飾った門の陰に 皆寄って来い 雨が止むまで待とう。
そのとき 大前小前の宿禰が 両手をあげ 膝を打ち 舞を踊り歌いながら 出て来て申した。
「われらの天皇となるべき 穴穂の王よ 同母の兄王 あにみこ 相手に 戦う必要は ありません。
もし 兄王 あにみこ に矢を向けると あなたは世間から 嘲笑されることになります。
私が 兄・軽の王を説得して 必ず あなたにお渡ししますから 矢を下げてください 私にお任せください」
穴穂の命は 大前小前の宿禰の言い分を認め 兵を下げて退き しばし待つことにしました。
まもなく 約束した通り 大前小前の宿禰に説得された兄・軽の王は 武器を捨て丸腰で出てきた。
捉えられた軽の王は そのまま 伊余の湯 いよのゆ (松山市道後温泉)へ 抑留よくりゅう 監禁されました。
また 兄・軽の王を心から恋しく慕っていた 妹・軽の大郎女 かるのおおいらつめ は 兄を忘れることができず
兄のいる伊余の湯まで 追いかけて行きました。 その後 二人は 共に自殺いたしました。
人々の誰もが羨む美形の兄と妹 二人は 人の道のタブー(禁忌)を犯してしまった。
兄弟としてこの世の生まれたばっかりに この二人は 愛し合うことも 結ばれることも 叶いませんでした。
兄弟で生まれなければ 二人の運命は また違ったことでしょう。
絶世の美男美女が こんな 悲惨な人生の結末とは 運命は人間には分からないものだ……ボサツマン
崩御: 允恭天皇は 454年 78歳にて崩御。 御墓は 河内の恵賀の長枝 えがのながえ (藤井寺市国分) 合掌
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