高王白衣観音経の霊験利益

   高王白衣観音経の因縁   因縁法苑珠林冥祥紀旌異紀等いんねんほうえんじゅりんめいしょうきせいいきとう の書に記あり。
  その1 命助かる
  昔 大唐魏天平年中 だいとうぎへいねんちゅう 孫敬徳 そんけいとく と云う人あり ある時 法をやぶり 獄屋ごくや につながれる。
  此の人 信心ふかく 獄中にて 専 もっぱ ら 観世音普門品 かんぜおんふもんぼん の読誦 どくじゅ おこたらず。
  ある夜  夢に 老僧来たりて告げ曰く 汝 この経を読誦するとも 死罪をまぬがれがたく 故に
  高王白衣観音経 こうおうびゃくえかんのんきょう を 壱千べん読誦せば 汝 死罪を逃れんと 教えけるなり。
  夢にて 孫敬徳 曰く 今 獄屋ごくや にありければ 高王経の本を求め難しと。 即 老僧 経文を 口伝えにて 授け給う。
  敬徳ねむりさめて 経文を忘れず 深くありがたく思い 一心に読誦つづけるなり。
  此の 高王観音経を読誦すること 九百遍に及びけるが 其の時 使者 来たりて 都市にひきいだし首をきるべし と有りける。
  罪 既すでに究きわまりけるなり。  敬徳
大いに悲しみ 都市という所へは 道遠きか近きかと 尋ねける。
  使者 曰く 何故に道の遠近を尋たずぬるや。
  敬徳曰く ある夜 夢中に老僧来りて告げ曰く 汝 死罪を免れんと思はば 高王観音経を 壱千遍(千回)読誦せよと。
  然るに ようやく九百遍迄 読誦して 今尚 百遍を読み残せるなり。 よって 道の遠近を尋ねしなり。
  何とぞ 道をしずかに行きたまう 今百遍を読み足さんとて 読誦しつつ道を往きければ ようやく 一千遍を読み終えるなり。
  使いの者 都市につき 高王の命の如く(殿さまの支持に従い)首を斬れども 少しもきれず 刀折れて三だんとなるなり。
  これ観音の力なりとて 使いの者 此よし高王(殿さま)に奏聞そうもんしければ その高王(殿さま) 敬徳に尋ねて曰く
  汝に 如何いか なる幻術ありてか 斯かかる ふしぎありや。 
  敬徳 曰く 我 獄屋に有し時 夢中に現る老僧の御告げにより 高王白衣観音経を 一千遍読誦するなりけり。 
  斯かかるふしぎあるは これ白衣観音の神力によれり。
  聞こしめし高王(殿さま) 敬徳に向かい曰く  汝は朕われに勝れり 真まことに 菩薩に異ならずと 斯く歓喜讃嘆したまう。
  また 獄屋にて 死罪に極まる者たちを呼び出し 皆に 高王観音経を 壱千遍読誦しましめ 試みに首を斬らせ見給えば
  皆 敬徳の如く 刀折れて三だんとなるなり。 高王(殿さま) いよいよ 有り難く思おぼし召しになりけり。
  其の国の萬民に勅ちょく して 此の経典を 一千遍読ましめければ 凡およそ 其の家に悪事災難なく 子孫長久繁栄なり。
  夫それより この経 普あまねく天下にひろまり 今に到りて 千百年 その霊験極まりなし。

  その2  難病平癒
  徽州きしゅう に程氏ていしと云う女あり 年若にして難病を患いたり。其の時 この経一千巻を読誦して立願 成しければ
  その夜 二人の僧来りて 其の病根を断たんと 守護し給う事を 夢に見て その難病忽たちまち 癒えて 寿命長久せり。

  その3 子授かる
  
昔 衝陽こうようという所に 独りの士さむらい有り 常に子無き事を悲しみて 所々しょしょに祈り求めける。
  ある時 独りの老僧 此の経を授けて曰く 若し 能く信心に読誦せば 心の所願に随いて 白衣重胞じゅうほうの印しるしあらん…
  と 教えければ 夫婦経を読むこと 一千遍果はたして 三人の子をもうけて 子孫長久しそんちょうきゅう に富とみさかえけり。
  衝陽国司こくし まのあたり 此のよしを見て 即ち 発願し 此の経を施ほどこ し 白衣観音を念じければ 独りの男子を生じ
  白衣重胞じゅうほう の印しるし 有り 白衣重胞とは 誕生の時 胞えなの内うちに 観音の利生りしょう に依って誕生する印しるし 有り
  胞に印ある事 衆生の疑いをやめ信心を増さしめ 又 菩薩の利益りやく 衆生を 誑たぶら かさざる事を あらはし給うなり。
  その4  子授かる
  
徐州じょしゅうの王鼎おうていという官人 此の経の霊験を聞きて 夫婦 一心に読誦し また 版はんになして諸人に與あたえける。
  其の年の内に果
はたして 一人の男子を生ず 又 高官こうかん に登りけるとぞ。
  その5  子授かる
  江寧こうねい郡の王洗おうせんが妻 趙ちょうといえり。 屡々しばしば (暫らく) 兒女尼 うまずめ (子が授からない女)にある。
  紹與丁しょうこうひのと の卯の春 此の経を読誦し 戊辰つちのえたつ の四月に到りて 一人の子を生うめり この子大おおいに孝行たり。
  その6  子授かる
  務州むしゅうの朝禮ちょうれいという人  年40にして子無き事を悲しみ 開禧丁かいきひのと の卯の夏
  此の経 一千巻を立願りつがんして 白衣観音を念じければ 次の年の八月に 独りの男子産みて 喜び限りなし。
  その7  子授かる
  徽州永豊郷きしゅうえいほうごう の方岩ほうがん が妻 黄氏おうし と云う。子無きを歎なげき 常に普あまねく祈り求むれど 其の験しるし無し。
  寶祐甲寅ほうゆうきのえとら の春 此の経を読み 立願し一千巻を施す。次の年 一人の男子を生じる 名を白祐はくゆう と云いしなり。
  生しょうとく(生まれがらにして) 才知深く世の人に勝すぐれたるがゆえ 高位に昇り寿命長久じゅみょうちょうきゅう せり。
  その8  子授かる
  
徽州黄慶きしゅうこうけい が妻 連氏れんし この経を立願して子を祈り求めれば 至元壬午しげんみずのえうま の八月 二人の子を生む。
  一人は佛住
ぶつじゅう 一人は慶兒けいじ と名づく。 ついに 此の経五百巻を施して 白衣観音の恩を報ほうじ奉たてまつる。
 
その9 子授かる
 
南京大寧坊なんきんだいねいぼう にて 王玉わんぎょくと云う人あり。 年四十に余れども子無し。 所々に祈れども その験しるし なし。
 
至元乙しげんきのと の丑うし の十月に於いて 朋友ほうゆう 馬公爵ばこうしゃく が家に行きて この経を見て馬公爵に問いて曰く
  この経の功力
くりきまことに有り難し 我かねて申す如く 子無きを憂う よってこの経を読誦したしとて
  この経を請求
こいもとめ 日夜怠らず読誦なしける ある夜 夢中に白衣の人 頭に金冠を戴き一人の童子を携えて来て授け給う。
  其の童子を抱き取る時 夢覚ぬ。 其れより 妻妊娠して男子を生り。 名を聖僧奴
せいそうぬ と云う。
  それより 夫婦共に 白衣観音を信じ この経五百巻を施して 恩を報ほうじ奉たてまつる。
 その10 子授かる
  廣東
かんとん の類元震子るいげんしんこ
夥多あまた 有けれども 残らず死に果てければ 悲しむこと限りなし。 洪武こうぶ十年の春
  南海縣なんかいけん にて この経を求め 夫婦共に立願し 五百巻を施しける 己未つちのとひつじの十二月 子が生まれ 其家栄えり。
   つづく