牧歌舞伎(まぎかぶき)
佐野市北部の牧地区に伝わった「牧歌舞伎」は、江戸時代から現在まで受け継がれている地芝居です。江戸時代後期に江戸の歌舞伎役者・関三十郎により伝えられたのが始まりとされており、現在も牧歌舞伎保存会による公演活動が行われています。
かつては各地で地芝居が行われており、栃木県内でも明治期には24か所で行われていましたが、今では地芝居としての歌舞伎は栃木県内ではここしかありません。昭和35年に栃木県重要無形文化財の指定を受け、昭和52年に「栃木県無形民俗文化財」に指定変更されています。
かつては各地で地芝居が行われており、栃木県内でも明治期には24か所で行われていましたが、今では地芝居としての歌舞伎は栃木県内ではここしかありません。昭和35年に栃木県重要無形文化財の指定を受け、昭和52年に「栃木県無形民俗文化財」に指定変更されています。
牧歌舞伎と保存会
民俗芸能は、地域に住む人々によって辛い労働の合間に祭りなどの行事のなかで催されてきました。今と違ってテレビ、映画、コンサートなど娯楽の少ない時代、同じ地域に住む人々のあいだで楽しまれてきました。民俗芸能は、もともと五穀豊穣、無病息災など神々への信仰としての成り立ちがありますが、ひとつの芸能を地域の人々で協力して作り上げ、一緒に楽しむことにより地域の結びつきを育んできたという側面もあります。
「牧歌舞伎」は江戸の昔から佐野市北部の葛生町牧地区において地域の住民によって伝承されてきました。牧歌舞伎は後継者不足で一時中断していた時期もありましたが、昭和56(1981)年に当時の青年団が「牧歌舞伎保存会」結成し見事に復活しました。
保存会の皆さんは地元の自営業者や会社員、商工会職員などで、仕事をするかたわら、芝居の稽古に励んでいます。近年は2年に1度稽古の成果を地元の牧地区で披露しています。最近はこの定期公演の他、佐野の祭りや行事の際に臨時公演なども行われています。また、平成23(2011)年10月9日には「牧歌舞伎保存会結成30周年」の記念公演が葛生あくとプラザにおいて開催されました。
白浪五人男の名場面 「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在…」で始まり「さてどんじりに控えしは…」で終わる。5人の盗賊衆が、捕り手に追いつめられて大見えを切るおなじみの場面。ご存知「白浪五人男」の見せ場である。観客から「高藤屋!」などと合いの手が入り、「おひねり」が舞台に飛び交います。
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牧歌舞伎の舞台と大道具
牧歌舞伎は、古くは住民たちが小屋掛けと呼ばれる舞台作りから大道具の設置など全てをこなして運営されてきました。今では舞台(ステージ)を備えた文化施設が使われるため、その作業は少なくなっています。それでも場面が変わる時に行う大道具などの交換は、演者も含めて関係者が総出で行います。右の写真は、昭和36(1961)年のもので、上演を待つ人々の姿が写っています。舞台前には席取りの敷物がズラリと並んでいることから、歌舞伎が始まる時刻には満席になることが伺えます。
佐野市葛生伝承館とフレスコ画
佐野市葛生伝承館は、吉澤記念美術館別館「葛生伝承館」として牧歌舞伎、吉澤人形首を中心に地域の文化・芸能を紹介する施設として旧葛生町により平成16年12月5日に開館しました。その翌年の平成17年2月28日、旧佐野市・旧田沼町・旧葛生町の1市2町が新設合併し新「佐野市」が誕生したことにより佐野市立博物館条例に基づき、別館「佐野市葛生伝承館」となりました。ちなみに本館は田中正造の展示がある佐野市郷土博物館です。
写真左は、葛生伝承館の入口の右に設置されている「牧歌舞伎」をモチーフにしたフレスコ画です。
フレスコ画とは、まず壁に消石灰に砂や麻糸などの繊維質を混ぜた「漆喰」を塗り、その漆喰がまだ「フレスコ(新鮮)」である状態で、つまり生乾きの間に水または石灰水で溶いた顔料で描く技法のことです。なお、作業を失敗した場合は漆喰をかき落とし、やり直すほかはないため、綿密な計画と高度の技術力を必要とする技法です。
フレスコ画が他の絵画技法と最も異なるのは、絵の具の定着溶剤を使用しないところです。例えば、日本画には「膠(にかわ)」、油絵には「油」、水彩画には「のり」といった溶剤を使用しますが、フレスコ画はそれらを一切必要としません。
濡れた石灰の上に水溶きの顔料(粉末状の色素)を乗せてやれば、石灰水が顔料を覆い、空気中の二酸化炭素と反応して透明な結晶(カルサイト)になります。顔料はこの結晶に閉じ込められて美しさを保ち続けます。長期間そのままの色を保つことができるため、ヨーロッパの教会壁画などにもフレスコ画の技法で描かれてたものが多く見られます。日本では高松塚古墳の石室壁画が代表的なものとして有名です。
平成18年9月から栃木県石灰工業協同組合の協力により、葛生伝承館西側の外壁(23.4m×3.1m)に、文化や自然・人物をモチーフとした四季の風物を描いていくフレスコ画の制作が続けられています。平成28年度完成の予定となっており、既に描き終わった極彩色のフレスコ画を見ることができます。
葛生伝承館の他にも周辺の建物でフレスコ画を見ることができます。佐野市葛生地区は江戸時代から石灰の町として栄え、今日では全国有数の生産地となっています。地元で採掘された石灰を使ったフレスコ画が、佐野市役所葛生庁舎をほぼ中心とした周辺の建造物に平成12年から制作されており、現在13点の作品を見ることができます。