太陽の警察ミニ・ノベル1「新宿一期一会」





プロローグ


 東京都、新宿区。「日本のデトロイト」と呼ばれるこの都市にも日々、街の治安を守る男たちがいる・・・。


CHAPTER-1「覚醒」


 電話のベルが鳴っている。
 ――フッ、いつものモーニングコールかな
 俺は部屋の壁で微笑むアイドルをチラリと見て、さりげなく受話器を取り上げた。
「馬鹿者! タカ、早く来い!!」
 数分後、俺はパンをくわえたままアパートを飛び出した。俺の職業は、会社員でもなければスーパーマンでもない。ましてや自衛官でもなく、新宿第二中央(警察)署に勤務するしがない一刑事だぜ。愛用のサングラス「ジェニファー」を手に持ったまま職場へと急ぐ俺の姿は、近所のババアどもの話のネタになるに違いない・・・。


CHAPTER-2「刑事タカさん」


「また遅刻か。今日は新人配属の日だぞ、シャキッとしろ! 今日からお前も先輩になるんだからな」
 顔を真っ赤にして怒っている男は、太田光則。通称ボスといい、俺の上司にあたり、俺の姿が見えないと、今朝のように「モーニングコール」をかけてくる妙な習性を持っている。
 俺はネクタイを首から背中に流した粋な姿で、ボスの説教を聞き流していた。
「コラ、聞いているのか、タカ!!」
 俺の名前は刈山貴志、通称タカと皆から呼ばれている。26歳の独身だ。金はあるが愛はない、寂しい独り者と呼んでくれ・・・。
 おっと、気付くとボスがいない。俺は一つ溜め息をついて落ち着くと、ジェニファーをかけて俺の指定席「エヴァンゼリン」にだらしなく腰掛けた。彼女は仕事に疲れた俺を、いつも優しく受け止めてくれる。そのまま今夜の「歌舞伎町攻略作戦」を練っていると、捜査課のドアが開かれ、一人の若い男が部屋に入り込んで来た・・・。


CHAPTER-3「新人刑事登場」


「本日より、新宿第二中央署捜査課に配属されました春日秀憲と申します! 先輩、どうかよろしくお願いします!!」
 俺は思わず耳を塞いだ。何とまあ声の大きい奴だ・・・。
「そうか、まあ、楽にしてくれ」
 他の同僚たちは皆、それぞれの事件を抱え、出払っていたため、仕方なく俺が新人の相手をする羽目になった。
 ――チッ、ついてないぜ
「は、はあ」
 新人は困ったように気のない生返事を返す。身長は高く、堂々とした体格をしたこの新人も、渋さ漂うこの俺には圧倒されているようにも見えた。と、そこへボスが戻って来た。
「おう、来たな。今日から春日君は、タカとコンビを組んでもらう。いいな、タカ?」
「な・・・何で俺が新人のお守りなんかを・・・?」
 俺は「エヴァンゼリン」からずり落ちそうになるのを必死に堪えた。そして、視界がブルーになるのを感じた・・・。


CHAPTER-4「転機」


「先輩、どこへ行かれるんですか?」
「うるさい、トイレだ。いちいちついてくるな」  あの日から数日、新人刑事の春日はぴったりと俺にまとわりついて離れない。だが、俺が一つ感心したことがある。奴はここに来てからというもの、署に寝泊まりするようになったのだ。
「どうせ独身ですし、部屋も散らかっていますし・・・」
 理由はどうあれ、俺の出る宿直回数が減るのは有り難いことだ。
「よし、俺があだ名をつけてやろう」
「ほっ、本当ですか、先輩!! カッコいいのをお願いします!」
 それはある晴れた日のことだった。
 俺は懐の拳銃の感触を確かめると、喜ぶ新人刑事に向き直った・・・。


CHAPTER-5「結成」


 一握りの拳銃が放物線を描き、新人刑事の手に収まった。
「まず受け取れ。ボスからの預かり物だ」
「これは、一体?」
 ルガーはびっくりしながら、俺に尋ねた。
「俺も良くは分からんが、ボスが言うには『ルガー』というオートマチック・ピストルだそうだ。お前さんは拳銃の腕が優秀だから、特別の計らいだとよ(注:こんなことはありえませんが、これは刑事ドラマです)」
「有り難うございます!! これで先輩の命を守れます」
 射撃の腕がさっぱりの俺は、ただ苦笑するしかなかった。
「そうだ、その拳銃の名前から閃いたんだが、お前のあだ名は『ルガー』だ。今日からお前はルガーだ!!」
「分かりました、先輩。今日からその名で呼んでください」
「フッ、おれのことはタカと呼べ。いいな?」
 ・・・かくして、若い刑事のコンビ、タカとルガーはここに誕生した。彼らの行く末は、未だ誰にも分からない。


太陽の警察ミニ・ノベル1〔完〕




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