太陽の警察ミニ・ノベル2「新宿第二中央署捜査課」プロローグ・・・東京都、新宿区。日本の新都心と言われ、数多くの人間が入り乱れる街。人の多さに比例して、犯罪もまた多い。そのすさんだ新宿管内において、新宿の平和と明日を守るために日夜頑張っている男たちがいた・・・。
CHAPTER-1「新宿第二中央署の朝」「おはよう」 「おはようございます!」 「うい~す」 部屋中に挨拶の声が響く。新宿第二中央署捜査課は、この時からその機能を始める。刑事たちは、新宿の明日と未来を守るために選ばれた者たちだ。 紹介が遅れていたが、私の名は太田光則、46歳。部下からはボスと呼ばれている。新宿第二中央署捜査課を統括する立場にあり、日々忙しい。刑事たちに指示を出したり、多くの書類に目を通したりと目が回りそうだ。 ん? 朝、最初にする仕事は何だって? ・・・それはな。 私は部屋中を見回した。そして、刑事の頭数を数える。1・・・2・・・3・・・一人足りないな。 「おい、ケイさん。アイツはどうした?」 私は手近にいる刑事、川嶋圭に尋ねた。 「まだ来てませんよ」 彼からは、いつも通りの返事が返ってきた。 「一体、アイツにはやる気があるのか?」 私はこうして、朝の最初の仕事――刈山貴志の呼び出しをする羽目になるのである。
CHAPTER-2「ボスの悩み」「おい、タカ、お前にはやる気があるのか? 一体、何回遅刻すれば気が済むんだ」 奴に説教するのはこれで何度目だろうか? しかし、奴は何度説教されても同じことを繰り返す。まるで幼稚園児だ。奴には、もしかすると、向上心というやつが欠けているのかもしれない。 その「奴」の名は、刈山貴志。26歳の独身。新宿第二中央署一だらしない男として有名だ。毎日の遅刻は当たり前。さらに、人から聞いたことはすぐに忘れる。最もひどいのは、彼には妄想癖があるということだ。サングラスをかけるときに「ジェニファー、会いたかったよ」とか、自分の椅子に座るときに、「エヴァンゼリン、俺の渇いた心を癒してくれ」とか呟いているのだ。今では慣れてしまったが、とにかく不気味な奴だ。 「おい、タカ、聞いているのか?」 「・・・・・・」 ダメだ・・・。こうなってしまうと、私には手が付けられない。 私は椅子から立ち上がると、ケイさんを呼び、捜査課を後にした。
CHAPTER-3「新人刑事」私はケイさんと共に廊下を歩いていた。今後の捜査の見通しや、昼飯のことなどについて話し合っていると、廊下の向こう側から見慣れない男がこちら――捜査課――の方へと歩いて来るではないか。男は、私の前で立ち止まると、 「あの~、捜査課はこちらでいいんでしょうか?」 と、尋ねてきた。 「ああ。この先を右に曲がったところだ」 答えて、私はあることに気がついた。 「もしかすると、君が新人の春日君かい?」 「ハイ! 本日づけで、新宿第二中央署捜査課に配属されました、春日秀憲です!」 やはり、彼は新人の春日だった。 「あ~、私は捜査課長の太田だ。で、こっちにいるのが川嶋だ」 「よろしく」 私の紹介に呼応して、ケイさんが言った。 「よろしくお願いします!」 元気だなぁ・・・私は彼を見ていると、そう思わずにはいられなかった。まるで、自分の昔の姿を見ているようだ。あの時は、毎日毎日、事件解決のために東奔西走したっけなぁ。無論、今だってその時の事を一日たりとも忘れたことはない。今のチャラチャラした刑事とは違う何かを、彼に見たような気がした。 「捜査課に刈山という刑事がいる。彼の指示に従ってくれ」 「ハイ!」
CHAPTER-4「転機」私が捜査課に戻ると、タカと新人が何やら話していた。 ――どうやら、仲良くやれそうだな。 「あ~、タカに春日君、聞いてくれ。今日から、タカと春日君とでコンビを組んでもらう。いいな、タカ?」 あらかじめ用意していた言葉を、私は言った。この二人をコンビに選んだのには、二つの理由がある。 「な・・・何で俺が新人のお守りなんかを?」 タカが不満そうに答えるが、私はそれを軽く笑って受け流すと、 「何言ってるんだ。お前が春日君に教わるんだ」 「え?」 タカは椅子からずり落ちていた。
CHAPTER-5「結果」「いや~、まさかアイツが犯人だったとは意外でしたね」 「俺はてっきり、娘の方かと思ってたんだけどな」 二人が捜査課へと戻って来た。 「いや、ご苦労さん」 あれから一年・・・月日の流れるのは速いものだ。タカとルガーのコンビもすっかり定着し、幾つかの事件を自分たちだけの手で解決できるようになっていた。もっとも、最初のうちは犯人を間違えたりと、見ちゃいられないということが多々あったが・・・。二人を組ませたのは間違いではなかった。 二人は自分の席に腰掛けると、雑談にふけっていた。 ――トゥルルルルル、トゥルルルルル―― 不意に、電話が鳴った。 「はい、新宿第二中央署捜査課」 電話は、タカが取った。 「新宿駅近くの路上で殺しです。至急出動して下さい」 「分かった」 電話を切ったタカは、傍らにあるトレンチコーチを引っ掴むと、ルガーと一緒に捜査課を出て行った。 「フフ、あの二人の成長が楽しみだよ・・・」 夕陽が惜しげもなく差し込んでくる窓をバックに、私はタバコをふかすのだった・・・。
太陽の警察ミニ・ノベル2〔完〕
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