太陽の警察ミニ・ノベル5「その男とは…」
これから始まるのは、真新しいスーツに身を包み、スラッと背が高くて、ただいるだけで存在感があり、注目を浴びるくらいいい男の物語である。
CHAPTER-1「その男とは…」
ピピピ……!
目覚まし時計が鳴っている。
「うーん……」
カチッ! 目覚ましを止める。
ボーッとしながら時計の針を見て、
「あっ、そういえば約束があったんだ!」
慌ててベッドから飛び起きる。
昨日の夜から決めていたスーツに着替え、間もなく家から出て行こうとしている男、その男の名は、岸川優二である。
CHAPTER-2「気になる視線」
今日は久しぶりの休暇で、恋人の岡野有里子とのデートの日だった。
待ち合わせの喫茶店へ向かう。街を歩いていていつも思うのだが、周りの人からの視線が気になってしょうがない。特に女の人からの。
顔に何か付いてるのかなと思い、心配になってショーウインドウのガラスでチェックする時もあるが、そういう訳でもないのだ。
今日もまた、道行く人の視線を感じる。
今日はデートの日だから、ショーウインドウのチェックでは甘いと思って、近くにあった紳士服店に駆け込んだ。店の中の鏡なら一目瞭然だろうと、自分の姿を映してみた。
やっぱり何も付いてない。じゃ、何でみんな見るんだ? 僕の事……。
そして、店から出ようと歩き出した時だった。
「お客さんでしたら、こちらがお似合いですよ」
と、店員が話しかけてきたのだ。
「あっ……いいです。スミマセン」
慌ててその場を去った。
焦った。不審がられたかな?
後ろを振り返ってみた。
あっ、やっぱり見られている。
店員は、僕の事をじっと見ていた。こちらの視線に気付き、目線をそらした。
鏡を見るためだけに店に入ったのは、やはりマズかったな。
……そういえば、こんな事をやっている場合ではなかった。
腕時計を見た。時計の針は(午前)10:30を指していた。約束の時間の30分前である。
あー、間に合うかなぁ。
駆け出した。人ごみをかき分け進む。
CHAPTER-3「今日もまた…」
待ち合わせの場所は、新宿駅近くにある喫茶店「ルノワール」だった。
約束の5分前に着いたが、くたくただった。店内をキョロキョロと見渡す。
あっ、いた。
彼女は、窓際の端の方の席に座っていた。僕の姿に気付くと、手を挙げて合図した。
「優二さん」
「ゴメン。待った?」
「ううん。全然。あの……優二さん」
「ん?」
「今日は、大丈夫よね?」
彼女は、心配そうに聞いてきた。
「え、何?」
僕は、イスに腰掛けながら言った。
「ううん……。きっと大丈夫よ」
彼女は、一人で呟いた。僕には思い当たる事があった。
そのとき、懐の携帯電話の着信音がけたたましく辺りに鳴り響き、二人の視線は携帯電話に釘付けになった。
「もしもし、岸川です」
僕は、ある予感とともに電話に出た。
「事件だ! 手が足りない。応援頼む。場所は……」
声の主は、ルガーさんだった。
やはり……。刑事の仕事には、本当の意味での休みの日がほとんどない。非番であろうとなかろうと、事件はそんなことお構いなしに発生する。僕達、刑事は休日返上で働かねばならない事も多かった。
「はい、分かりました。直ちに向かいます」
僕は電話を切り、彼女を真っ直ぐに見た。
「ゴメン。大丈夫じゃなくなっちゃった。仕事が入ったんだ。本当にゴメン」
僕は、そう台詞を残して、再び都会の雑踏の中へ消えて行った。
太陽の警察ミニ・ノベル5〔完〕
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