空があって、地が合って、それが全てと思っていたぼくの世界に、落ちてきた不思議な人。

見た事も聞いたことも無い異世界に生まれたというその人は、

この国の王に、そしてぼくの未来の伴侶になる。

 

 

*** 誰が為に鐘は鳴る ***

 

 

「ん・・朝か。」

お披露目と称した宴の席で、ぼくはまたユーリの婚約者として立つ事が出来なかった。

ユーリがこの世界の常識に疎いのは何も今に始まった事ではないのに、

ぼくはユーリが踊りの最初のパートナーとして誘ってくれるのではないかと

実は酷く期待して待ってた。

そして、それはいつもどおり打ち砕かれた。

周りからの心無い誹謗中傷を受けながら、こんな事なら先に言っておけば良かったなども思ったけれど、

でもやっぱり心のどこかでは、こうなった方が傷は浅いぞと思っていた。

もし、しきたりの事を話して、それで断られてしまったら?

女々しいけれどぼくは、それが怖くてたまらない。

ぼくはユーリを愛している。

だけど、ユーリは・・違う。

男同士だと言う理由で、決着をつけるのを拒む。

ユーリはぼくを「男」だという事だけですぐに結論付けてしまって、

決して他を見ようとはしてくれない。

ぼくが「男」でなかったら、ユーリはぼくを愛してくれたろうか?

ユーリはぼくを選んでくれたろうか?

 

でも、ある時思い悩むだけ無駄な気がして、考えるのをやめてしまった。

 

いいじゃないか、もう。

 

例えユーリには迷惑でも、ぼくが婚約者として立っているだけで、

ユーリを守れる事がたくさんあるのだから。

気づかれなくて良い、ただ側にいたいだけ。

 

ユーリと一緒に歩いていける、もうそれだけでいいと。

 

 

だけど。

これは夢じゃないのかな?

宴の後、ぼくはユーリに呼び出されて、告白された。

ユーリは自分の「婚約者」とぼくを呼び、そして・・・。

昨日のことを思い出したら、少し頬が熱い。

 

妙に気分が昂揚して、珍しく早起きしてしまった。

目覚めたぼくの側には、ブルーのパジャマで気持ち良さそうに眠るユーリの姿。

額に掛かる髪を掻き揚げたら、少し身じろぎして目を覚ましてしまう。

「ん?ヴォルフ・・もう起きたの?」

「あぁ。おはよう、ユーリ。」

ゆっくりと身を起こし、伸びをしたり、欠伸をしたり、昨日と変わりの無いユーリの姿に、

一瞬昨日のあれはぼくの都合のいい夢だったのかなと思ったが、

「んぁ〜・・身体が妙にイテェ〜・・。なんでだ・・?あ、そっか!慣れないダンスなんてしたから、

  身体が凝って・・っっ!????!!」

声にならない声でぼやきの先はかき消されてしまったが、

振り向く真っ赤な顔のユーリがアレは夢ではなかったと知らせてくれる。

『よかった・・・』

「あらためて、おはよう。ぼくの愛しい人。」

「お・・、おひゃよょうっ!!ヴォルフ!!」

慌てるユーリの姿が妙に微笑ましくて、笑ってしまった。

 

 

 

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