それからの展開は拍子抜けするほどに速かった。
元より婚約者として過ごしてきたぼくらだったから、
国民からしてみれば、来るべき日が来たと言うだけの事。
ただし発表からしばらくは、皆一喜一憂していて、
祝賀の雰囲気が広がるのは多少時間が掛かったが。
貴族間でも、表立って特にどこかで異論が上がると言う事も無かった。
そう、表立っては。
式をどんな形にしようか相談した結果、伝統的な窓問いの儀式の準備と、
ユーリの熱烈な希望で地球式の式を行う事になった。
そして実に意外な事だが式までの進行はギュンターが率先して執り行ってくれたので、
至って計画的に進んでいった。
とはいっても、彼は最初の1ヶ月は卒倒し、泣き明かし、暴れまわっていたけれど。
そうして、ぼくらの日常は、式の準備を中心に廻り始める。
まず手を付け始めたのは、衣装作り。
二度も式を挙げるので、衣装もそれにあわせて数着を作る。
それをすべて同時進行で作ってもらうことになってしまったので、
国中の腕のいい針子たちが沢山集められ、ユーリとぼくはとっかえひっかえ、
衣装の採寸やら生地の決定やらに振り回されていた。
「窓問いは基本的に性別に沿った衣装を用意しますが・・・陛下のご希望は何か・・」
「ヴォルフにドレス!!!」
「・・・ユーリ、お前の衣装の話だろうが。」
「花婿の衣装は花嫁に合わせるもんなのっ!!だからヴォルフにドレス!!」
「だからっ!!今は窓問い用のお前の衣装の話だっ!!ぼくのはその後でゆっくり決めるっ!」
「なら、窓問いのが黒タキシード!式のが白タキシード!これで決まりっ!で、ヴォルフの衣装が・・・」
「このへなちょこっ!一生に一度の事をそんなに簡単に・・・っ!」
ユーリの態度に思わず憤慨したぼくに、ユーリは睨みを効かせて声を荒げた。
「一生に一度だから、お前に気合入れたいんだよっっ!世界一綺麗なおれの伴侶っ!!
今でも充分綺麗だけどもっともっと綺麗にして、おれが皆に見せびらかしたいのっ!!
すごいだろ?羨ましいだろ?ってさ!!そんでそんなお前が真っ赤なバージンロードを
歩いてくるわけよっ!おれに向かってさ、こう・・ゆっくりとね!
んで、おれはお前を受け取ってそんで・・・」
完全にうっとりとした調子で続けながら、デザインの見本に持ってきていたいくつかのドレスを
『あれもだして〜!これも見せて〜!!』と大騒ぎだ。
あ・・あれがユーリ??
とうか、本当にユーリなのか?
ぼくが決着を求め、追いかけていた頃とはまるっきり違うその張り切りぶりに呆れているぼくに、
針子たちが嬉しそうにくすくす笑いながら、「陛下、お幸せそうね。」と囁きあう。
「ヴォルフ〜!ちょっとこっちに来いよ!!」
細身のマーメードラインのドレスと、正反対の豪奢なドレスを掲げ、ユーリは本当に嬉しそうだ。
あのどちらかをぼくに着て見せろとでも言う気だろうか?
・・・いや、あの様子だとどっちも着せられそうだ。
「わかった。今行く。」
まったく・・・。
そんなに幸せそうな顔をされてしまったら、
女物の衣装を男のぼくに着せるなどどういう了見だ、と怒る事も出来なくなってしまったじゃないか。
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