誰が為に鐘が鳴る

 

 

とうとう予定の時間になった。

ユーリと別れて一人、普段使われていないぼくの私室に入る。

この部屋の窓にユーリが現れたら、ぼくらは本当に『伴侶』になるんだ。

どくんどくんと早鐘のように鼓動が胸を打つ。

緊張を解したくて窓辺に寄ると、ユーリの声が聞こえてきた。

「渋谷有利!歌いますっ!!」

選曲は・・・思ったとおりの、『ヤキュウ』の歌だった。

愛を囁く歌、ということなら他にも何曲もあったろうに、

ユーリらしいといえばユーリらしい。

ガラス越しに響く、ユーリ流の『愛の歌』

ユーリの影響で少しだけ覚えたその歌を、なぞるように口ずさむ。

 

歌っていると脳裏には、ユーリから求婚されて今までの、

様様な思い出が蘇る。

_____それは決して良いことばかりではなかった。

あぁ、今、彼らはどんな思いでこの光景を見ているのかな?

ユーリが歌う、ぼくへの愛の歌。

もう誰にも止めることは出来ない。

これでもうお前たちがユーリに手を出し、国に仇なすことを止められる。

ぼくがユーリの伴侶だ。

そして選んだのはユーリだ。

決してもう、手出しはさせない。

例えどう謗られても・・・ユーリの心はここに、ぼくの側にあるのだから。

 

「ヴォルフ〜!!ヴォ〜〜ルフ〜!!!」

何時の間にか歌が止み、ユーリの呼ぶ声が聞こえる。

????

一体、何をしているんだ?あのへなちょこは。

「ヴォルフ〜!!き〜こ〜え〜る〜?」

あいつはしきたりを忘れてしまったのか??

窓問いで相手に呼びかける奴があるか!?

ここでぼくが返事をしたら、断る事になるだろうが!!

怒りのあまりに思わず我を忘れ、返事をしそうになるが、

必死に耐えて窓に張り付くだけにする。

そのとき聞こえてきた、ユーリの声。

「石投げるからな〜!危ないから離れてろよ〜!いいか〜!」

その言葉に、怒りが解けていく。

そう、それはぼくを気遣う声。

そうだった。

ぼくを選んだ人は、いつでも優しい人だった。

その声に従って、窓を離れ、ベットに腰をおろした瞬間。

「3・2・1!!てりゃ!!」

ぱしんっ!!

拳くらいの石が窓から飛び込んできて、ごろりと足元まで転がってくる。

そして次にバルコニーに転がり込んでくるだろうユーリの姿を思って、

また少し可笑しくなった。

「早く来い、へなちょこ。ぼくはここにいるぞ。」

それからユーリが必死になって登ってくるまで、約半刻。

ぼくは割れたガラス窓から差し込む日の光を、ずっと見つめていた。

 

 

 

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