僕はユーリに捨て置かれた。
今度は本当に_____言葉どおりの意味で。
「ヴォルフ、お式の準備進んでる?」
「母上・・」
嬉しそうな母上を見ていると、ぼくらの間にすでに別れの空気が溢れている事を告げる気にはなれない。
だけど、いつかはわかる事。
「ドレスなら母上が御覧になりたいときにいつでも着て差し上げますよ。」
「あぁ、ヴォルフッたら本当に優しい子!!でもわたくしが見たいのは、幸せな笑顔のあなたよ。」
「母上?」
「どんなに隠してもわたくしにはお見通し。だって、可愛い我が子の事ですもの。」
そういうと母上はぼくの足元に跪き、そっと頬に手を触れた。
「悲しい色。泣く事も出来ずに、瞳の奥に悲しみが一杯見える。
さぁ、ここにはわたくしとヴォルフの二人きり。わたくしには話してくれるでしょう?」
いままで、ユーリの為にそしてぼくの為にと必死で気を張ってきたけれど、
そのユーリはもうぼくの手の中から消えてしまった。
もう何も、失うものは無い、とそう思って、
ぼくは窓問いから今までの出来事を隠さずに話した。
窓問いの後、急に消えたユーリ。
その訳も話してもらえなかったこと。
残されたのは、不安と、責務と、逆風だけ。
支えて欲しいけれど、側には誰もいなくて、
そして誰にも縋れなくて、泣き続けた日々。
帰って来たユーリが持ってきたのは、
ぼくに示す愛の証だったのに、その思いをつき返してしまったぼく。
「八つ当たりを、してしまいました。」
そう言うとなんとなく、自分の事が可笑しくて笑いが出てしまう。
「もう、戻れません。すべてが変わってしまったから。」
母上は小さな声でかわいそうに、と呟くとぼくをぎゅっと抱きしめた。
「一瞬でも綺麗な夢の中に生きられた。それを幸せと思わなくては、いけないんだと・・」
せめてもの強がりは、母の温かな腕の中で崩れていく。
「あぁ、ヴォルフっ!わたくしの愛しい子。」
「ははうえっ!ははうえっ・・―――っっ!!」
涙が止まらない。
悲しくて悔しくて、でも、それでもユーリが愛しくて堪らない。
「ぼく、はっ、間違って、いたのでしょうか・・――っ!!」
声を限りに叫ぶ。
「ユーリに愛されたかった!ユーリに愛してると伝えたかったっ!なのにっっ・・なのにっ!」
手に入れてしまえば、それはあまりにも脆くて。
ようやく掬い上げたその愛は、手にしたその指の間から砂が零れるように、
失われていくような気さえするのはなぜだろう?
羨望で見つめていた時の方がずっと、綺麗で、そして心が満たされていた。
「手にした瞬間から・・愛は、終わりへと、向かうのでしょうか?」
生き写しと言われる母の顔が、悲しげに歪んだ。
「だったらっーー、もぅ・・過去に、還りたい!失う前に戻りたい!
見ているだけで幸せだった!側にいられるだけで満たされていた!!
もう、ユーリを、その心を、手に入れたいなんて思わないからっっー・・。
側にいられるなら他には何一つ、望まないからっっーーーっ!!!」
まるで幼い頃に戻ったかのように、抱きしめてくれる母の腕に身を任せて、ただ泣いた。
一度は手にした愛の証。
でもぼくにはそれを素直に喜べる心がなかった。
だからユーリは呆れたのだ。
どんなに悔やんでも、もうユーリは、戻らない。
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