誰が為に鐘が鳴る

 

 

「じゃあ、いこうか。」

「あぁ。」

コンラートの腕に腕を絡めて、ドアをあける。

開けたそこには訳知り顔で笑う、ギーゼラが居て。

ぼくのベールの端を支えてくれる。

 

一歩一歩。

 

長い廊下を歩いていく。

 

歩けば歩くだけ様様な思い出が蘇る。

生まれてきて、愛されて育ってきた。

生まれた環境のおかげで助かった事もあれば、反対に苦労した事もある。

怒ったり、笑ったり、泣いたり。

でも、どれも大切な思い出だ。

 

式場のドアの前で、深呼吸をする兄上が見える。

 

そこまで、一歩一歩。

 

グウェンダル兄上のところまで到着する。

 

「コンラートか。それはギーゼラの役目ではなかったか?」

「えぇ、でも、ぼくが頼んだんです。」

「俺の仰せつかった役目はここまで。あとはグウェンにお任せするよ。」

「そうか。」

長兄はそれ以上何も言わない。

多分すべて分かっているのだろう。

「じゃぁ、俺は中で見守ってるからね。ヴォルフ・・」

「なんだ?」

「どうか幸せに。お前の笑顔が曇る事の無いよう・・。」

そういって頬に、親愛の口づけ落としていった。

 

 

ぼーん・・・ぼーん・・・

 

はじまりを告げる鐘と共に、辺りに荘厳な音楽が広がる。

「では、いこうか。」

「はい、兄上。」

開けられたドアからは眩しい光が射し、深紅の絨毯を挟んで列席しているたくさんの人。

一歩一歩進むたびに、感嘆の溜息が聞こえた。

しっかりと視線を上げれば、目の前には見覚えのある白いタキシードの背中が見えて、

心の中で必死に呼んでしまう。

『ユーリ!ぼくはここだ!!ユーリ!!』

その呼びかけが通じたかのように、振り向いたユーリが優しく笑っていた。

 

出会ってすぐに婚約、そして随分たくさんの出来事を乗り越えて、

ぼくらはようやくここに辿り着いた。

 

人が見れば、ぼくらは随分遠回りをしたと思うかもしれない。

 

だけど、嬉しかった事、楽しかった事、悲しかった事、悔しかった事、困った事。

その一つ一つが、やっぱりぼくらには必要なものだったのだと、いまになれば良く分かる。

 

そしてそれが分かった今、また新しく始まるこれからの日々の、

嬉しい事、楽しい事、悲しい事、悔しい事、困る事、

その全てを愛しいと思って受け入れていけるだろう。

 

ユーリの側に着くと兄上がユーリに会釈してから笑ってぼくの手を取り、

ユーリの差し出した手にそっと乗せてくれる。

温かなユーリの手。

残りの数歩をユーリと共に歩き、ウルリーケの前に立つ。

 

 

病める時も_____健やかなる時も______

 

                   互いに愛し、敬い、_____

 

 

生涯伴侶として、歩む事を、誓いますか?

 

 

 

見詰め合うぼくらの、答えは、一つ。

 

 

 

→ あとがき


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