月 光
−6−
うめき声と同時に果ててしまった僕の姿を、雪が今絡めたばかりの足を、力なくじゅうたんの上にポタンと降ろし、ぽかんとした顔で見上げていた。
(えっ? もう……?)
彼女のその瞳は、紛れもなくこう訴えていた。
くそっ、しまった…… まさかこんなに早くいってしまうなんて……
雪はまだ登っている最中だったんだ。
さっきまで、あれだけ雪をじらし続けていたというのに、実は自分で自分をじらしてただけだなんて…… そして待ちきれなくて自分だけ……
ああ……
非常に拙い状況の中で、僕は情けなくていいわけの言葉すら出なかった。
「あ…… ご、ごめん…… その……」
俺は恥ずかしくて、穴があったら入りたい心境になって、そっと顔を背けようとした。
すると、目をぱちくりさせていた雪が、今度は目を細めてクスリと笑ってから、2、3度首を振った。
「ううん、古代君ったら…… いいのよ」
「……?」
意外にも、雪は不満足で怒っているというより、逆に嬉しそうな、というか得意げな顔で僕を見上げたのだ。
「うふっ、私のこの姿って、そんなに魅力的だったの?」
「えっ?」
僕は、その言葉に、雪の顔をまじまじと見つめた。
彼女は怒ってるのでもなく、僕を笑い者にしているのでもなかった。
そう、とってもうれしそうで、そして色っぽい視線を僕に向けている。
「ねぇ、そうなの?」
彼女は、もう一度尋ねると、媚びるような上目遣いの視線で僕を見つめ、両手を僕の首に巻きつけた。
なんて可愛いんだ…… ああ、その通りだよ、君があまりにも魅力的過ぎて僕は……
僕はブルッと一つ身震いした。
そして再び沸き上がってくる彼女への欲望と共に、彼女の中に入れたままの僕自身が、またムクムクと固さと太さを取り戻し始めたのだ。
「ああ、雪。ものすごく魅力的だ。だから、あんなに早くいっちまったよ。けど……次はそうはいかないからな!」
僕は再び自信を取り戻したことを示すために、ニヤリと笑った。
すると彼女も、色気のこもった声でうふんと笑うと、僕を抱き締めて囁いた。
「うれしい……」
「ベッドへ行こう」
自己嫌悪から立ち直った僕――立ち直りが早いのも僕のいいところなのだ!――は、さっそく次の作業に入ることにした。
僕は彼女を抱き上げてベッドまで連れていくと、はじに腰掛けさせた。
彼女の太ももから敏感な部分に触れると、彼女の体はびくんと反応し、ウフッという小さな声も漏らした。
一瞬そのよすぎる反応に驚いた僕だが、ふと思い出した。
そうだった、彼女はまだこれからだったんだ!
僕は彼女が一番感じるところを、指の腹でつるりとなぞった。
「はあっ……」
彼女は小さくそう叫ぶと体をのけぞらせ、支えている手が震えた。
「そのまま、ベッドで寝てていいぞ」
僕のその言葉を待っていたかのように、彼女は仰向けにベッドに倒れた。足だけがベッドサイドからぶらりと下がっている状態だ。
透き通ったネグリジェが、彼女の体にまとわりついている。
僕は、彼女の濡れたところを愛撫する。手でなぞり唇でさする。最後にその中心に唇を寄せた。
既に十分に潤っているそこは、熱を持ったように熱くそして柔らかかった。舌で敏感な頂点を舐めると、雪の体がビクンと跳ねるように震える。
「あぁぁぁ〜」
僕があちこちを舐める度に、小さな叫び声を上げて、雪の腰は右に左に小刻みに動いた。その反応が面白くて、僕はもっともっと勢いづいて作業に専念した。
雪の声がますます大きく激しくなって、腰が浮き、太ももにも力が入るのもわかった。両手は、シーツをぎゅっと掴んでいる。もうすぐ彼女は絶頂に向かうはずだ。こんどこそ、絶頂に……
「あ、あぁぁぁん…… こだい……くん……ああっ!」
雪の動きが硬直したように止まった。
顔をあげると、眉をしかめ苦しそうな顔をする彼女が見えた。
だが、それは決して苦しいわけではない。襲ってくる快感の波に、押し流されているのだ。
その姿を僕は満足げに見ていた。もだえる彼女の姿もまた美しい。
それに今日はその身に、あの薄い衣(ころも)をまとっている。だから、さらに艶(なまめ)かしく見えた。
そして、ゆっくりとその硬直が解けていく様を、僕は立ち上がって上から見下ろしていた。
しばらくして、快感を感じるため閉じられていた雪の瞳が静かに開いた。それははっきりと潤んでいた。
そしてその瞳で僕の姿を目に留めると、両手を上に上げて僕を誘った。
「古代君……抱き締めて」
僕はその手と声に誘われるように、彼女の上にのしあがると、彼女の体を上に押し上げながら、二人でベッドの中央へずり上がった。
「いけた……んだ?」
「ん…… すごく感じちゃった」
恥ずかしそうに彼女は微笑んだ。
よかった……
これでさっきの分も、少しは取り返せただろうか。
彼女の両脇に腕を立てて上から見下ろしながら、僕はそんなことを考えていた。
そして、ゆっくりと体を彼女の上に預けながら、そっと彼女の唇にキスをした。雪の両手が僕の首に巻き付けられた。
「古代君……好き……大好き」
「僕も……好きだ……」
キスを終えて顔を見合わせてから、二人でそう伝え合った。
それから僕はもう一度、雪の体全身に視線を這わせた。体を包む透き通ったネグリジェのドレープが彼女の体を僅かに隠している。
僕は長い間夢見ていたあの姿を、今夜たっぷりと堪能しつくしたのだ……
ありがとう、雪……
心の中でそうつぶやいた僕は、その布の端を手に取ると、口元に持っていきそっとキスをした。そして今度は、それを一気に彼女から剥ぎ取った。
再び雪は、何も纏わぬ姿に戻った。その肌は、快感と興奮でピンクの布を被ったままのように、薄紅色に染まっている。
「雪…… もう一度、君が欲しいよ」
「ああ、古代君……私も……」
そして僕は、今度は彼女の直の肌に触れる。この滑らかな感触は、衣ごしでは決して味わえない。
僕は再び彼女の全身を舐め尽くした。
なにも纏わぬままの二人は、ベッドの上で激しく体を絡めあい、2度目の絶頂は――と言っても今夜寝てから数えると、何度目になるんだったか――二人で一緒に迎えることができた。
二人の心も体も……十二分に満たされた。
しばらくして、愛し合った疲れで眠気を模様しながらも、その余韻を味わうように二人で互いの体をさすりあっていた。
雪が僕の顔に手を添えて、囁くように話し始めた。
「ねぇ、古代君……」
「ん?」
「あのネグリジェで、すごく興奮した?」
「ああ、ものすごく……」
「うふふ……」
彼女がさもおかしそうに笑う。僕は今更ながら、照れたように言い訳をした。
「それだけ魅惑的だったんだよ。たぶん……昔見たときより、ずっと興奮したような気がする」
「それはどうして?」
小首をかしげる彼女の表情は、食べてしまいたいほどかわいらしく、同時に艶(なまめ)かしい。
また僕を誘惑するつもりかい? 雪……
「雪が、あの頃よりずっと色っぽくなってるからかな?」
「どうして……?」
「それはもちろん、『女』になったからだろ?」
「うふ……ん、やぁねっ」
僕のそんな囁きに、雪は頬を染めた。それから、そのお返しとでもいうように、こんなことを言った。
「だけど、古代君って…… エッチな衣装、好きよね」
「えっ?」
ドキリと心臓が鳴った。
「だって…… 私に水着着せてみたり、浴衣の時もそうだったし、今日だって……」
「あは、あははは…… 男ってのは、そういうもんなんだよ」
まさに図星を突かれた僕は、大焦りしてしまった。そんな姿を見て、彼女は面白そうにくくっと笑った。
最後にやり返されてしまった感の僕は、その焦りをごまかそうと、ベッドの端にあったネグリジェを手に取った。
「しっかし、すごいスケスケだよなあ〜」
それから、以前から疑問に思っていたことを尋ねた。
「どうしてこんな色っぽいネグリジェ、ヤマトに持って乗ったんだ?雪が自分で買ったのか?これ」
「えっ? ああ、ウフフ…… それね、貰ったのよ」
「貰った!?」
またまた心臓がドキリ……
ま、まさか……!? 嫌な予感がする。僕の心の中に不安がよぎり、恐る恐る尋ねてみた。
「昔の彼氏とかって言うんじゃ……!?」
「うっふふふ……違うわよ。それはね……」
かくかくしがじか……
彼女の答えを聞いて、僕は大いにほっとした。それから二人して大いに笑いあった。
深夜、すっかり満足した僕らは、青白く光る月光の下で、再び安らかな眠りについた。
おわり
(背景:La Moon)