月 光
−5−
僕は今度は彼女の前に膝まづいた。
すると目の前には、横長の三角の形をした黒い小さな布切れが、彼女の大切な、そして最も燃えているであろう部分を隠していた。
よく見るとその黒い布に見えたのは、細かなレースだった。縁の方は、波を描くようにひらひらとした繰り返しの凹凸模様になっている。
僕はそれをネグリジェの外からそっとなぞった。
「これ……も、あの時の……なのかい?」
「……ん、う、うん…… これも……しばらくしまったままにしてて……」
これも同じなのか……
そう思うと、僕の心はさらに燃えた。
まるであの時の僕に戻ったような気分だ。初めて雪に触れるかのような、そんな気持ちにまでなるから不思議だ。
「あ…… う、ううん……」
僕は、彼女の足の付け根のあたりで、ネグリジェごしに手を巧みに動かした。
彼女から、またあえぎ声が漏れてくる。きっと彼女のそこはもう既にたっぷりと……濡れているに違いない。
それを確認したくて、僕は膝まづいたまま、ネグリジェのすそから手を中にさし入れた。まず足に沿って下からなぞっていく。ふくらはぎ、膝、太もも、そして黒いレースの……
「あ…… はぁぁぁ」
彼女の膝の揺れが激しくなった。
立っているのも辛いのだろう、僕の頭に両手を乗せて、体をなんとか支えている。ぎゅっと握られた手に、髪を掴まれて少し痛い。
それでも僕は手を止めなかった。僕がさらに行動を進めると……
「ああっ!」
雪の小さな叫び声がみだらに響く。
「すごいよ、雪」
そう言う僕の方も、大変な状態になっている。そろそろ僕の限界も近い。
「雪っ!!」
僕はそう叫ぶと、彼女の黒いレースをすとんと足元まで一気に降ろした。
そして、彼女も協力するように、両足を片方ずつ足踏みするように動かしたので、僕は簡単にそれを彼女の体から取り去ることができた。
僕はそのまま彼女を抱きしめたい衝動を、なんとか抑えて立ち上がると、もう一度彼女から一歩下がった。
支えを失った彼女は一瞬ふらりとよろめいたが、僕が差し出した手を支えに、なんとか倒れずにすんだ。
そしてその手をぎゅっと握り返して、ひどく切なそうな潤んだ目で僕を見つめた。
「ああ、もう……わたし……」
「たのむ、もう一度だけ見せて…… その後には……」
彼女の願いをやんわりと退けて、僕はもう一歩足を下げた。彼女も僕の言葉を了解して、こくりと頷いた。
僕は彼女の肩を掴んで、二人一緒にくるりと半周回った。
すると、さっきとは立つ位置が反対になり、今度は彼女が窓の外の月光を浴びるような形になった。
彼女の全身を見るために、僕は数歩後ろに下がった。
すっかり暗闇に目が慣れた僕には、彼女の姿が鮮明に捕らえらた。
薄い衣がまるで霞のように彼女の全身をおおっている。
そして最も目を引くのが、豊かに盛り上がった二つの双丘。僕の愛撫を受けて、つやつやと艶やかな輝きを見せている。薔薇の蕾も、今にも花を咲かせんがばかりに、美しい紅色に染まっていた。
そして、視線を下におろすと、さっきとは違った光景が…… 平らなおなかの真中にある小さな丸い臍の少し下に、うっすらとした茂みが見えた。
彼女の髪は、色白の体にあわせて、美しい栗毛がかった色をしている。
その茂みは、まさにそれと同じ色だ。それが今、光の加減で、ちらちらと光って見える。これを幻想的と言わずにいられるだろうか。
「すごくきれいだ……雪」
そう告げると、これが今日の僕の我慢の限界だった。
とうとう僕は彼女のほうへ、ずかずかと歩いていって強く抱き締めた。彼女も両手を広げて僕を受けとめ、しっかりと抱き返してくる。
僕はしばらく力任せに抱き締め、衣越しに彼女の燃えている熱い体を感じ続けていた。
「雪……」
僕が顔を上げてそうささやくと、それに答えるように彼女も顔を上げた。
そして一気に、彼女の赤くてかわいらしい唇を奪った。最初は優しく、そしてだんだんと強くしながら、彼女の唇を強く吸い続ける。彼女も同じように唇を強く押し当ててきた。
たっぷりと甘い唇を味わってから、僕は彼女の口を舌で割った。僕にされるがままに、簡単に唇を開けた彼女の口の中へ、僕の舌が侵入していく。
そこで迎えてくれたのは、巧みに動く彼女の舌だった。からめてははずし、するりとぬいてはまた絡む。
舌と舌が、互いの口の間で追いかけっこをしているように、絡めあって遊んだ。唇同志もさっきからずっと強く吸いあっている。
「んふ……」
彼女の喉の奥から鼻に抜けるように、音が漏れた。両手は僕の首にぶら下がるように巻きつけられたままだ。
僕は唇を合わせ吸いあったまま、右手を彼女の胸の上に持っていった。そして強く、また弱く揉む。その度に、彼女の喉がなり、くふっ、と言う感極まった声が漏れてきた。
「雪……!」
僕は彼女をその場で押し倒した。
グイッと肩を押して、じゅうたんの上に座らせ、さらに彼女に覆い被さって体ごとじゅうたんに押しつけた。
「あ……ん、ベッド……」
「だめだ……もう、一歩も動けないよ!」
僕は再び彼女の体にむしゃぶりついた。首筋に唇をはわせると、大きく開いた胸元に、はっきりとキスマークがつくほど強く吸いついた。
彼女のほうも、もう待ち切れないというかのように、僕を強く抱き締め返してきた。
箍(たが)がはずれた僕の欲望は、一気に絶頂へ向う。
「ああ、古代君……」
彼女の口からは甘い声があがり、足は半ば開き加減に僕を誘っている。
「あ、ああ……ん……」
僕の愛撫にあわせるように、彼女の声が切なく響き、腰はくねくねと色っぽく揺れる。
彼女の嗚咽に似た快楽の声は、常に耐えることなくもれ続けている。
時は満ちた……
「雪……いくよ」
そう告げると、僕は、僕自身を一気に挿し込んだ。温かな感触が、僕を包む。
「ああ……」
雪も感極まったような声を出して、満足そうなうっとりとした視線を僕に向けた。
「あったかいよ、雪。ああ、すごくいい……」
腰をゆっくり動かしながら、ネグリジェ姿の雪を見下ろすと、なんとも言いがたいほど興奮と快感が僕の中で広がった。
雪は俺のものだ!!!
そう、大声で叫びたい気持ちになる。あの時に感じた興奮と、そしてその後の喪失感もすべて、この時の快感のためのプレリュードだったのだ……と、今ならそう思える。
雪を見ると、彼女も恍惚とした表情をしている。
僕が彼女の耳元で、愛してる……とつぶやくと、彼女はうふんとくすぐったそうな甘い声を出して、広げていた足を僕の腰に絡めてきた。
ああ…… 最高に気持ちいい。
その快感の波に押されるように、さらに体を動かす。二人でさらに高みに昇ろう……
そう思ったとき、あまりにもの快感の大きさに、僕の体は一気に絶頂に駆け上ってしまった。
しまった!! まだ早いっ!
そう思ったときは、既に遅かった。
最高峰へ一気に駆け登ってしまった僕は、もう解放させるしかすべがなかった。
「くっ、だめだ…… うっ……」
(背景:La Moon)