X'mas in 2200〜Their happiest time〜


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 「スターシア! スターシア!!」

 古代守が、人の背丈ほどある木を担いで外から戻ってきたのは、地球時間の12月24日のことだった。

 「守? どうしたの? それは何にするの? あらぁ、泥だらけよ!」

 「あはは、いいからいいから。これを立てる場所はないかな?」

 くるりとリビングを見渡して、ウンと頷くと、その片隅に持っていった。そこの壁に立てかけると、守はまたすぐに外へ駆け出し、また何かを持って入ってきた。それは土を入れた大きな器、いわゆる植木鉢のようなものだった。それをその片隅にどしりと置いた。

 「どうしたの? これをここで育てるの? 別に珍しい木でもないでしょう?」

 「クリスマスツリーにするんだ」

 「クリ……スマス……ツリー?」

 初めて聞く言葉に、スターシアは首を傾げた。

 「そう、君にはまだ話していなかったよね、地球のお祭りの一つ、クリスマスのこと……」

 「ええ……?」

 「今日はそのクリスマスの前の日、クリスマスイブにあたるんだ。実践で教えてあげるから…… え〜っと、そうだな、君はこれから見せるものを作ってくれないか?」

 「うふふ…… なんだかわからないけれど、楽しそうなお祭りなのね。守ったら、子供みたいよ」

 「ああ、子供も大人も浮かれるんだよ。元々は地球のある宗教の儀式だったんだけどね。だんだんイベント化してきてねぇ。さあ、書けた。こんなのをこの木に飾るんだ。紙とか布とか何を使ってもいいから作ってくれるかい?」

 守が描いた絵は、☆の模様、ヒイラギの絵、プレゼントの詰まった赤い靴下、縞模様のキャンディ、ジンジャーボーイにジンジャーガール、くまの子、赤いりんご、ひげ面赤い帽子のおじいさんなどなど。

 「まあ、かわいいわね。こんなのをたくさん作って飾るのね」

 「ああ、そうだよ。スターシアの好きなものも付け足してもいい」

 「うふふ……いいわ。すぐにやってみるわ」

 よくはわからないが、とても楽しそうな雰囲気をスターシアも感じた。

 「ああ、そうだ。こんな服もつくってくれないかな?」

 守が示したのは、真っ赤なジャケットとズボン。白い襟、白いボタン、白い袖口がポイントの派手な衣装だ。オマケに白いぼんぼりのついた真っ赤な三角帽子。

 「なあに? これ? 守のパジャマにするの?」

 「あっははは…… いいから、いいから…… すぐ作れるだろう?」

 スターシアの頭の中には、またまたクエスチョンマークがたくさん浮かんできたが、うきうきしている守の様子がおかしくて、笑い出してしまう。

 「わかったわ。少し待っててね」

 スターシアは、頼まれた物を作るべく、材料を取りに行きながら、二人の暮らしのことを思い起こしていた。

 イスカンダルで守の生活を始めてから、3ヶ月余り。あっという間に過ぎてしまった。妹サーシャを送り出した後、一人で暮らしていた頃の一日の長さを考えると、雲泥の差だった。

 イスカンダルの様々な事象を守に話して聞かせたり、また反対に地球のことを守から聞いたり、それだけでもまだまだ日が足りないくらい話すことがあった。
 守は、イスカンダルの歴史や言葉にとても興味を持ってくれる。それがスターシアには何よりも嬉しかった。そして、同じほど、守が生きてきた地球と言う星のこともどんどん好きになっていった。

 スターシアは、今の幸せをかみしめていた。

 (守がここにいてくれて、どんなに幸せになったでしょうか…… イスカンダルの神よ、感謝します。そして、この幸せが少しでも長く続きますように……)



 スターシアは、材料を用意すると、守から頼まれた小さな飾り物を作り始めた。はさみと紙とのり、針と糸。小さな飾り達は、スターシアの手で原始的な方法で作り上げられた。まるで子供の頃に戻ったように楽しい作業だ。
 洋服の方は、衣服作成マシーンがある。守のサイズを入力し、デザインをプログラミングする事で自動的に作られる。

 ふと気がつくと、守もやってきて、何やらまた違う飾り物を作り始めている。彼も気持ちは子供に戻っているようだ。
 スターシアがその姿を見て微笑むと、守も満面の笑みを返してくる。言葉もいらない、二人の間のコミュニケーションである。

 そんなことを約半日もしていただろうか。たくさんの綺麗な飾り物が出来た。

 「よしっ! じゃあこれをあの木に飾ろう!」

 二人して、木の枝に様々な飾りをつけていく。守は、その他に綿で作った雪を乗せたり、金銀のモールを巻きつけていく。スターシアは、守がそんなものをどこで見つけてきたのかしらと思うくらいだ。

 だが、王宮には様々な物があった。かつてイスカンダルの隆盛期に使われていたありとあらゆる物が、王宮の倉庫には残されている。守は、暇があるとそこに行ってはいろんなものを見つけ出していた。

 もちろん、各種の生成マシーンもあった。それは、地球の科学の域を遥かに越えるものだった。イスカンダルの現人口2人には十分過ぎるほどのものを、それは供給してくれていた。

 「できた!!」

 守が満足そうに微笑んだ。

 「きれいね……」

 スターシアもうっとりと眺める。初めて見るクリスマスツリーは、二人の手作りの共同作品だった。

 その日の夕食も、守が指示をして、クリスマスらしい地球風の食事となった。ツリーを眺めながらの食事は、それはそれは美味しいものだった。
 食事の間もその後も、守がそれぞれの飾りの説明をしたり、クリスマスの話をして聞かせた。スターシアは子供のように目を輝かせながら、その話を熱心に聞いた。

 「で、この衣装が、そのサンタクロースの衣装なのさ。ちょっと待ってて着てくるから」

 守は、スターシアが作って持ってきた赤い上下の服を持つと、別室に消えた。そしてすぐに、それを着て現れる。が、その姿は、スターシアを笑わせるに余りあった。赤い帽子に赤い服、顔を隠すほどの白い髭(もちろん付け髭)、背中にしょった大きな袋。

 「なあに? おじいさんなの? サンタクロースって…… うふふ…… でも、守似合ってるわ」

 大きな声でスターシアは笑った。守と過ごすようになって、スターシアは本当によく笑うようになった。

 「よい子はどこかな? いい子にしてた子だけに、プレゼントがあるぞ」

 技とらしい演技がまたスターシアを笑わせる。

 「ほほほ…… ええ、私はよい子にしていますわ。プレゼントをくださいな」

 拍手しながら守の演技を見ていたスターシアが言う。守は、彼女の隣りにどっかりと座ると、髭を取った。

 「プレゼントを作る暇がなかったんだよ。だから、これで我慢してくれよ」

 そう言うと、妻を抱き寄せて、熱い抱擁とキスをする。うっとりとそのくちづけを受けながら、スターシアの両腕も守の背中に回った。

 「ま・も・る……」

 唇が離れると、守はスターシアをさっと抱き上げた。

 「このサンタは、プレゼントを渡す代わりに、綺麗な奥様をいただいて行く事にいたします」

 その言葉に、「変な理屈だわ」とスターシアは笑うが、もちろん依存があるわけもなかった。

 あのヤマトが立ったその日、二人は初めて結ばれた。経験のなかったスターシアを、守は根気よく丁寧に愛した。まもなく、守の愛撫をスターシアはいつも待つようになった。
 そして今では、スターシアもたおやかな大人の女になっていた。

 いつの間にか、生まれたままの姿になった二人は、ベッドの中で一つになる。守が妻の絹のような素肌をゆっくりとなぞりながら、愛の言葉を囁く。

 「愛しているよ、スターシア…… いつまでも」

 「あなた……まもる…… 私も、愛しているわ」



 熱い瞬間(とき)が過ぎ去り、二人はまどろむ。守はスターシアの髪をゆっくりと何度もなでている。

 「地球でも今日はみんなクリスマスを楽しんでいるのかしら?」

 遠くを思うように、妻の瞳が微かに揺れる。

 「ああ、そうだな。街は賑やかだろうなぁ」

 「守も、帰っていたら……」

 「それはもう言わない約束だよ」

 守は、少しきつい目で妻を睨み、それ以上の言葉を抑えるように、その美しい唇をついばんだ。スターシアが安心したように微笑む。

 「弟の進さんも……楽しく過ごしてらっしゃるわね、きっと」

 「あはは…… あいつかぁ…… どうだろうな。どうせ、彼女のいない野郎ども同士で飲み歩いてるのが関の山だろうな」

 守は、弟の姿を思い浮かべて笑った。

 「まぁっ! 失礼ね…… かわいい恋人ができて二人でデートしているかもしれなくてよ。ほら、あの雪さんってかわいい人、彼女なんかとてもお似合いだったわ」

 「ぷっははは…… それは無理だよ。あいつにそんな甲斐性があるとは思えん。雪さんは君に似てとても美人だし、とても進の相手なんかしてくれんよ」

 守は大笑いする。弟の性格からしてとてもあんな美人に好かれるほどのスマートさは見せられないと、タカをくくっているのだ。

 「そうかしら……?」

 しかし、スターシアは知っていた。あの時、自分の守への思いを見抜いた彼女は、きっと恋をしていると……
 そして、その相手が、なぜか守の弟、進のような気がしてならなかったのだ。だが、それを確かめるすべは今はなかった。

 「そんな事ないと思うわ。素敵な弟さんでしたもの」

 「ありがとう。そうだな、いつか……」

 守が天井を見て遠い目をした。

 「地球のみんなとまた会える日が来るといいな。イスカンダルと地球が交流できる日が……来ると……いいなぁ」

 スターシアも微笑んで頷いた。二人は既に子供を作ろうと約束していた。そしてもし生まれ来る子があったら、その子らは、イスカンダルに閉じ込めるつもりはなかった。
 イスカンダルを離れられない両親の代わりに地球との交流をその子達に託そうと……

 守は、もう一度妻を抱き寄せて、温かな唇をその肌に這わせ始めた。静かなイスカンダルの夜。二人の部屋だけは、夜遅くまで熱い空気が流れていた。


 2200年のクリスマスは、彼ら全てに等しく過ぎていった。

 It was their happiest Xmas time in the Earth and the Iskandar.

おわり

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(背景:トリスの市場)