飛脚のドップラー効果  (2001.11.20.改訂)


1.壱の段・・・・手紙を出す側が動いている場合


 今は昔。



 仕事で京都に来ている商人が,江戸の留守宅に3日に1度手紙を書いて飛脚屋さんに届けてもらっていました。飛脚の足で京都から江戸までは5日かかるとします。江戸の留守宅では5日おくれで手紙を受け取りますが,それでもやはり3日に1通の手紙が届きます。

 さて,京都での仕事も終わり,商人は江戸に向けて旅立ったとします。東海道の宿場町のひとつひとつをすべて見物しながらのんびり旅をすることにしたので1日に宿場ひとつしか進みません。3日に1度の手紙はその間も欠かさず出し続けるものとして,江戸の留守宅で受け取る手紙のペースがどのようになるかを考えてみましょう。ただし宿場町のすべてに飛脚屋さんがいて,どこの飛脚屋さんも同じ速さで手紙を運ぶものとします。


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 計算の都合で,東海道の宿場の数は59で,宿場と宿場の間隔はどこも同じとします(京都から江戸までを60等分)。京都を出発した日に1通目の手紙を出し,3日目に2通目,6日目に3通目・・・・・と出していきます。60日目には江戸の自宅に到着しますから,商人が出した手紙は57日目の20通目が最後になります。

 江戸の家族に手紙が届くペースを考えてみましょう。商人が旅の間に書いた手紙の数は全部で20通。そのうちの最初の手紙は5日遅れで江戸の家族のもとに着き,商人の帰宅とともに手紙待ちの日々は終了します。商人が旅をしている期間は60日間ですから,したがって江戸の家族にとって,商人の旅行中の手紙が届けられている期間は,60日間より5日短い55日間と考えていいでしょう。すなわち,江戸の家族は55日間で20通の手紙を受け取ったことになります。

 一方,商人が出した手紙は60日間で20通ですから,江戸の家族に手紙が届くペースは,旅先で商人が手紙を出すペースよりも明らかに速いことになります。

 ここからは計算です。飛脚の速さは“12宿場/日(=1日に12宿場を進む速さ)”ですね。商人の旅の速さは“1 宿場/日(=1日に1宿場を進む速さ)”です。商人が出した手紙は60日間に20通ですから,比で表すと20/60 通/日となります。

 次に,江戸の家族が手紙を受け取るペースは55日間で20通というペースです。これも比で表すと,20/55 通/日となります。

 20/60から,20/55を求める公式を推理しましょう。

 少し考えると,



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であることがわかります。

 最後に,f0 = 20/60 通/日 , V = 12 宿場/日, v = 1 宿場/日として,江戸で受け取る手紙のペースをfとすると,



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です。ドップラー効果ですね。



2.弐の段・・・・手紙を受け取る側が動いている場合


 さて,例の商人は江戸でしばらく仕事をしていましたが,また京都に行く用事が出来て再び旅に出ました。今度は前とは逆に,江戸の家族から手紙をもらうことにして,江戸から旅先まで飛脚屋さんに手紙を運んでもらうことにしました。江戸から京都までの宿場の数は59(江戸と京都の間を60等分),飛脚は江戸・京都間を5日で手紙を運び,商人は1日に宿場ひとつしか進まないという条件は前と同じです。江戸の家族が手紙を書くペースと,旅先の商人のところに手紙が届くペースの関係がどのようになるかを考えてみましょう。


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 旅先の商人のところに3日に1通のペースで手紙が届くようにするためには,江戸の家族がどんなペースで手紙を書けばいいかを求めてみます。

 

 江戸を出発した日を0日目として,3日目に1通目,6日目に2通目,9日目に3通目,・・・・と手紙が届いて,60日目には最後の20通目が届くようにします。

    最後の20通目の手紙は,5日遅れで商人のところにつきますから,江戸の家族はそれを見込んで5日早く手紙を出したわけです。すなわち商人が江戸を出発した日から数えて55日目に20通目の手紙を江戸から出したことになります。

 手紙を受け取る側が,出す側からどんどん離れるように動いている場合,手紙を出す側のペースは,手紙を受け取るペースよりも速くなることがわかります。

 計算で求めてみましょう。江戸の家族が出す手紙の比 20/55通/日 を求める式は,前と同じで,



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 となりますが,ここで,手紙を書く側のペースをf0 = 20/55 通/日, 手紙を受け取る側のペースをf = 20/60 通/日,飛脚が手紙を運ぶ速度をV = 12宿場/日 , 商人の進む速度をu = 1宿場/日 とおくと,



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 となります。この式は“手紙をfのペースで受け取るために,出す側が書かなくてはならない手紙のペースf0を求める公式”です。これを変形すると,



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 となります。この式が,止まっている人が,uで動く人宛にf0のペースで手紙を出したときに,相手に手紙が届くペースfを求める公式なのです!

 これがドップラー効果のふたつ目の公式です。



3.参の段・・・・手紙を出す側と受け取る側がともに動いている場合



 さて,先の商人が東海道の1/3程まで進んだとき,大切なものを江戸の家に忘れてきたことに気づき,奥さんに旅先まで届けてもらうことにしました。そこで奥さんは急遽旅支度をして,商人を追って江戸を出発しました。奥さんは追いつくまでの間,今どこの宿場にいるかを商人に知らせるために,手紙を定期的に出すものとします。なお,奥さんの進む速さは1日に宿場2つとします。飛脚は江戸・京都間を5日で手紙を運び,商人は1日に宿場ひとつしか進まないという条件は前と同じです。

 

実は,この問題は非常に難しい問題です。



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 そこで,この街道の途中に関所があって,通過する飛脚の手紙はすべてここでチェックされると考えてみましょう。説明の都合上,奥さんがこの関所を越える以前に限って以下の話を進めます。奥さんが出す手紙のペースがf0であるとすれば,関所の役人がこの手紙を目にするペースf’は,前に説明した考えかたから,



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となります。

 ところで,関所の役人が,これらの手紙を何も問題がないと判断してすぐ飛脚に返してくれれば,飛脚はただちに出発して残りの道のりを進むわけですが,ここで大切なことは,飛脚にとっては,「関所の役人が f’のペースで商人宛に手紙を出している」ことと同じことになっている点です。関所の位置は動きませんから,以下は「動かない人が動いている人に出す手紙」の問題になってきます。

 この問題は前に扱いました(弐の段・・・手紙を受け取る側が動いている場合)。したがって商人が受け取る手紙のペースfは,



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となります。f’に前の式を代入して,



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 最後に,V=12宿場/日, v=2宿場/日,u=1宿場/日とおくと,



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 これがドップラー効果の最終公式です。







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