何も出来ない現状


 

 

 

 

何気にテレビをつけてみると、ニュースではホワイトデーの話題が出ていた。
そうか、今日は3月14日だ。
しかし、私、坂本三四郎、今年はチョコを1個ももらわなかった。ゆえに、何もする必要はない。
下手に貰わん方が楽でいいかもしれんな。
でも・・・、貰いはしなかったが、渡した奴はいる。私の為に大怪我をしたバカ者に。
名前も書かずにポストへ押しこんできた。私からとは分らなかっただろうが、それでもお礼もお詫びも出来ない私が、唯一出来た事だったから、少しでもアヤツが食べてくれればそれで良かった。
アヤツは甘いものが好きそうでないからな。もしかしたら、全部誰かにあげているかもしれんな。
いらん事を考えていると、突然電話がなった。
電話に出てみると、考え事をしていた本人からだった。
「もしもし、坂本さんですか?」
「ちっ、ちたろーか。ど、どうしたというのだ。」
何だってコヤツはいつも、こうもタイミングが悪いのだ。声が上ずるではないか。
「どうしたんですか?変な声出して。」
「何でもない!だから、どうしたというのだ?!」
「この後、坂本さんの所に行きますから、家に居てくださいね。ではまた後で。」
ちたろーは自分の用件だけ言うと、とっとと切ってしまった。
何だと言うのだ!私の都合はどうでもいいと言うのか!毎度の事とはいえ許せんぞ!!
文句は言ったものの、気が付けば、部屋を片付け、いつ来ても良い様にして待ってしまっていた。

 暫くすると、ちたろーは紙袋片手にやってきた。
「何か用か。」
入ってくるちたろーに、早速用件を聞いてみると、あからさまに呆れかえっていた。
「いきなりですね。とりあえず座らせてもらってもいいですかね。」
私としては、まだ何も聞いていないので、まず聞きたいところだが、しょうがない。ちたろーが落ち着いて話すのを待った。ちたろーは対面に座ると、持っていた紙袋を渡してきた。
「これ、坂本さんに。ホワイトデーのプレゼントで、…お返しです。」
思いもよらない用件でビックリした。コヤツは知っていたのか?!
「なっ、何のことだ?」
「いや、だから、ベルギーチョコを貰ったお返しです。」
確かに私がやったのもベルギーチョコだったが、名前も書かなかったのに、なぜ分ったのだ?バレている様だが、私がそんな恥ずかしい事をしたとは認めるわけにはいかん。
「何の事だ?私には覚えがないことだ。」
「何でとぼけるんですか?」
何でって、そんな恥ずかしい事を私がやったなんて言えるわけなかろう!って言えるわけもなく、どうすればいいの変わらず黙ってしまった。
 そんな私を見てちたろーはため息をついた。
「分りました。覚えがないのでしたら、話しを聞いてください。僕は2月14日に『身に覚えのない』チョコをもらいました。それを全部食べたのですが、美味しかったのでお返しをしたかったんです。でも、『誰』に返せば良いのかわからないんです。ですので、坂本さんも『身に覚えがない』お返しを貰ってくれませんか。」
何か白々しい言い訳の様に聞こえたが、言葉上は私からではなくなった様だ。それなら受け取らないわけでもない。それにしても全部ちたろーが食べていたのか。それを聞いて少し気が晴れた気がした。
「しょうがない。受け取ってやろう。」
「はい、はい。どうもありがとうございます。」
何だ、その棒読みの様な礼は!!
ぶすくさ文句を言いながら包み紙を開けると、中身は葛きりだった。しかもその辺のものではなく、きちんと老舗と呼ばれる所の本葛を使ったものだった。
 ・・・私が葛きりを好きだと知っていたのか?!
コヤツは何故こうも先回りして色々とやってしまうのだ。だから私は何も出来ないのだ。お礼も、お詫びも、思い出してやることも。
「・・・坂本さん?気に入りませんでしたか?」
「バカ者!バレンタインのお返しに葛きりなんて渡す奴が何処にいる。」
「じゃ、要りませんか?しょうがない、持って帰ります。」
「バカ者!!誰が要らないなんて言った!折角持って来たのだ、置いていけ。そうだ、丁度おいしい緑茶を貰ったところだ、出してやるから一緒に食べていけ。」
「いいんですか?それじゃ、頂きます。」
そう言ったちたろーは、とてもうれしそうに笑った。
何もしてやる事が出来ないが、それでもちたろーは笑っている。ならば、暫くはまだこのままでもいいのだろうか。
まぁ、悩んでいても答えが出て来ない。まずはこのうまそうな葛きりを堪能するとしよう。


〜 Fin 〜

 

バレンタインへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まことさんより強奪しましたバレンタイン・ホワイトデー話でございます。

まことさんのところのセンサカ話「傍にいる理由」で、坂本さんからのチョコ話がでるかな、でるかな、と待っておりましたところ、時期がずれたためお蔵入りにするというなんとも潔くももったいないことを言われていたので、無理やりバレンタインとホワイトデーのお話を両方とも強奪させていただきました。

ありがたやー。なんていい人や・・・

まことさんはいつもちゃんとイベント前にupされていてすごいです。

俺も、まことさんを見習って、季節感+納期重視でがんばりたいと思ってはいるのですがなあ。三つ子の魂が・・・

お話も千太郎side→坂本さんsideというようになっているところもセンサカ人にはたまりません。

いやはや、ほんとありがとうございました。どうもっす!