お守り
とある土曜日。俺は高杉先輩の家のチャイムを押していた。
間もなくして、高杉先輩が出てきた。
「やぁ、桂君、いらっしゃい。もう皆集まってるよ。」
高杉先輩は俺を招き入れると、奥に集まっているらしいメンバーに「主賓が来たよ」と叫んだ。
そう、今回は僕の為に皆が集まってくれたのだ。
この間、今度の水曜日から研修の為に2週間の出張に行く事になり、これだけの長さでの出張は初めてなんで、少し緊張しているという事を話したら、緒方さんと式部さんが激励会をしてくれると言ってくれた。大した事でもないし悪いので、遠慮しようかと思った。しかし高杉先輩が『皆で飲むのが目的だと思うから、気にしなくていいと思うよ』と言ってくれたので、素直に受ける事にした。
正直、俺の為にそういう事を考えてくれるのはうれしかった。
リビングに行ってみると、ご馳走と飲み物が既にセッティングされていて、メンバーも式部さん達や、等々力さん達も来ていた。
「ちたろー!一番近いくせに遅いぞ。皆、待ちくたびれているではないか。何をしておった!」
どっかから声が飛んでくる。その声は、この部屋の主より偉そうにくつろいでいる坂本さんだった。
「俺は、毎日悠々自適生活のあんたと違って、今日も仕事だったんだからしょうがないでしょう。」
「むっ、そういう言い方はないだろう!」
「あんたの方が先に…。」
「まぁ、まぁ、来て早々。それに坂本さんも心配しての事ですから。」
僕達がケンカになりそうになった所で、堤さんがなだめに入った。
しかし、心配なんて本当だろうか。チラッと坂本さんの方を見てみると、「フン!」といいながら、少し赤くなっていた。
そうなのか。そうならそうと、何で言ってくれないのか。素直ではないと分かってはいても少し寂しい。
それにしても、堤さんはいつでも絶妙なタイミングでフォローを入れられる人だと感心する。式部さんもそのフォローの流れのまま、「主賓も来た事だし、始めようぜ!」と事を次ぎへと運んだ。何ともすばらしい呼吸の合い方だ。相談しての事ではなく、自然にやれるのがすごいし、うらやましいと思う。俺達はあの域まで達せられるのは何時の事だろう。いや、まず達せられるのだろうか…。
何か、来て早々だが、考えて込んでると落ち込んで来る。
今日は飲むぞと心に決め、席に座ると、緒方さんの音頭で会が始まった。
「では、桂君の初の長期出張が上手くいく様に、安全と検討を祈って、かんぱーい!」
緒方さんがグラスを上げると、皆も「乾杯!」と大きくグラスを上げて、各々のグラス同士をぶつけた。
宴会もある程度過ぎると、食べる事よりも仲間との話に花が咲いていた。
僕は、坂本さんが緒方さんと何やら話しているのに、やはり気になって、聞き耳を立ててしまっていた。
「坂本さん、桂君には何か励ましの言葉でも言ってあげないんですか?」
「何故、私がその様な事を言わなければならんのだ?」
「桂君だって坂本さんに励ましてもらえば、頑張れると思いますよ。」
「そうだな、あやつが言ってくれと頼むのなら、言ってやらんこともない。」
「また、坂本さんたら…。」
俺はそこまでしか聞いてられなかった。
俺はいたたまれず、トイレに立つ。
最初に気落ちをしたし、元々の仕事への緊張もあってナーバスだったのに、さらに気が落ちてしまった。せっかく自分の為に、皆が集まってくれているのにと思うと、ことさら自己嫌悪におちいっていく。
トイレから戻って見ると、皆楽しそうに話している。坂本さんも楽しそうに笑っている。
俺は不意に携帯を取り出し、そんな坂本さんをカメラで撮っていた。
そして、すごく綺麗な笑顔を携帯のメモリーに残していた。
「何を盗撮なんてしてんだ?」
「うわっ!」
思いもよらず、後ろから声を掛けられてびっくりした。
振り返ってみると、等々力さんが立っていた。
「等々力さんこそ、こんな所で何してるんですか。」
「俺は氷が無くなったから取りに来ただけさ。で、何なんだよ。」
"ほら、言ってみ"という顔をする等々力さんに、俺はごまかし切れずに話した。
「俺の為に集まってくれた、この場の写真があれば、励みになるかと。」
俺が撮ったのは坂本さんだけだったが、恥ずかしさから嘘を言ってしまった。
「何だ?!緊張してるのか?」
はい、とは言辛く、黙ってしったのだが、その辺は汲み取ってくれたみたいだった。
「まぁ、俺は出張とかからは縁遠いから、偉そうな事は言えないが、まだ若いんだし、成功する・しないが問題じゃなくて、経験が大事なんだと思うよ。」
等々力さんの言葉で、肩にあった何かが取れた気がした。
俺は成功ばっかりに気をとられ、やる前からあれこれ考え過ぎていたのかもしれない。
「そんなに不安なら、お守りでも大量に買い込んでいけば?!」
等々力さんは笑いながら、からかう様に言った。そして笑いながらリビングへと戻っていった。
お守り…、それならさっき良いのを手に入れた。
ポケットにしまった携帯を握り締めると、本当に頑張れる様な気がしてきた。
何か軽くなった俺は、会を楽しむ為にリビングへ戻っていった。
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忙しく歩く人ごみの中、俺は東京駅のホームに立った。
電車が来るまでに間、携帯を取りだし、写真のメモリーを引き出した。
仕事への不安が完全に無くなったとは言いきれないが、吹っ切れていた。今はそんな事よりも、この人に2周間も会えない事の方が不安になっていた。
それでもこのお守りがあれば何でも乗り越えられる、きっと。
携帯をしまい、よしっ!っといき込んだところにメールが入った。
誰からだろうと表示を見ると、坂本さんからだった。
普段はそんな事しないので、文字面をみても信じられないでいたが、反面、期待にいっぱいで、手が震えてしまっていた。
何とかし、メールを開いてみると、簡潔に文が書いてあった。
『帰りを待ってるぞ。がんばってこい。 坂本』
こんな短い文だが、普段はしない事をしてくれているという事実が、その価値を高めていた。
うれしい。これ以上に励まされる事はない。
俺もただ『いってきます』とだけ書いて返送した。
思いもかけず、お守りが2つに増えいた。
これで俺は何があっても頑張れるだろう。
そして駅のホームには、戦闘開始を告げるベルが鳴り始めた。
〜 Fin 〜
→2
まことさんのところの807hitを踏んでいただきましたセンサカ小説です。
リクエストは「携帯関係でセンサカ話」ということでお願いしました。
隠し撮りしている千太郎がかわいいですなあ。
お守りは持っていても腐るものではないので、たくさんもっていって欲しいものです。
お守り購入先→やはり、杉様か?なんとなく、学生時代の写真は坂本さんがなんでかいつも一緒に写ってそうですが、千太郎それ見て微妙な思いをしそうですな。
タカ・オガ邸で杉様アルバムを物色中に、
「高杉先輩、坂本さんだけの写真ってないんですか?」
「桂君、そんなの僕が持ってるほうが怖いと思うけど・・・」
「そうですね・・・」
なんてな・・・
とりあえず写真借りて行って、パソコンで加工しろ。と、とりあえずすすめてみたりして。
まことさん、ステキなセンサカ話をどうもでしたー!
まことさんへのぺーじは、こちら。