血の起源

かつてイランの野外の邸宅で状況劇として上演された物で、
その上演記録を元に寺山修司生誕70周年の記念の年に日本初上演となった。

演出・栗田芳宏さん、音楽・宮川彬良さん、装置・朝倉摂さん、企画・メジャーリーグ、
この所意欲的に取り組む精鋭の方々だ。

主要キャストは女、安寿ミラさん、下男、舘形比呂一さん、訪問者、西島千博さん。
他に少年、高塚恵理子さん、役者、栗田さん、少女たち、ダンサーさんたち。
東京北千住シアター1010で幕を開け、大阪は5月10日の一日2回公演のみ。

この「血の起源」凄い劇だった。
まず水舞台。能舞台のような作り、舞台下手から廊下があり中央に四角いプール。
そのふちはもちろん歩けるようになっていて、中には水がはってあるのだ。
舞台上手へもはける道があるが、芝居はほとんどこの四角い水舞台で行われる。

ダンサーたちは水しぶきをあげながら踊り、
ひとりの女とふたりの男が
水の中で人間の営みを踊る。
女は子を産むが、子は顧みず男を見つめつづけ、
子は母親を求めて捜す
女だけが詩のようなセリフ言い歌を歌う。
その他は全部ダンスとムーブメントで見せるのである。

分からない方もいたようだが、私は「分かった」というより色んなことを「感じた」
水の張られた舞台は、女が生きた狭い家、村であり、畑でもあるが、
母の胎内というイメージが一番強い


子宮が満たされている時、
つまり妊娠中はお腹に幸せが宿っているような気がしていた。
お腹を慈しみ産みの苦しみをまだ知らない女から母へと変ぼうする過程での
穏やかな数カ月であった。
「妊娠したい」という女の言葉はよく分かる。(育てる方がしんどいのさ・笑)
お腹に幸せを宿すものだからだ。
母体もまた子との一体感を味わえるものだからだ

この舞台では出産の神秘も流れる血も表現されていた
演出家は男性なのに何故ここまで表現しえるのか?
男性だから表現出来たのかな。

しかし、この「女」の場合は違った。
「限り無く妊娠したい」のであり「皆、捨て子」なのである。
孕むだけ孕み、後はお腹の外へ捨てるのである。
そのシーンの蝉の声がやけに耳に残っている
出産ではないのだ。
だから子は彷徨う。お腹の外に捨てられたのだから。
なんという宇宙感であろうか。

どこが外でどこが内なのか、何が生で何が死なのか
入口だと思ったら出口であり
産まれたと思ったら捨てられ
ほんとに迷路である

芝居も終盤近くに「女」がつぶやく
「私はひとつぶの麦を蒔いた。
私がまいた麦を雀が食べた
私がまいた麦を食べた雀を男が撃った
私がまいた麦を食べた雀を撃った男を私は愛した
私がまいた麦を食べた雀を撃った男を愛した私は子どもを産んだ
私がまいた麦を食べた雀を撃った男を愛した私が産んだ子どもが麦をまいた」
(覚えちゃったわ^^;
寺山修司さんと親交のあった谷川俊太郎さんの絵本
「これはのみのピコ」みたいなんだもの)


「子どもを産んだ」
その時、始めて自分で口にする。
それまでは、子どもなぞ男と結合の結果生じた物でしかなかったのだ。
だが「皆、捨て子!」

男達が去ったあと女は葛藤する
終幕は今迄の展開にくらべるとハッピーエンドへ直結のようだが
高塚恵理子少年の母を恋うる慟哭と
安寿母のじわじわとにじみ出て来る(あふれだす羊水のように)
母性に一気にゴールに達することができる。

だが、このゴールも世に言う母子のハッピーエンドではない
子は求めた胎内世界にもどり、母は「誰もどこへも出すものか〜!」と叫ぶ
(「胎外へ出すものか〜!」つまり「産まない」ということではないか)
歪んでいる。歪んでいるにも関わらず観客は満足する
まったく倒錯した世界なのである。

だが、そこへ「死」が訪れ母は消え、子は羊水の中に取り残されたままだ。
「生まれなくても家族のうち」だったのかもしれない。

母と子についてはそんな感じを受けた
(明日には違うことを思っていたりして^^;)

男は女にくらべて雄、雌の記号のごとく符号的存在であった。

舘さんの男は「血」をつなごうとし、西島さんの男は女と交わるために彷徨っている。
が、哀しきかな妊娠するためには男がいるのである。
芝居なかば、舘さんの後を黙ってついていくヤンさんの姿に
ひとりでは生きていけぬ女の弱さを感じた。

男は女を責めることをせず
ひたすら愛をそそぐ。

一度は別の男に取られたと思った女を取り戻した館さんのダンスのはじけっぷりは凄かった。
すっころぶこともおかいまいなく踊り狂ってらした。

第2の男、西島さんは独特のメイク表情身体の動き、
女に快楽を与えるのが使命のような踊るドンファン‥‥^^;

そしてヤンさんはこの「血の起源」栗田バージョンでの求められた所を過不足なく
そして透明感あふれる美しさと妖しさをプラスして演じきられたのではないかしら。
やりすぎるとエグくなる、あっさりでは官能はくすぐられない。
母と女のバランス感覚も含めてほんとに素晴らしい女優さんだな〜〜と
またまた惚れ直しちゃったりなんかして〜〜〜ジュル(笑)
心地の良い歌声‥‥♪かざみどり〜〜の「り〜〜〜」の響きなんて大好きでたまりません!

やっぱり最後はミーハーモードでした。

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終わり

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