お茶屋の時間 第4回 岩手のお茶「気仙茶」その1

ここ3年ほど、年に一度中国の茶産地に行き、農家に泊めてもらい、茶畑に行きお茶づくりを見た上でお茶を買っていました。お茶の樹の育つ環境や栽培方法を理解した上で、出来上がったお茶を判断するための研究でした。しかし、年に一度、数十キロしか買わないお付き合いの中で、私の求める栽培や管理の方法があっても希望通りにしてもらうのは難しく、悩んでいました。

中国茶も日本茶も同じお茶。ならば日本国内に私の求めるお茶があるかもしれない、と考え、九州や山陽のお茶を取り寄せて、あれこれ検討を始めました。

そんな時、岩手県の沿岸南部、気仙地方の「気仙茶」を思い出したのです。気仙茶とは気仙地方で江戸時代から作られてきたお茶です。以前は摘み取った茶葉を鍋で茹でてから揉んで乾かすという作り方でしたが、数十年前から、地域で煎茶製造の機械を導入し、一般的な煎茶と同様、蒸して作る煎茶となりました。この「気仙茶」の茶葉を摘んで、自分でお茶を作ってみたい。気仙にはきっと、肥料も農薬も使わない、半野生化したお茶の樹があるに違いない。それを摘んで、お茶にして、台湾で勉強した方法で焙煎をかければ、きっといいものができるのではないか、と突然思ったのです。

前々から、友人を通じて「気仙にお茶がある、日本北限のお茶だよ」と聞いていたし、気仙で勤めていた人から「気仙には雲南省の千年古茶みたいな大きなお茶の木がたくさんある」とも聞いていました。大きな木の話は半信半疑で、ずっと動かずにいたのですが、昨年10月、急に気仙茶づくりに心が奪われました。こういう時は天からの声が聞こえているに違いありません。

 気仙行きはとんとん拍子に進み、農業改良普及センターさんや農協さんの案内で、何年も摘んでいない茶園を見せてもらいました。蔓草や雑草が繁茂し、荒れ放題の茶畑でしたが、樹齢100年に近いお茶の樹は、勢いよく、たくさんの花を咲かせていました。もちろん農薬も肥料も使っていない茶畑です。花の香りは、とても清んで心地よいものでした。その場で、この茶樹から来春にお茶を摘ませてもらうことを申し入れました。

 農業改良普及センターでは、所長さんが平成3年のお茶を「これはもう飲めないだろうけど」と言いながら倉庫から出して来てくれました。13年も前の煎茶。でも、飲んで見ると、嫌味がなく柔らかで、よい甘みが出ていました。プーアール茶を始めとする中国や台湾のお茶の中には、数十年も寝かせて飲むものがあります。これは、特殊な条件を備えたお茶だ、と思われ勝ちですが、私たちは決してそうではないと思います。自然に近い環境で育ったお茶ならば、何十年も置くことに耐え、時間をかけることでしか得られない甘みが出ると考えています。13年物の気仙茶はまさにそれを実証していました。気仙茶の、茶葉の力を確信した出来事でした。

 その後、できるだけ古いお茶を、と条件をつけて、農協の在庫を送ってもらいました。1キロ単位で包装されたお茶は、多少品質のばらつきがありましたが、どれも総じてすっきりとした甘みを持つお茶で、焙煎を工夫することで、雑味なくすっきりとした甘みを楽しむことができるお茶になりました。

 私にとって、気仙茶は長い中国・台湾でのお茶修業の後に出会った、地元岩手の宝のお茶です。

(「家と人。」11号 2005年8月10日発行 泣潟買@ープレス社 掲載)
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