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D A Y S
2day by 加奈子







朝起きて、まずすることっていえば、キャラ作りだったりする。
これって意外とムズカシイ。
周りからどんな目で見られてるか、ちゃんと計算しとかないと『クウキヨメ!』って引かれるからね。
ま、私なんてチャラキャラだから、せいぜいマジなとこ見せなきゃいいんだけどさ。
オトメ路線な思考回路をチャラキャラに置き換える。
メイクが終わるころには、鏡の中のあたしとキャラが噛み合う。

「よしっ、いいオンナぁ〜!」
「加奈子、あんたいい加減にしないと遅刻よ!」
「わあってる!」

リビングから響いた、かーさんの声に制服を羽織った。
鏡に映った自分に頷く。

「完璧。じょしこーこーせーのできあがり」

バックを持って、部屋の扉を開けた。
ダイニングのテーブルに置かれたピンクの花柄のお弁当包みを持ち上げ、あたしは携帯メールを打ちながら「いってきまーす」と家を出た。
「うぉっ、さむっ」
ついこの間まで暑かったのに、なんか急に寒くなった。
やばい、老化現象?私ってそんな冷え性だったっけ?
そんなこと考えながらメール打ってたら、手前の路地からオジサンがチャリで飛び出してきてぶつかりそうになった。
「危ないなっ」
私が抜群の反射神経でよけてやったっつーのに、何が気に入らないのかこのオジサン、ガンとばしやがった。
謝れってことらしい。
さすがにここで言い返すなんて青いこと、私はしないよ?
ただ、おもむろに携帯をオジサンに向けて写メった。
「な、なんだ、お前」
「・・・・」
ぴろりろ〜ん♪って間抜けな音楽が流れると、オジサンは慌てて背を向けてチャリを飛ばした。
「ぶっ・・・!」
どんだけ元気なんだよっ!?と思わず笑った。
サイトにでも投稿されるって思ったのかな?
私はくすくすと笑いながら、ガッコウまで歩いた。


夏休み明けから、私らのガッコウ前のコンビニに、新しいバイト君が入った。
ここのところ、朝が苦手な私がちゃんと自分で起きれてるのは、実はこのバイト君のお陰。
今年の夏は、ちょっと遊びすぎちゃって、オトコにうんざりってーか、騙されたってーか、そんな感じで。
だからとーぶん「オトコ断つ!」なんてエリに宣言してたんだけど、中学1年の頃のように、顔を見れただけで幸せ・・・なんて気分になっちゃってる。

ネームプレートにはひらがなで『もちづき』って書いてある。
店長が「ユキ」って呼んでるのを聞いたことある。
多分、二十歳前後。
私よりは年上。
午前中、10時くらいまでのバイトだ。
ユキ君はどっちかーってーと、草食って感じ。
喰うか喰われるかってなったら、ぜってー喰われちゃう人。
今までのオトコがどっちかってーと"イケメン""肉食獣"だったから、ユキくんみたいな"アキバ系"は初めてで。
「あんたどんだけストライクゾーン広いの?」
ってクラスでちょっと引かれた。
ま、エリは定形外で、「今までの男に比べたら、マシだよね」って笑った。
「加奈子は直情的だから、あんま押して拒否られないよーにね。そんで中身は乙女ちゃんなんだからさー」なんてアドバイスまでくれたよ。

「いらっしゃいませ」
コンビニのドアを押すと、いつもの挨拶。
レジに居るユキ君を見ないように、私はさりげない風を装ってお茶を選ぶ。
チャイムが鳴ってるけど、私は手にした商品をレジに持って行き、そこでようやく今日のユキ君をチェックする。
やぼったくなりそうなギリギリのとこって感じの髪型。
人畜無害そうな、ヤバイ感じが少しもしないような笑顔。
もしかしたら普段の私たちの会話聞いたら、真っ赤になっちゃうんじゃね?ってくらい純真って感じ。
みんなと同じ時間に行ったんじゃ、私の存在なんて気づいてもらえないだろうから、こうやってわざと朝のSHRの時間ギリギリにかけてる。
やっぱこんな時間に悠長にしてるなんて数えるほどしか居ない。
私なりの涙ぐましい努力の甲斐もあって、ユキくんは「また遅刻だよ?」と話しかけてくれるまでになった。
「だいじょーぶでーす。あ、レシート、いいですぅ」
いつものやりとり、小銭を受け取る瞬間が一番キンチョーするなんて気づかれてないよね?
「ありがとうございました」
その一言に、きゅんとなってる私って、なんかすっげー可愛くない??
派手派手しいメロディーが鳴って、私はレジ前で携帯を取り出して耳に当てる。

「もっしーぃ」
『おはよー加奈子。そのキャラやめろって。いやあ、今日もメイクばっちりじゃん』
「第一声がそれかよ」
『あはははは、まだ店内、店内!』
「・・・おはよー。・・・・つか、今行くし」
『ユキ君情報〜。ユキ君は"ヨシユキ"君っていうんだって』
「え、まじでっ?なんで!?エリなんで知ってんの!?」

急に言われて、思わず立ち止まったまま3階を見上げる。
エリが上半身を乗り出して、手を振ってる。

『知りたい?情報料、ホットミルクティーね』
「ああん!?」
『顔、顔崩れてる!!』

くくくっと笑い声にレジを盗み見れば、ユキ君ことヨシユキ君が口元に握りこぶしあてて、笑いを堪えてる。
私はくるっと向きを変えて、レジ前のホットコーナーから紅茶を選んでレジに置く。

『加奈子、学祭誘ってみ?多分オッケーもらえるよ?』
「・・・それ、マジなの?」
『そ。マジ。あ、早く早く!かわもっちの小言攻撃聞こえてきた!!』
「うぁ、嘘、ちょっ」

「140円になります」
レジ袋にペットボトルを入れながら、ユキ君はいつもどーりの笑顔で言う。

誘うんなら、あんま負担になんないよーに、かるーく言いたいじゃん。
こんな急に言われてもコトバ浮かばないよっ!
私は携帯の向こうのエリの「早く」という声に急かされ、テンパッた頭で別に今言わなくてもいいんじゃんってことすら気づかなかった。
だから、お金を渡しながら、私は声をあげた。

「あのっ、学祭、遊びに来ません、かっ!できれば、一緒に・・・・って、ぎゃっ・・・・!」

今までの努力が水の泡ってくらい情けない声と顔だった、と思う。
くそう、泣きたい。
引かれたらどーすんだよっ!
だけど、ユキ君は一瞬驚いたように私を見て、その後爆笑した。

「おもしろいね、君って。俺、バイトでナンパされたの初めて。」
「うわっ、そんなんじゃ・・・」
「え、違うの?なんだ、嬉しかったんだけど。必死って感じ、なんかいつもと違って可愛かったのに。」

不思議、なんでアキバ系なんて思ってたんだろ?
ユキ君、ちょっとキャラ違う?
悪戯っぽく瞳を細めたその表情は、どう考えても肉食獣。
今までの肉食獣とは質が違う。
そんな気がする。

ゾクッと背中に甘い痺れが走った。
ヤバイ、私マジで好きになりそうっ・・・・!

『加奈子、走れ!』
「え?」

携帯から、エリの声が響く。
私は袋を受け取ると、「ナンパ、受けたんだよね?もう予約だから!」と言って、コンビニを飛び出した。

「了解」

背中越しに言われて、私は思わず正門前で叫んだ。

「エリーさんきゅー!!!!!」










2007,10,24





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