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D A Y S
1day by エリ
3階校舎から見下ろしていると本当に学校って収容施設だよなって思う。
まあ別に、あの壁を越えて出てなんか行かなくても、授業中だろうと休み時間だろうと、正門から堂々と出入りできるから、この収容施設は恐怖の対象でもなんでもないけど。
朝礼のチャイムがなってもダラダラと登校してくるお仲間たちを見下ろしながら、あたしは携帯を取り出してリダイヤル履歴から『加奈子』を選んで押した。
呼び出し音が数回して、だるそうな声が聞こえてから、あたしは耳元に携帯を寄せた。
『もっし〜?今コンビにで会計中なんですけどぉ〜』
加奈子が電話の向こうで『あ、レシートいいです』という作ったキャラ声で言うのが聞こえる。
あのコンビニ、絶対うちのガッコの生徒のお陰で成り立ってると思う。
正門から道路を挟んだ反対側のコンビニの、手前のレジで携帯片手に最近ストレートに矯正したばかりの髪をかきあげる加奈子を見つけた。
この時間、あのコンビニのレジには、加奈子好みのお兄さんが居る。
わかりやすいやつ。
加奈子も3階の定位置を見上げた。
うわっ、今日もメイクばっちり。
この距離で、ガラス越しでもまつげが見えるんじゃね?ってくらい気合入れてる。
「遅くね?もーかわもっち来るんだけど?つか、その声キモっ。」
『エリに言われたくないし。あ、ねー今日発売日だった、買ってく?雑誌、それとももう買った?』
ビニール袋を笑顔で受け取ると、加奈子はそのまま雑誌コーナーへと向う。
「いいよ、買わなくて。ちょ、とにかく、早く来いっつーの。やばいって、今日小テストやるらしぃんですけど」
廊下でサキサカがかわもっちに説教されて喚く声が聞こえる。
ピアス開け過ぎてうざいって、あれだけ言ってやったのに、なんでそんな開けるかな〜?
かわもっち、嫌いなんだってば、耳にいっぱいつけてるヤツ。
『げ、まじで?すぐ行く。』
あたしは終了ボタンを押そうとして、いい忘れたことに気づき「あ!」と声を張りあげた。
窓枠に寄りかかっていた何人かが、びっくりしてあたしを見たけど、あたしはそのまま視線をコンビニへ戻す。
店から出てきた加奈子が、見上げもせずに道路を横断してくる。
『なに?声でけーよ』
「おはよう、加奈子」
『は?』
「おはよー!いい忘れてた。」
『はぁ?・・・・・ったく、なんだっツーの?』
うけるーって大笑いしてる加奈子の声が凄い割れて耳に届く。
や、まじで大笑いしてるから、携帯からじゃなく、生で声が響いてる。
だけど、ひとしきり笑ったあと、加奈子はめちゃくちゃ可愛い声で言った。
『おはよ、エリ。』
終了ボタンを押すと、サキサカがふきげんそーな顔で入ってきて、すぐ後からかわもっちが入ってきた。
「これ以上増やすなよ」
斜め前のいいんちょの机にぶつかって、謝りもしないでサキサカはあたしの隣のヤツの席にどかっと座った。
「ほらね、だからいったじゃん。」
「うっせっ」
あたしが笑いながらいうと、ぎろっと睨まれる。
180のヤツは座ってもでかい。
でも、顔はキレイな顔してるから、睨まれてもちっとも怖くないんですけど。
むしろカイカン?
「委員長、号令」
「きりーつ」
ガタタタタ
何だかんだ凄いのは、例え惰性だろうと号令かかればこうしてみんな立ち上がるとこだと思う。
「れー、ちゃくせきぃー」
いいんちょの声は結構好き。
絶対どんなに言われても「起立、礼、着席」と言わない、あのやる気なさげなところ、嫌いじゃない。
なのに、いいんちょ、なの。かわいそ。
「づあーっ、っかし、なんでこんな暑ぃーんだよ?これで10月?ありえなくね?」
頭を下げて、顔を正面に向けないまま椅子に座る。
ボタンいらないんじゃん、と思いながら、第4ボタンくらいまで開けっ放しのシャツの下の素肌を見た。
あ、ヤナ感じ、あんなとこに引掻き傷。
ムカつく。
アリエナイのは、お前の存在だっつーの!
何、その目、やらしい。
天然タラシめ。
あたしは隣の席になった特権とばかりにジロジロとサキサカを眺め倒す。
「エリチャン、シカンシナイデ」
「ああ、ごめん」
にっこり笑うサキサカに、あたしもにっこり笑う。
「あ、おはよう、サキサカ。」
「・・・オハヨウゴザイマス」
「はー、間に合った。」
加奈子がどさっとあたしの後ろの席に座ると、かわもっちが「間に合ってない!」と怒鳴った。
開けっ放しの窓から、風が吹きこむ。
サキサカの耳にかかるサラサラの髪が揺れてピアスが光る。
あれ、プラチナだ。
いくらかけてんだろう?
――つか、何個目よそれ?
胸の奥がざらついて、あたしは窓の外を見つめた。
今日も一日が、始まる。
2007,10,5