今、突然、俺の中で、とーこが"女の子"に変わる。
「とーこ、ちゃ・・・・!」
「とーこ、帰るぞ。」
直人が声をあげると、とーこが振り向いてにこりと笑う。
その笑顔に、とーこの中にある気持ちが全部・・・あらわれてる。
「関君も行こう?」
「雄介も行くだろ?」
二人揃って言うから、俺はたまらず笑い出して「もちろん行くよ」と答えた。
わかっていた。
とーこが誰を好きかなんて。
直人が、どんなにとーこを信頼してるかなんて。
だから、俺の中で芽生えた恋は、花開くことのない想い。
とーこを好きだって思ったその瞬間、俺はすでに失恋していた。
(なんだろうな。これって。)
自分の想いに苦笑しながら、俺はしゃくりあげながら下りてきた有菜の肩に、おばさんから預かった上着を羽織らせた。
有菜にとって継母になるおばさんは、生まれたばかりの赤ちゃんを抱きながら俺の家まで来た。
有菜が不安定になってること、家で上手く気持ちを伝えられなくなってること、心配してるんだ。おばさんも。
「心配してたぞ。」と伝えると、有菜は体を固くした。
「それじゃ、あたしん家から、有菜んちに電話しよう?」
とーこが明るく言うと、有菜は「え」と声を詰まらせて、助けを求めるようにとーこの上着の裾を握りしめた。
指先が微かに震えていて、じんわりと新しい涙が浮かんできている。
「・・・一緒に言ってあげるから。ちゃんとおばさんに思ってること、言おうね。」
とーこの声に、有菜はこくんと頷いた。
俺たちは一緒になって、安堵の息を吐いた。
俺も、直人も、そしてとーこも。
多分、あの日から、有菜を甘やかすようになったんだ。
少しずつ変化していった俺たち。
成長していく過程で、俺たちは、それぞれがそれぞれの想いや立場で、時に・・・罪悪感から、有菜に対して手を差し伸べてた。
「有菜、急いで!」
「待ってっ・・・雄介」
9月に入り、二度目の土曜。
レッスン帰りに慌てて飛び込んだ電車。
これを逃すと1時間待つことになるから、ホント間に合ってよかった。
思わず胸を撫で下ろして、手摺に寄りかかった。
有菜も肩で息をして「次でもよかったのにぃ・・・」と恨めしそうに俺を見上げた。
(冗談じゃないって。)
遅くなればなるほど、有菜の周りには何故か変な奴らが群がってくる。
面倒に巻き込まれるのは最小限に抑えたい、と常々思っているんだけど・・・それがもろに顔に出たのか、有菜がむうっと顔を顰めた。
そんな表情は直人やとーこには効果覿面なんだけど、俺はただ肩を竦めて「金欠なの」と呟いた。
1時間時間を潰すとなると、有菜はきっと駅前にあるお気に入りのカフェに行くって言い出すから。
「聞いてほしかったのに・・・・。」
「聞いてるだろ?別にここでだって聞けるし。」
「だって・・・」
俺の素っ気無い言葉に、有菜は不満顔だったけど、気がつかないふりしてケースを足元に置いた。
(毎日聞いてるし)
"聞いてほしい"ってのは、今有菜が一番気にしてる奴のこと。
野球部の谷沢の話だ。
直人のことで落ち込んでたと思ったのに、こいつときたら夏休みが明ける前に「好きかもしれない・・・」なんて耳打ちしてきたんだ。
向こうから告白してきたらしいけれど・・・。
「そんな気になるんなら、付き合えよ」
「えーでもぉ・・・」
自信があるように見えるのに、実際はそうでもない。
わかっているけれど、普段もう少し気持ちを抑えてくれたら・・・と頭を痛めているから、そのギャップに時々イラつく。
混み合っていたわけじゃないけれど、空いてる席はなくて俺たちはドア脇の椅子の前に立っていた。
出入り口付近は人が多いから、他の人の邪魔にならないようにケースを両足で挟んだ。
有菜もフルートのケースを縦に抱えようとして、有菜の後ろに立つ背の高い、敬稜の制服を着た人にぶつかってしまった。
「ああぁっ!!ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫です。」
「あ・・・!」
「・・・こんばんは。」
驚いた顔の後に満面の笑みを浮かべた有菜とは対照的に、一瞬顔を強張らせたように感じたその人は、次の瞬間には眼鏡を少し押し上げて、どこのモデルだよ?ってくらいの爽やかな笑顔を見せた。
多分、女の子ならみんな見惚れてしまうような笑顔。彼の目の前に座っていたOLさんが、頬を染めるくらいの破壊力の。
「こんばんは。部活ですか?」
有菜もつられてますます笑顔になりながら、彼の背中にあるラケットバックを見つめて首を傾げる。
「そう、練習試合。・・・何か習い事の帰り?」
「はい。」
どうやら顔見知りらしい会話に、少しほっとする。
有菜はとかくマニアックな人種から好かれることが多いから、声をかけてくる相手に無意識に警戒心を抱いてしまう。
当の本人はまったくそんな感覚を持ち合わせていないのだから、不公平極まりないと常々思っているのだけど。
(ま、こんな美形なら女子のほうが放っておかないか。)
そんな風に思いながら、2人を交互に見ていて、俺は心の中でぽんと両手を打った。
(ああ、そうか、この人が。)
「坂本さん?」
唐突に声をあげてしまい、慌てて口元を片手で覆った。
名前を呼ばれたかたちになった彼は「はい?」と俺に向き直り、穏やかな笑みを浮かべた。
そう、有菜から聞かされてた、とーこの王子様。
聞かされた時は、なんで王子?と思ったけど、なるほど、こうやって本人を前にすればその言葉ほどこの人をぴったり表現する言葉はないと思える。
174の俺が見上げるってことは180は超えてる。だけど、厳つい感じはしない。
それは顔立ちがキレイで、全体的に線が細く見えるからだ。
(やっぱ王子。)
でもよく見れば肩幅はしっかりあって、腕にはちゃんと筋肉がついている。
ラケットバックを持ってるってことは、テニスだろう。
(テニスって、爽やか、だな。)
眼鏡をかけていても冷たい印象にならないのは、柔和な笑顔の所為だろう。
さらりと落ちてきた前髪に、その印象的な瞳が隠された。
普通に制服を着ているだけなのに、何故かセンスの良さを感じるほどで。
(って、何観察してるんだ?俺!?)
「?」
上から下までまじまじと見ていた俺の視線に、坂本さんは不思議そうに首を傾げる。
(俺、恥ずかしいことしてる!?)
「あ、の、」
慌てて挨拶しようとすると、彼はくすっと笑って「こんばんは」と先に言った。
「ええと彼は・・・?」
「そっか、雄介は初めてだった!ん、と、こちらとーこちゃんの学校の先輩、坂本さん。で・・・」
「関です。はじめまして」
たった一つしか違わないのに、物凄く年上の人と話しているような感覚になりながら、緊張した声で名前を告げた。
そんな俺の様子を見て坂本さんは穏やかな笑みを深めて「もしかして緊張してる?顔、強張ってるよ。」と苦笑した。
見透かされてしまうというのは、なんというか落ち着かない。
あの直人が焦ったというのも・・・わかる気がする。
「今日、とーこちゃん一緒じゃないんですか?」
有菜がきょろきょろしながらそう言って、フルートケースを持ち直した。
「とーこちゃん?今日はチアは部活なかったと思うけど。練習試合は付属大のサークルとだったし。」
「あ、そっか!今日は直人君の練習観に行くって言ってたかも!」
自分で振っておきながら、自分で答える。
有菜らしいといえばそれまでだけど、それは無駄に付き合いの長い俺らだからわかることで、突然巻き込まれる坂本さんには「は?」って感じだろう。
なのに、彼は表情を崩さずに静かに聞き返した。
「直人・・・三上君が?何の練習?」
「小学校のミニバスの!臨時コーチやってるんですよ!」
「ふうん。バスケやっていたんだ?」
「中学までは。でも一番凄いのは陸上なんですよ!もー凄く足が速くて。」
「そうなんだ?」
「ハイ!だから中学でも一番もててたんです。」
「へえ。」
「今ももてるんですよ?あ、坂本さんももてるでしょう?とーこちゃんって凄いなあ。両手に花?」
「あはは。」
・・・ただ話をしているだけなのに、何故か俺は空気が重くなってくるのを感じていた。
というか、彼がとーこを好きなこととか、少なからず俺も有菜も知っているんだから、この話題はまずいだろう!?と心臓がバクバクしだしてた。
柔らかく微笑みながらも、その眼鏡の奥の瞳がどんどん険しくなっているような気がする。
多分、気のせいなんかじゃない。
ちゃんと見ていれば、いくら有菜でも・・・・・・いや、やっぱり有菜は気付かない、な。
「ん〜でも、大丈夫かな?2人ともなんだかまだぎくしゃくしてるっていうか・・・」
(お前がそれを言うのか!)
激しく突っ込みたくなるのをなんとか抑えて、有菜に視線でサインを送るけど、まったく俺を見ていない。
故に、気づくワケもなく。
「とーこちゃんも直人君も、なんだか見てるとモドカシイっていうかぁ・・・もう有菜のことは気にしなくていいのにな・・・だって、有菜はもう・・・」
「あ、あの!坂本さんっ」
なんとか違う話題を振ろうと二人の会話に割り込むように声をあげた。
俺が急に名前を呼んだから、彼は驚いた顔で再び視線を俺に向けた。
なのに、有菜が「あ!」と声をあげて申し訳なさそうな顔をした。
嫌な予感。
(馬鹿、お前、何も言うなよっ!?)
「ごめんなさい、坂本さん、直人君の話なんて、聞きたくないですよね?」
(ああああああ!馬鹿有菜っ!!!)
俺はがっくりと肩を落とし、思わずつり革に掴まっている右手に自分の全体重を預けて俯いた。
いっそ、触れずにスルーしてくれたら!と淡い俺の願いは打ち砕かれた。
(つーか、普通スルーするだろうよっ!)
どこまでも不運な自分を呪いながら、その原因である存在を見下ろす。
なんで俺が、こんな追いつめられたような気持ちにならなきゃいけんだろう?元凶をちらりと見れば、もともと小さな体をもっと小さくしてフルートケースを抱える指先に力をこめてる。
そんな姿が健気なオンナノコに見えるらしい――陽太とかには――けれど、俺にとっては、憎々しく思う仕草だ。
わかってる。
本人なりに悪いことをしたという自覚はあるのだ。だけど、そんな中途半端な自覚なら必要ない。
密やかに溜め息を零す。
(溜め息を吐く度に幸せが逃げていくって言ってたのは誰だっけ?)
それが本当だとしたら、俺は有菜のお陰で「幸せ」は、いい加減エンプティになってるころだと思う。
でも、でもだ。
(ここで追い打ちをかけるようなことを言うのが有菜で・・・)
ふとよぎった考えに、有菜を見下ろすと、案の定というか懲りもせず、有菜はぱっと可愛らしい笑顔を浮かべると唇を動かした。
「あ、でも、有菜は、とーこちゃんと坂本さん、すごーくお似合いだと思ったんですよ?とーこちゃん高校行って、すっごくオンナノコらしくなったなあって思ってたの。ね?雄介も思ったでしょ?絶対っ、坂本さん絡みだと思ったんだけどぉ。」
「ばっ・・・!」
かやろう!と言いかけて、止まってしまった。
目を細め笑う坂本さんに、何故か体が凍りついてしまってた。
「"オンナノコ"らしい?」
「とーこちゃん、中学まではもっとボーイッシュだったんです。」
「・・・・」
「なんていうのかな、一人でなんでもできちゃって、頼り甲斐あって!とーこちゃんは有菜の大事なナイトなんです。」
誇らしげな有菜と対照的に、坂本さんは笑顔の下で何か衝撃を受けているように思えた。
「だから、えと、本当に・・・・今回はザンネンでしたねっ。」
(だ、誰か、こいつを止めてくれ!)
この時の、俺の気持ち、誰かわかってくれる?
あまりのことに、俺の思考回路は一瞬停止してしまってた。
「それにしても、坂本さんって"お兄ちゃん"オーラだしてますよね。有菜もお兄ちゃん、欲しかったな。」
「あのっ、坂本さんも留学するん、ですよね?」
悲鳴をあげそうになって、有菜の言葉を遮る。
悪気がなくても、真実そう思ったとしても。
言葉に出して伝えなくていいことってものはあるわけだよ。
それに、有菜の放った言葉が、確実に坂本さんの中の何かを刺激した!
俺は引き攣った笑顔を自覚しながら、有菜を肘で小突いた。
「うわん、いたぁあいっ」と膨れる有菜を背中に隠すように引っ張り、もうこれ以上王子の機嫌を損ねたくなくて、視界から遠ざけようと試みる。
「・・・ダメだよ、そうやって助けてばかりいちゃ。」
なんともいえない艶っぽい声で呟かれ、ぞくっとした。
諭すような言葉とは裏腹な自嘲的な笑みを浮かべた彼に、俺は背筋が一瞬冷たくなるのを感じた。
坂本さんは一つ息を吐くと目を閉じて、フレームに長い指を伸ばし眼鏡を外して胸ポケットに入れた。
そして閉じていた瞳をゆっくりと開いて、俺を涙目で不服そうに見つめている有菜を見下ろした。
「あ、あの?」
「そうやって、君や塔子ちゃんたちが庇っちゃうから、なおさら通じないんだよ。」
彼は俺を見つめて口元をふっと歪めた。
それは笑顔と言うには少々禍々しい感じで、俺は思わず瞬いてしまう。
(え?)
「だから、だったのか。」
(・・・あれ!?錯覚??)
先程まで彼を包んでいた柔和な笑顔は幻だったような気がした。
「なんで塔子ちゃんが、あんなに自分を抑えるのか不思議だったんだけど・・・ナイト・・・ね・・・」
多分、この笑顔が、彼の本当の姿。
背中に黒い羽が見えるような気がする。
(黒王子vs姫・・・!?なんでこんなことに?)
坂本さんはゆっくりと有菜に腕を伸ばし、長い人差し指を、閉じていれば愛らしい有菜の唇の前で止めた。ぎりぎり触れない場所で。
「何か言うときには、せめて1秒だけでも頭の中で考えたほうがいいと思うよ?」
辛辣な物言いに、一気に体感温度が下がる。
静かに紡がれた言葉の意味を考えるまでもない。
言葉の後で微笑んだ瞳が、まったくもって笑っていないことくらい、誰でもわかる。
この人を怒らせちゃ駄目だと、本能が警鐘を鳴らす。
あのとーこを甘えさせてた人。
甘えることのできないとーこを。
俺も、ずっと好きだったから、わかる。
とーこがどんなに傷ついていたか。
そのとーこを、また笑えるようにしたのは、この人だ。
それがどれほど大変なことか、俺には凄くよくわかる。
俺にはできないことだったから――、どうしても、できないことだったから。
とーこの氷を融かした人。
とーこのことを想って、身を退いたんだろう。でも、戦うと決めてたら、直人から徹底的に奪い去って・・・・・。
(・・・・・・って、そうじゃなくて!)
警鐘と共に胸に蘇った想いに頭を振った。
有菜が首を傾げるのが視界の端に映った。
「?」
きょとんとした顔の有菜に、坂本さんはふふっと笑う。
「君が妹だったら、僕は絶対に許してないよ。よかったね、妹じゃなくて塔子ちゃんの友達で。」
「うわん、でも、坂本さんみたいなかっこいいお兄ちゃんになら、叱られてみたいです!」
どうやったら、こんなにもとんちんかんなことが言えるんだろうか?
語尾にハートマークがついてそうな邪気のない笑顔は、坂本さんの言葉の中にたっぷり含まれていた棘をちっともわかっていない。
気力と体力を根こそぎ奪っていく存在に、こめかみのあたりがずきずきとする。
「・・・・すみません」
思わず謝ってしまう。
こういう奴なんです。ごめんなさい。
「君も苦労するね。」
俺の心まで見透かしたように、坂本さんは有菜の唇の前留めたままだった指先を引っ込めて、溜め息交じりに唇を開く。
「有菜ちゃん、君"ちゃんと話を聞きなさい"っておうちの人や先生に言われない?」
「えぇ?」
揶揄するような言い方は、まるで小学生(それも低学年だね)の子に話して聞かせる先生のようだ。
「悪意のない無邪気さが、実は一番厄介なんだよ?」
彼はゆっくりと、僕を見据えて。
「相手の痛みを、ちゃんと感じていた?」
相手の痛み・・・。
「そろそろ気がついたほうがいいよ。君の言葉に痛みを感じる人もいるんだってことを。」
「それって・・・?」
「ね、関君?」
「あ・・・」
「雄介?」
とーこと直人がそうなように、俺たちも断ち切れないもので繋がっていた。
恋とか愛とかでなく、自分を好きじゃない人を好きになって、だけど、そのライバルは自分たちにとって失うことができない大切な人たちで。
(だから、俺と有菜は共犯者――。)
『有菜も、本当のこと、言う。直人君、解放する。だから、雄介も、ちゃんととーこちゃんにキモチ伝えるんだよ!?』
泣きながら携帯に電話してきた有菜。
困った奴だけど、やっぱりそれだけじゃない。
「・・・ちゃんと卒業させないと。じゃないと、多分、お姫様は無邪気に人を傷つける。」
言葉を失った俺に向ける笑顔は、眼鏡を外す前の柔らかな笑顔に変わっていた。
キラキラと眩しいまでの、王子スマイル。
すべてを受け入れるかのような笑顔は、だけど、そうじゃない。
俺が有菜を甘えさせていた本当の理由まで、彼は気付いてる。
(何もかも暴いてしまうんだ、この王子は。)
「・・・・ですね。」
「雄介?」
きっと、俺にしかわからない。この衝撃。
「すげぇ・・・・メテオライト・・・」
「君に仕掛けるつもりは、なかったんだけど。」
「メテ・・・・?ねえ、雄介、お姫様って?」
ぐいぐいと腕をひく有菜に、俺はまた溜め息をつく。
坂本さんは胸ポケットに仕舞っていた眼鏡を取り出して、再びかけた。
「ゲームの話し?」
「有菜の好敵手、現るって話し。」
「?」
「それは辞退するよ。」
心底嫌そうに肩を竦めて、坂本さんは首を横に振った。
「ああでも、とーこちゃんの友達の座は僕がもらっちゃうかもしれないね?あと2週間もしたら、僕たちは今よりずっと仲良くなるから。」
「ええー!?それは、駄目ですぅ!それに、それじゃ直人君がいじけちゃう・・・・!それにとーこちゃんのお友達の座は有菜のものです!坂本さんは"先輩"でいいじゃないですか!」
「塔子ちゃんの先輩兼友人。僕は欲張りなんだ。」
「ええー!?」
傍から見たら、やけに絵になるカップルがじゃれているような光景。
眼鏡をかけた坂本さんは、もう柔和な笑顔を崩すことはなかった。
5年とちょっと。
俺たちは有菜を大事にしすぎてた・・・。
そう、もう、とーこも、直人もちゃんと卒業しようとしてる。
有菜自信も、もしかしたら。
「雄介も言ってよ。とーこちゃんは有菜にとって・・・」
俺も、もう卒業しなくちゃ。
有菜の共犯でいることから。
「ごめん、有菜。多分、俺が一番の友達かも。」
目を閉じて胸に触れる。
突然飛来した隕石がもたらした、衝撃に苦笑しながら。