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星空の下で、さよなら そして一年が過ぎて・・・




From Your Valentine





「去年の今頃は・・・」
『わっ、ちょ、とーこ、そそそそそれは・・・・』

携帯越しに直人の慌てる声が聞こえて、あたしはくすっと笑った。
ランチを抜け出して、中庭を歩きながら空を見上げる。
日本は今は夜だ。

ランチの時間を見計らったように鳴った携帯。
メールじゃなくて驚いた。
だけど、やっぱり声が聞けるのは嬉しい。
遠く離れているからこそ、声が間近で聞こえるのは何よりも嬉しい。

でも、ちょっとだけイジワルしたくなってあたしは訊ねてみる。

「ねえ、今年は幾つもらったの?」

あたしの言葉に直人は沈黙した。
もともと、バレンタインは苦手なヒト。
しばらく待っても、答えがない。
・・・あれ、イジメすぎちゃった?そう思って口を開きかける。

『12個』
「え!?」

唐突に答えた言葉に、あたしは携帯を落としかける。

じゅう・・・に?
じゅうに!?12個!?
ええ、じゃ、さっきの沈黙は、数をかぞえてたの!?

聞いておきながら、動揺してしまう。
去年よりはずっと少なかったけれど・・・・去年のトラウマが発動してしまいそう。

『・・・入りのチョコ1箱。とーこの母さんから。』
「は?」

思わず間抜けな声を出してしまった。
今度は直人がくすくすと笑う声が携帯から聞こえる。

『もらってないよ。とーこのお母さん以外、誰からも。丁重にお断りしました。』

澄ました声が憎らしい。
も〜っ、お母さんったら、いつの間に!?
この間電話したときには、そんな話してなかったのに。

『心配した?』
「・・・」

全然気にしてない!

そう言いかけてやめた。
気にしないわけがない。
あたしは小さく深呼吸して、目を閉じた。

心配だよ。

でも、これも違う。
どう伝えたらいいのかな・・・あたしは無意識にガムランボールを指に絡めて握り締めた。

『・・・とーこ?怒った?』
黙ってしまったあたしに、不安そうな声が届く。

「貰ってもよかったのに・・・」
『え?』
「だって、直人に想いをこめたものだったんだよ・・・?」

あたしにはその気持ちがわかる。
チョコに込めた想い。
あの小さな箱の中には、精一杯のキモチが込められてる。
ドキドキして切なくて。
"ダイスキ"という想い。

さっきは焦ったくせに、矛盾してる。

『・・・去年は"受け取らなきゃいいのに"って言ったのに?』
「あ、れは・・・直人が雪に捨てたから・・・」
『・・・わかってる。でもだから、俺は受け取れないんだよ。』
「だって、せっかく・・・」
『とーこが、そうやって知らない誰かの気持ちまで引き受けちゃうだろ?』
「う・・・・」

呆れたような、だけど優しい声。
それがあたしに向けられているなんて、去年のあたしは知らない。

『相手の真剣な気持ちわかるから、だからちゃんと断ったよ。傷つけてしまったコも居ただろうけど』
「うん・・・」

わかってる。
直人は・・・他の人には分かり難いけど、直人なりの優しさでそうしてたんだってわかってる。

『・・・・・・でもさ』

そこでまた沈黙が訪れた。

「・・・何?」
『今年は・・・ないの?』

とーこからのチョコ。

少し拗ねたような口調。
あたしは思わず破顔してしまう。

「あー・・・・だって、ね・・・?」

去年は散々なバレンタインだったし。

『・・・』
「欲しかった・・・?」
『誰にもあげてない?・・・坂本さんとか・・・』
「あげてないよ。イギリスじゃバレンタインは"恋人たちの誓いの日"だもの」
『・・・だったらいい。去年、酷いことしちゃったしな。』

そう、去年を思い出すとまだ胸は痛い。
それまで蓄積された痛みと、どうしようもなかった苦しさ。
・・・でも、あの痛みと引き換えに、あたしはたくさんのかけがえのないものを手にすることができた。
胸を温かく包む・・・あの痛みごと。

「・・・おかしいなあ・・・。直人今どこからかけてるの?」
『どこって、今星見に来てるけど・・・』
「寒くないの?」
『ん、着込んでる。・・・去年は雪降ってたよな・・・』

蒼く白い空間を思い出す。
あのまま心を凍りつかせたいと願っていた。

「部屋に行った?」
『いや?帰ってからはまだ・・・』
「おばあちゃんに頼んだから・・・机の上に置いてねって」
『え?』
「帰ったら見てね。あたし、もう行かなくちゃ。」
『今、走ってる!』





机の上で、直人に食べてもらうのを待ってる、今年のあたしのキモチ。
溶け出してしまう前に食べてあげてね?




2008,2,14up





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