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星空の下で、さよなら 





The feelings that I do not yet notice






「ないよ、ない!!どこにもない〜!!」

窓の向こうから大きな声が響いてきた。
とーこだ。

「ちゃんと探したの!?」
とーこのお母さんの声がその上に重なる。
少し焦ったような声。

今日は親戚の結婚式に行くからって、飛行機に乗るって言ってたよね?
だから明日は寝坊しちゃいけないんだ!って、昨日とーこはりきってた。

開け放した窓から、顔を出してみる。
とーこの家の庭先には、とーこのお父さんとおばあちゃんが車に乗って待っている。
エンジンだってかかってるのに、とーこ、どうしたっていうんだろう?

「探した!でもないっ!どうしよう、大事なものなのに!!」
「もう〜っ!間に合わなくなるわよっ」
「でも〜っ、ダメ!やっぱりダメ〜!!」

とーこの何時にない泣きそうな声に、ボクは机の上に置かれた小さな箱をちらりと見た。
小さな外国製の缶。
確かキャンディーかなんかが入ってたやつで、綺麗な花の絵が浮き上がっている。

まさかとは思うけど、コレのこと?

「もう、時間ないのよ!?諦めなさい!」
「一緒に行くの!!置いていけないよ〜っ!」

とーこの声に、俺は思わず溜め息が零れた。
「やっぱりコレか」
俺はその缶を掴んで部屋の窓から飛び降りた。
「とーこ!!」と大きな声で呼びながら駆け出す。

昨晩とーこがコレを持って来て「3日お出かけだから、直人が預かってて」と言った。
その中には、とーこが宝物にしてるいろんな物が入っていて「泥棒に持ってかれたらイヤだ」って、俺に預かってくれって。
宝物って言っても、本当に高価なものが入ってるわけじゃない。
今年川で見つけた綺麗な石とか、おばちゃんにもらったブレスレットとか、そんなものだ。
泥棒が持っていくとは思わないけど、とはあえて言わなかった。
もちろん、ちゃんと見張ってるつもりだし。

俺の声を聞いて、とーこが自分の2階の部屋の窓から顔を出した。

「あ!」
「コレ、この中だろ!」
「あああああ!」

とーこの"宝箱"を掲げて見せると、泣きそうだった顔がぱあっと明るくなった。
俺は思わず笑ってしまう。

「早く!」

とーこは慌てて顔を引っ込めて窓を閉めた。
エンジンのかかった車からとーこのお父さんが出てきて「直人くん、靴は!?」とびっくりしてる。
思わず自分の足元を見て、赤くなる。
「・・・忘れちゃった」と頭をかくと、ぽんぽんと肩を叩かれながら笑われた。

階段を駆け下りてくる音のすぐ後に、勢いよく玄関の扉が開いて、とーこが飛び出してきた。
「ほら、この中だろう?」
俺が缶を差し出すと「忘れてた!一番大事なものだからって、いっつもここに入れてるから・・・」と蓋を開け、中からガムランボールを取り出し「あった〜!」と嬉しそうに声を上げた。
「持ってこうと思ってたから、ちゃんと出しておいたつもりだったのに」
とーこはソレを大事そうに握り締め、安堵したようにはぁーっと息を吐き出した。
「よかった」と呟きながら。

「ありがとう、直人。でも、なんでわかったの?あたしがコレ探してるって」
とーこが不思議そうに首を傾げる。

「あれだけ騒いで気づかないわけないよ・・・。」
そう言いながら、だけど俺はくすっと笑ってとーこの手から缶を受け取った。

「いってらっしゃい、コレは預かっておくから!」
俺の言葉に、とーこは眩しいくらいの笑顔で頷いた。

「やっぱり、離れてるの寂しいから、これはずっと持ってるんだ〜」

とーこがぎゅっと握りしめたガムランボール。
なんでか胸がきゅっと苦しくなった。
まるでとーこの手に、俺の心臓が掴まれたみたいだった。



俺はとーこの宝物の詰まった缶を持ったまま、車が見えなくなるまで手を振った。

たった3日。
なのに、ちょっと寂しくなって目頭がジンと熱くなる。


The feelings that I do not yet notice
  ――まだ僕の知らない・・・感情。

不意に浮かんだ言葉。
まだちゃんと教わったことなんてない。

なにかの歌詞だった?
それとも、シンの姉ちゃんが教えてくれた英語だった?

その一言が、俺の胸の中にとどまった。
まるで、とても大切なもののように。





2008,9,5up





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