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*シリアスです。

7月7日







夜勤明け特有の眩暈を抑えようと、私は濃いコーヒーを喉に流し込んだ。
少しづつはっきりとしてくる頭に、カレンダーの日付が馴染んできた。
「ああ、今日は7月7日。」
呟いて椅子の背もたれに体を預けて、それからはっとして机の上のスケジュール帳を開いた。


7月7日(金)   翼 帰国


「今日だったわね。」
言いながら、心が少し温かくなる。
ふっと笑みが零れて、それでもそんな自分に喝を入れるように頬を両手で叩いた。
そう、許してなんていないのよ?
あんたが勝手に渡米したことなんて。
思いながら、でも頬が綻んでくるのは止められなかった。
椅子から立ち上がり、私は大きく伸びをした。

家に帰って、熱いシャワーを浴びよう。
仮眠をとる暇はあるかしら?それとも美容院に連絡してみる?
ああ、何を着ていこうか?
ここのところ忙しさにかまけて、夏物も何も買ってないんだけど。

久しぶりに・・・一年と一ヶ月ぶりに会うのだから、少しは綺麗に見せたい。
あの人が居ない間、ただ落ち込んで悲しんでいたなんて思われたくない。
堂々と、今までよりイイ女になったでしょう?と言いたいもの。

白衣を脱いで、一つに結わえた髪をほどいた。
教授に指示を仰ぐメモを書き残し、私はナースステーションに顔を出す。
「お疲れ様、昨日の患者さん、症状が安定してるけど、ちゃんと村木先生に診てもらって?」
「浦部さんですね。わかりました。あら、園田先生、何かいいことありました?珍しいですね、夜勤明けですぐに帰るなんて。」
婦長の言葉に、私は苦笑した。
「ほんとね、珍しいわね。」
いつもは仮眠室でそのまま寝ちゃったりするからね。
「偶には、お洒落して出かけたらどうですか?」
婦長は温かな大きな手で、私の背中をとんと押した。
「お疲れ様でした。ゆっくりお休みください?」



空調の効いた病院から一歩外に出ると、恐ろしいほどの湿気と熱が体を包む。
梅雨独特のジメジメした感じをイヤだなと思う反面、医者なんてなんて不健康な職業だろうと思う。
この3日間、大きな大学病院から出ることもほとんどなく、暑さも湿気も感じることなく快適ではあった。
まあ、寝不足は仕方ないとして。
本来の季節を忘れてしまう。
仕事とはいえ、昼夜逆転だし・・・。
眩しい日差しに目を細める。
ドラキュラな気分・・・・・。

駅までの道を歩きながら、私は3日ぶりの外の空気を体で感じる。
そういえば、この3日間で世の中に何が起きたかも定かじゃないのよね。

「おはようございます」
病院に向かう少年が、元気に声をかけてきた。
私も「おはようございます」と言いながら、笑顔を向ける。

あれは、去年事故で運び込まれた患者さんだったわね。退院したって言ってたから、今日はリハビリだろう。
笑顔がとても眩しくて、傍らで支えるように歩く彼の母親が心から嬉しそうに頭を下げた。

こんな時は、素直に、この仕事をしていて、本当に良かったと思う。
感謝されることもあるし、恨まれることもある。
それでも、自分にできる最善を尽くすしかないのだ。
ただあるのは、生と死。
極限の緊張感。
自ら選んだ道とはいえ、救命救急医はまさに身を削るかのような仕事だ。

「酷い話よね。私をどっぷり浸からせておいて、自分はさっさとアメリカ行っちゃうんだもの。」
私は溜め息をついて、腕時計を見た。
約束の時間は20時。
場所は私たちがよく行った、あのバーだ。

翼が――真島 翼がまだ日本に居た頃に、よく私を連れて行った、東京タワーがよく見えるバー。
彼がアメリカ行きを打ち明けたのも、あのバーだ。
あれから、私は一度も行っていない。

肩にかけたバックから、携帯電話を取り出した。
2日にかかってきた留守番電話に保存された、翼からの伝言を再生する。

『さえ、7日に帰るから、20時にあのバーで会おう。』
会えるのを楽しみにしてるよ。

そう言って切れた電話。

「相変わらず、勝手なんだから。」
言いながら、それでもやっぱり翼が好きだな、と思う。

自信家で、強引で、誰よりも腕のいい外科医。
同い年とは思えないくらい、私を子ども扱いして、出会いは本当に最悪だったけれど。
仕事では冷たい印象を与える男だけど、本当はホームドラマでも泣いちゃうような、そんな優しいところもある。
付き合ったのは3ヶ月くらい。そんな短い期間で私を夢中にさせて、あっけなく渡米した男。

『向こうで、必要なことを身につけてくる。』
そう言って旅立ったのは、昨年の6月。「待っていて」とも「さよなら」とも言わずに。

あれから1年1ヶ月。

連絡はいつも留守電かメール。
そんな酷い男だというのに、私はこんな風に彼の声を聞くだけで、気持ちが溢れてくるのを感じる。
素直に認めよう。
一年ぶりの再会は、本当に楽しみだ。
いつも、翼が子ども扱いするから、つい反発して素直に慣れなかった。今日はそんなことは止めよう。
ちゃんと、オトナの女の一人として、今も・・・翼を好きなことを伝えよう。

眠くて仕方なかったはずなのに、私はそのまま半年ぶりの美容院に足を向けた。



懐かしい店内で、私はカクテルを一口飲むと、東京タワーが半分しか見えなくなった窓を見つめた。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
初老のバーテンダーがカウンターに座る私に声をかけてきた。微笑みながら、どこか嬉しそうに私を見つめている。
覚えてくれていたのだろうか?
ここでは、翼と何度も口論をしたから、それでだろうか?
私はあの頃を思い出して赤面しながら、会釈をして窓の外に視線を戻した。

「残念ですね、ここからの眺めは素敵でしたのに。」
「ええ、残念なことに。何もかも、変わっていくんです。でも、また訪れてくださって、忘れずにいてくださって、嬉しいですよ?」

バーテンダーはそう言って、オーダーされたバーボンを手際よく用意しだした。
私はワンピースの襟元を気にして、時計を見た。
まだ19時半。
「早すぎたなあ。」
だいたい、今日の何時の便で帰国したのだろう??
詳しいことは何も聞いていない。
偶には入るメールも留守電も、簡単な近況しか伝えてこなかった。
なんだかそう思うと、わざと遅れてきて少しは待たせてやればよかったかな、なんて思えた。
ジャズが流れる店内は、まだ客もまばらで、私は次第に眠気に襲われて欠伸をした。
そうだ、昔もよくこうして、寝ちゃったなあ・・・。



「さえ、さえ?」

肩を揺すられ、懐かしい声が聞こえて、私は驚いて顔をあげた。
いつの間に寝てしまったのだろう?

微笑むバーテンダーが、顎をくいっと動かして、私の背後に視線を送る。
私は恐る恐る振り向くと、そこに不機嫌そうに立つ翼を見つけて、うろたえた。
「つ、翼!?」
まるで自宅からふらりと出て来たかのように、ジーパンにTシャツというラフな恰好の翼は、眼鏡を外すと胸のポケットに入れた。
「・・・あのさあ、久しぶりに恋人に会うっていうのに、涎たらして寝てるってどーゆーこと?」
翼は大きすぎる溜め息をつくと、私の隣に座った。
私は慌てて頬をこすって、泣きたいような気持ちになりながら、翼を睨みつけた。

「そんなこと言ったって、夜勤明けだったんですもの・・・!」
「夜勤明けで、髪を切りに言って?それで仮眠も取らずに服選んでた?」

おかしそうに口元を歪めて、翼は私の襟元に指を伸ばして引き上げた。

「・・・っ!」
「図星?」

私は今日一日の私の様子を言い当てられて、なんとも言えない恥ずかしさに声を失った。
頭にくる!なんだってお見通しって顔で、いつも余裕な笑顔で・・・!
「そっちこそ、久しぶりに会うってのに、随分ラフよね!」
私が言った厭味さえ、まったく聞こえないフリ。

「さえは、おしゃれしてくれたんだ?夜勤明けは、いつもぐったりしてたのにね・・・?」
そんな私をくすくすと笑いながら、でも、翼は私が初めて見る柔らかな笑顔をして。
・・・・とても嬉しそうに言った。
「――さえが、そんな風に僕を待っててくれたと思うと、凄く嬉しいよ・・・。」
そう囁くように言って、そして頬を紅くした。

「!?」
私は驚いて、不意打ちなその姿に胸が打ち抜かれたような気がした。

な、なんなの!?
この男・・・!
私をきゅん死させるつもりなんだろうか!?

私が何も言えないでいることを、何か他の意味にとったのか、翼は少し眉を顰め、寂しそうに呟く。
「・・・・もう、愛想尽かされてると思ったから、こうしてさえが待っててくれると思わなかったよ。」
こんな弱気な言葉も初めてだった。

「つ、翼?」
私は視線を逸らした翼の手をとった。
冷たい指先に驚いたけど、私はその指先を掴んで覗き込んだ。
翼はゆっくりと私を見て、戸惑いを漂わせながら、笑顔で言った。
「・・・さえ、ただいま。会いたかった。」
私は胸がいっぱいになって、涙が溢れてくるのを感じながら頷いた。
「おかえり、私も、会いたかったよ。」



それから、私たちは懐かしい空間で、離れていた間の話をした。

翼が向こうで心臓外科の権威の下で研究をしていたこと、彼のアパートには日本人夫婦がいて、その子どもが熱を出すたびにたたき起こされたとか、それに、迷い込んでそのまま飼っている仔犬の話。
「すごくドジでさ、さえそっくりなんだよね。」

私は、かつて彼が居たときに担当していた少年が、順調に回復して今朝リハビリに向かうのを見かけた話や、婦長がついに結婚した話、大沢先生がパパになった話なんかをした。
私たちはおおいに笑って、飲んで、また笑った。
時折、バーテンダーのおじさんが、私たちを微笑ましそうに見つめていた。

翼は得意の毒舌で、私の失敗を言い当てたり、容赦ない言葉を言ったりしたけど、どこか優しさがこめられていて、私は怒ったフリをするくらいで、本当に口論になることはなかった。
・・・・翼が私の髪や頬に愛しそうに切なそうに触れるから・・・・。
まるで私がここに居ることを確かめるかのような、そんな仕草だった。
私はその度に胸が跳ねて、だけどそんなことを気づかれまいと、何気ない風を装った。

どれほど話しても、私たちの間の時間は埋まらなかったけれど、それすら新しい私の知らない翼を知る喜びで、わくわくしていることに気がついた。

時間を忘れて話したのは、本当に久しぶりだった。
誰も、何も邪魔するものはなかったから。
薄暗い店内で、私たちは昔に戻っていくかのようだった。
離れていたなんて、信じられないくらいに。

だから、私は思い出話ではなく、これからの話をしたくなって訊ねた。
「で、翼、日本ではどこで働くの?戻ってくるの?そうよ、どこに住むの?」
私も翼に触れたくて、そっと腕に手をかけた。
翼の体がびくっと震えて、私はぎこちなく笑う彼に首を傾げた。
「・・・戻るつもりだったんだけど、ね?」
先ほどまでの屈託のなさが消えて、翼は辛そうに瞳を閉じた。

「・・・?みんな待ってるわよ?加賀教授なんて、翼が帰ってくるって聞いて、凄く喜んでるんだから。」
そういえば、まだみんなは翼がいつ帰国するか、具体的な日にちを知らなかったんだ。
教えてあげればよかった。
「明日行く?あ、でも、ご両親とか弟さんに会いたいよね?それとも、もう会った?」
私はまた一緒に働けるのだろうと、身近に彼を見つめられる歓びを感じてはしゃいだ。
「両親や艶には、もう会ったよ。」
ぽつりと呟いて、その声がとても寂しそうだったから、私はまた不思議に思って翼を見つめた。
そんな私に気がついたのか、翼は笑顔を見せた。
「ずっと研究漬けだったからね、少しは休もうかなって」
それは翼からは信じられない言葉だった。

いつだって、私が追いつけないくらい前へ前へと進んでいく人だから。
何か、アメリカで嫌なことでもあったのだろうか?
研究をいち早く役立てたいって、翼、先月のメールに打ってあったのに。

翼は私のそんな想いを百も承知って顔で頭を撫でた。
そして、深呼吸すると時計を見つめた。

「・・・さえに伝えたいことがあるんだ。」
「?何・・・?」

私は翼がどこかに行ってしまう気がして、翼の腕に置いた手に力を込めた。

「・・・それが、それに必要なものを忘れて来ちゃったんだ。今日は、どうしてもそれを伝えたかったのに・・・・」
苦笑して、翼は立ち上がる。
「艶に持ってくるように頼んだんだ。そろそろだと思うから、ちょっと行ってくる。」
翼は店の出入り口を指さして、また眼鏡をかけた。
「あ、うん。」
私は焦燥感と愛しさと、なんだかわからないけどたくさんの感情が渦巻いて、言いながらも立ち上がった。
そして翼の手を掴むと、翼は一瞬顔を歪め――私を強く引寄せて、唇を合わせた。
それは、とてもひんやりとして、でも胸の中が熱くなる、そんなキス。

――永遠とも思える一瞬。

「さえ、愛してるよ。ずっと。」

耳元で、翼が囁くから。
私は涙が頬を伝うのを感じて、胸に顔を埋めた。
嬉しくて、言葉にならない。

「さえに出会えて、僕は本当に幸せだった。」
・・・・・・・これからも、さえを見てるよ?

翼はそう言うと、額にキスして微笑んだ。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
扉に向かう翼に「待って」と言いかけてやめた。

艶くんが待ってるかもしれない。
でも、そんな言葉はまるでさよならのようだ、と抗議したかった。

でも、言葉の意味は、その後でもいい。
パタンと扉が閉じて、私は時計を見た。



「え、もう0時?」
私は驚いて、ぐったりしたように椅子に座った。
急に体中に時間が流れ込んで来たかのような感覚だった。

かちゃ、と扉が開き「いらっしゃいませ」と店員が声をかけた。
私は弾みだす胸を押さえて、そっと扉の方を見た。
「・・・あれ?」
落ち着いたスーツ姿の男の人が、ゆっくりと店内を見回している。
翼ではない。
まだ艶くんは来てないらしい。
私は窓の外を見つめて、半分になった東京タワーを見つめた。
やっぱり、惜しい。

「冴実さん?」
声をかけられて、私は驚いて振り返った。知っている声だったから。
「・・・艶くん!」
スーツ姿の男の人は、翼の弟の艶くんだった。


「あれ、お兄さんと会わなかった?さっき艶くんに会うって・・・・」
艶くんはその場に立ち尽くして、俯いて拳を握り締めている。
私が言った言葉が聞こえなかったのだろうか?
艶くんは苦しそうに息を吐き、ポケットから小さな包みを差し出した。
「・・・兄さんが、これをあなたにって・・・・」
私は疑問符を頭に浮かべながら、それを受け取った。
飾り気のない、ベルベットのケース。
私はそっとその蓋を開けた。

中には、ダイヤの周りを淡いブルーの輝石が取り囲んだリングが納められていた。
私は震える指先で、そっとリングを手にとった。
「・・・これを翼が?・・・・で、も、翼は・・・?」

嬉しいのに、何故だろう?
胸が悲鳴をあげかけている。
何か、とてつもない恐怖が訪れるかのように。

「兄さんは、5日前・・・・・事故にあって・・・・」
頭がキンとして、指先の力が抜けた。カウンターのテーブルに、、リングがカツンと音をたてて転がった。

「な、に・・・?」
言ってるの?だって、翼は、今、ここに居た。

「え、え?あ・・・それで、もう帰国したの?」
自分でも、馬鹿なことを言ってると思う。
でも、言わずにいられなかった。

だって、翼は、今さっきまで、ここに居た。
「艶く・・・ん?」
艶くんは涙を浮かべて、私をやっとの思いで見つめると、苦しそうに言葉を紡いだ。

「兄さん、僕がアメリカに飛んだ時には、もう、意識がなかったんだ・・・。ただ、あなたにって、最後に一瞬意識を戻して。」

言葉が、医師として理解しようと無意識に言葉を拾いながらも、私の心は死んでいくかのような、そんな二つに引き裂かれそうな感覚が支配した。

今まで、こんな恐怖を感じたことはない。
誰かを失う恐怖が、私を襲っていた。
仕事中には何度も感じてきた。
だけど、これはソレとは違う。

「兄さんが指さした先に、それが。そして、兄さんの手帳にあなたの写真と・・・7月7日にここであなたに会うと・・・。」
艶くんは、翼に良く似た顔を涙でぐしゃぐしゃにして、それでも私にちゃんと伝えようと、言葉を切った。

「兄さんは、冴実さんを、あなたを凄く好きだったようです。」
「・・・・!」
「空港から急いで来たんですけど、遅くなってしまって。携帯もかけたんですけど、繋がらなくて。」

それじゃあ、私が今まで一緒に居たのは、誰なの?

私は助けを求めるように、バーテンダーを探した。
あの人なら・・・私たちが昔のように言い合うのを、それは楽しそうに聞いていた!

「・・・あの、あのバーテンダーさんは?」
私が立ち上がって訊ねると、多分私と年の変わらない青年は、不思議そうに首を傾げた。
「私以外にいませんが?」
「そんな・・・!」

力が抜けて、私はその場に倒れそうになった。
艶くんが、私の腕を掴んで、椅子に座らせてくれる。

「・・・お客様、相当お疲れだったみたいで、そちらに座ってすぐに眠ってしまいましたよ?」
「・・・・うそ・・・・」

私は、今起きていることがどうか悪い夢であるように、と、何度も何度も願った。



艶くんに支えられるようにして店からでると、ネオンでかき消されているはずの星が見えるような気がした。
「兄さんを、日本に連れてきてます。一度、家にもきてください。」
艶くんは言うと、私をタクシーに乗せた。

「仔犬・・・」
私が呟くと、艶くんは驚いたように見つめて、それからふっと笑った。

「兄さんから聞いてますか?ええ、連れてきてますよ。もし、冴実さんさえよかったら・・・もらってやってください。名前は『ハッピー』です。」
私は口元を押さえて頷いた。

ああ、やっぱり、あれは夢なんかじゃなかったんだ。
翼は、私に会いに来てくれたんだ。

タクシーが走り出すと、運転手のおじさんが私をミラー越しに見て言った。
「あなたの彦星が、くれたんですか?」

私が両手で包み込んで、胸の前で大事に抱えているベルベットのケースを顎でしめして。
「・・・ええ、素敵でしょう?」
私は言って、中身を取り出した。

でも、私の彦星には・・・来年も再来年も、もう会えないんですけどね?

「え?なんです?」
おじさんは不思議そうな視線を送ったけれど、私は目を閉じて翼が言った言葉に耳を傾けた。

『さえ、愛してるよ。ずっと。』

「私も。翼を愛してるよ」
そっと、リングに囁くように言った。
「酷いやつね、本当に、自分勝手で・・・悔しいくらいに優しいのねっ・・・・」

『さえに出会えて、僕は本当に幸せだった。』
・・・・・・・これからも、さえを見てるよ?星になって。

涙がまた零れた。
星を渡って会いに来てくれた、翼を・・・愛してるよ。








2006,7,1






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