.    '10年7月10日

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水の器

 梅雨時、雨に似合う花はヤマアジサイ。アジサイの学名‘ハイドランジア’は、‘水の器’を意味するだけに、水との関係が深い植物です。 他の樹木に比べて葉からの蒸散量が多いためか、わずかな時間でさえ水無しでは生きられず、切り花には要注意です。
 この時期、来園された方からよくある質問が 「あちらとこちらのアジサイで、花の色が違うのはなぜ?」というもの。 一般には『アジサイの花は、酸性なら青、アルカリ性なら赤』とされていますが、実際にはそのような単純な要素だけではないようです。 そのメカニズムは…『土壌中のアルミニウムがアルミニウムイオンに変化して根から吸収され、花に含まれるアントシアニンと結合すると青くなる。アルミニウムがアルミニウムイオンになるためには酸性でなければならない』 とのこと。 アジサイの七変化は、アルミニウム ・色素 ・酸性土壌という要素が 複雑に絡みあっているのでした。







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日々成長

 写真は、イボタガ。モクセイ科の樹木であるイボタノキを食樹(幼虫の餌)とする蛾です。 現在、事務所内で 5頭の幼虫を飼育しており、その成長を見守っています。外観上の特徴は、模様(色合い)と触角のような 7本(頭に 4本、お尻に 3本)の突起物。 なんとも目を引く幼虫ですが、成虫はそれにも増して特異的な姿となります。英名は Owl moth(フクロウガ)。まさに、フクロウを思わせる模様で見るものを驚かせます。 一説には、これにより、蛾の天敵である野鳥(←フクロウを恐れる)からのがれるとのこと。
 まもなく、この幼虫は蛹(さなぎ)となり、来年の早春、他の多くの蛾に先駆けて成虫になります。 終齢幼虫となった現在、すでに7本の突起物は無くなり、いまや その旺盛な食欲で、イボタノキの葉は見る間に無くなり、瞬く間に糞の山が築かれるのでした。





      写真にマウス・オン ⇔ 脱皮殻


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森姫と森太郎 (旬情報 番外編)

 長野県と新潟県の県境、関田山脈の鍋倉山には、‘巨木の谷’と呼ばれるブナ林があります。 無数にあるブナのなかで、『森姫』『森太郎』と命名された2本のブナは多くの人々に知られています。(森太郎は 林野庁 『森の巨人たち百選』 の一本)
 その2本の樹木診断を担当させていただいて今年で 6年目。 数百年を生き続ける樹木にとって、本来ならば 5、6年はわずかな時なのですが、残念ながらこの 2本にとっては、人間同様、けっして短い時間経過ではなかったようです。 特に森姫はこの 1年で、その姿をすっかり変えてしまいました。 今や、残された枝は、たった一本。 その枝が枯れれば、生命活動の停止 ⇒‘枯れ木’となります。 一方で、森太郎は衰退は進んでいるにしても、まだまだ生き続けることでしょう。 両者の明暗を分けた要因、それは人間が立ち入り易かったか否かと思われます。





        森姫             森太郎