2002年03月24日

古書街の順路(コース)

 扇辰さんの披露興行が上野鈴本で始まるので、会社を休んで上京。披露は夜席なのに昼過ぎに上野 に着いてしまったので、そのまま神保町へ。古本街に着くといつもの順路で巡ることになる。
 まず靖国通りに出て一誠堂書店→田村書店→小宮山書店→三茶書房で折り返して大屋書店→東陽 堂書店→けやき書店→白山通りを渡り豊田書店。これがお決まりのパターン。これに尾ひれがつくと回 るのに丸1日かかるので、今回は小宮山→ケヤキ→豊田だけにした。
 小宮山書店は古書のデパートだから、行けば何かしら買ってかえってしまう。今回も風呂敷持参で万全 の体勢でのぞんだが…。しばらく行っていなかったら、小宮山書店は1階のフロア入って左手全面をショ ーケースにして、澁澤龍彦の本の多くをその中に突っ込んでしまっていた。古書店のガラスケースは敷居 が高い。たとえ3000円の値札でも「3万円」と読み違えてしまう。ほかの人も眺めるばかりで、「出してく れ」の一言はついに言えずじまい。意気消沈のまま何も買わずに店を出る。
 どうもすっきりとせずけやき書店へ。ここは雑居ビルの6Fということもあり、あまりお客が大挙している ということはない。せいぜい2、3人だが、私が行くときは必ず先客がいる。この日も先客が二人、書棚を 物色していた。本を取る、開く、辺りを見回す、戻す。こう書くとただの挙動不審者に見えるがさに非ず。 店内がやけに騒がしいのだ。張本人はそこの店員。客はそれが気になって仕方がないらしく、本を手に とっても上の空だ。しかし、そんなことはお構いなしに店主らしき人物は大はしゃぎしている。
「このポスターいいな。」
 そんなことをいいながら、仕入れた大衆演劇のポスターを店員の女の子に見せている。いつのものだ か分からないが、赤字で大きく「金田春太郎一座」、続いて「金春ショー」「歌って踊れる侍」としてある。こ のご時世に平版印刷ではないかと思えるベタなポスターをはさんで、店主と店員の会話は続く。
「私これ買う。いくら。」
「五百円。」
「二枚で八百円では。」
「いいよ、それで。でもこんなもん買ってどうすんだよ。」
「部屋に張るんです。いいでしょ。けど、友達が来て、これ見て、ファンだと思われちゃったらどうしよう。」
 確かにね、女の子の部屋にこの手のポスターは普通はひくかもね。センスは嫌いじゃないけど。
 私も先客と同じで本のことなど上の空で聞き入ってしまった。いえ、けして悪いといっているのではなく、 むしろ好ましい姿だなと思っているんです。けやき書店はだからはずせないってね。
 小宮山の空振りを取り戻そうと、例の如く澁澤を物色していると、もう一人来店。迷いもなく私の隣へ。 あれ、この人小宮山にいたぞ。長身を黒服につつみ、ブルーのサングラス、キスリングを背負った姿は 間違いない。どうやら目的は同じだったらしい。なかなかいい男で、澁澤のように虚弱な、あるいは病的 なかっこよさがあった(私にはそう云う趣味はない。)。入念にチェックを入れて、一冊購入していった。古 書店を巡っていると少なからずこういう人に出会う。ここ二三年は澁澤を追いかけている同じ人に違う書 店で二度三度とぶつかる。一時期の鏡花ブームと同じだ。求める人が増えた分、時間の付加以上に値 が全体的に上がっているように感じる。昭和43年現代思想社刊初版函の『幻想の画廊から』が状態並で 2万円。ちょっと手が出ない。小宮山は新装版初版帯ながら署名つきで3万8千円(署名なしの同等品で3 千5百円)。これならショーケースに突っ込みたくなるのも分かる気がする。この間のヤフーオークションで 出ていた署名つき1万は買っておくべきだったな。憤懣やる方なく豊田へ、その足で上野にゆき、上野文 庫(どら焼きで知られる「うさぎや」隣)へもまわってみたがあまりこれといった収穫もなし。本郷にしとけば よかったかといまさら後悔。あっ、でもこの日の目的は「扇辰さん」なので、本などはどうでもいいんです。 どうでも…。




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