2002年08月05日

普蘭の百冊

 夏になると各社こぞって「百冊」フェアーを開催する(正しくは二社のみ、後の会社も似たようなことをや る)。最近のフェアーのラインナップを見ると、「どうしてこの本が?」と疑問視されるようなものもある。そ こでふらんの書庫でも「百冊」フェアー。有名無名を取り混ぜてちょっとdeepな推薦本をずらり百冊+α、 著者は一人に付き一冊のみ、文芸、評論、エッセイ、論考など、今年の夏の読書案内に。(順位不同・簡 単な解説付き)

○基本として文庫もしくは新書で発売されているものを選抜
○若干分類に無理がありますが、ご愛嬌ということで・・・。
○星はこの中でもどれくらいお勧めかを三段階で表示
☆☆☆ 管理人が好きなだけでは?と思う作品です。
★☆☆ 題名と著者に惹かれたらどうぞ。ちょっとナンありの曲者。
★★☆ 読んどいて損はないかな、という作品。オススメ!
★★★ ぜひ読んで、ぜひ。管理人のハマリ物。読んで面白いかどうかは保障せず。

○古代日本(鎌倉時代以前)を再認識する7冊
評価 題名 著者名 発行社名・収録書名
★★☆ 『道鏡』 坂口安吾 講談社文芸文庫 『桜の森の満開の下』
★☆☆ 『姫たちばな』 室生犀星 岩波文庫 『犀星王朝小品集』
★★☆ 『なまみこ物語』 円地文子 新潮文庫 
★★☆ 『軽王子と衣通姫』 三島由紀夫 新潮文庫 『殉教』
★☆☆ 『式子内親王』 馬場あき子 ちくま学芸文庫 『式子内親王』
★★☆ 『王朝文学の世界』 中村真一郎 新潮文庫 『王朝文学の世界』
★★★ 『日本庶民生活誌』 宮本常一 中公新書 『絵巻物に見る日本庶民生活誌』
 歴史小説は説明が多い所為か苦手であまり読まないのですが、上の四冊はなかなか面白く読めまし た。意外なのは坂口安吾の『道鏡』。およそ戦国時代に取材したものが多い安吾の歴史物のなかでも異 質です。しかし鋭い指摘は健在で、読みごたえあり。宮本常一の著作では平安から中世までの有職では 語られない市井の生活の一端を垣間見ることができます。

○宗教を考える10冊
評価 題名  著者名   発行社名・収録書名      
★★☆ 『沈黙』 遠藤周作 新潮文庫 『沈黙』
★★☆ 『瓶詰地獄』 夢野久作 ちくま文庫 『夢野久作集』
★☆☆ 『神曲』 ダンテ 岩波文庫 『神曲 上・中・下』
★★★ 『歎異抄』 親鸞(唯円) 岩波文庫 『歎異抄』
★☆☆ 『天平の甍』 井上靖 文春文庫 『天平の甍』
★★☆ 『明恵上人』 白洲正子 講談社文芸文庫 『明恵上人』
★★★ 『<こっくりさん>と<千里眼>』 一柳廣孝 講談社メチエ 『<こっくりさん>と<千里眼>』
★★☆ 『悪霊論』 小松和彦 ちくま学芸文庫 『悪霊論』
★☆☆ 『教祖誕生』 ビートたけし 新潮文庫 『教祖誕生』
★★☆ 『天皇ごっこ』 見沢知廉 新潮文庫 『天皇ごっこ』
 上三題がキリスト教、次三題が仏教、『<こっくりさん>と<千里眼>』は宗教ではないが、新興宗教の絡み で選びました。『悪霊論』も同様の理由。『教祖誕生』は新興宗教の発生についての『うゐ山ふみ』として 読んでみると面白いです。『天皇ごっこ』は読んでいて「○翼も◇翼も宗教だ」と感じます。それ以上に考 えさせられる一冊だと思います。

○死をめぐる10冊
評価 著者名   発行社名・収録書名         
★☆☆ 『コンセント』 田口ランディ 玄冬舎文庫 『コンセント』
★★★ 『犠牲-サクリファイス-』 柳田邦夫 文春文庫 『犠牲-サクリファイス-』
★☆☆ 『脳死』 立花隆 中公文庫 『脳死』
★★☆ 『死に至る病』 キルケゴール ちくま学芸文庫 『死に至る病』
★☆☆ 『蠅』 横光利一 岩波文庫 『日輪・春は馬車に乗って他八篇
★★☆ 『冬の蝿』 梶井基次郎 集英社文庫 『檸檬』
★★★ 『頻迦』 澁澤龍彦 文春文庫 『高岳親王航海記』
★★☆ 『死者の書』 折口信夫 中公文庫 『死者の書・身毒丸』
★★☆ 『医学生』 南木佳士 文春文庫 『医学生』
★☆☆ 『雲の墓標』 阿川弘之 新潮文庫 『雲の墓標』
 柳田邦夫と立花隆は対で読んでみると良いのではないでしょうか。キルケゴールは定番中の定番。折 口信夫は古代死生観に立った内容で、民俗学者ならでは。8月ということもあり、阿川弘之の『雲の墓 標』を入れてみました。田口ランディは読むべきはこれのみ、ラスト近くはばっさり切っても良いかもしれな い。澁澤龍彦は個人的趣味。

○猫好き・犬好き必読の書9冊
評価 題名    著者名     発行社名・収録書名        
★★☆ 『ノラや』 内田百 中公文庫 『ノラや』
★★★ 『ダーシェンカ』 カレル・チャペック 新潮文庫 『ダーシェンカ』
★★☆ 『猫語の教科書』 ポール・ギャリコ ちくま文庫 『猫語の教科書』
★☆☆ 『上にさぶらふ御猫は』 清少納言 岩波文庫 『枕草子』
★★☆ 『長靴をはいた猫』 シャルル・ペロー 河出文庫 『長靴をはいた猫』
★★★ 『ハラスのいた日々』 中野孝次 文春文庫 『ハラスのいた日々』
★☆☆ 『三匹の犬たち』 江藤淳 河出文庫 『妻と私と三匹の犬たち』
★☆☆ 『吾輩は猫が好き』 野坂昭如 中公文庫 『吾輩は猫が好き』
★★☆ 『猫町』 萩原朔太郎 岩波文庫 『猫町他十七編
 絶対『ダーシェンカ』は読んでください。あの『山椒魚戦争』を書いたチャペックが、イヌに聞かせる童話 にも同じように全精力を傾ける、彼のイヌへの愛情の深さを感じます。一方、内田百閧フ猫好きもこれに 劣ることはありません。切ないまでの「ノラ」への情愛、悲しい結末ですがぜひ。
 中野孝次の本は辛いときブルーなときはあまりお勧めできません。涙がとまらなくなるかも。

○活字のヴェルティージュ(眩暈)10冊
評価 題名     著者名  出版社名・収録書名         
★★☆ 『楼蘭東北仏塔』 中野美代子 ハルキ文庫 『眠る石』
☆☆☆ 『神州纐纈城』 国枝史郎 講談社大衆文学館 『神州纐纈城』
★☆☆ 『聊斎志異』 蒲松齢 岩波文庫 『聊斎志異 上・下』
★★☆ 『草迷宮』 泉鏡花 岩波文庫 『草迷宮』
★☆☆ 『星を作る人』 稲垣足穂 河出文庫 『ヰタ マキニカリス T』
★★☆ 『月の王』 ギヨーム・アポリネール 福武文庫 『アポリネール傑作短篇集』
★★☆ 『変身』 フランツ・カフカ 岩波文庫 『変身他一篇
☆☆☆ 『阿片』 ジャン・コクトー 角川文庫 『阿片』
★☆☆ 『箱男』 安部公房 新潮文庫 『箱男』
☆☆☆ 『死刑宣告』 萩原恭次郎 弥生書房 『萩原恭次郎詩集』
 ★数が少ないですが、完全自己満足のラインナップなのでスミマセン(この『百冊』自体がそうなのです が…)。上七冊はジャンル的には『奇譚』ですが、『阿片』は精神的、『箱男』は感情的、『死刑宣告』は視 覚的に眩暈を生じます(私は)。

○固定観念蹂躙の10冊
評価 題名          著者名   出版社名・収録書名          
★☆☆ 『小説平家』 花田清輝 講談社文芸文庫 『鳥獣戯話 小説平家』
★☆☆ 『バールのようなもの』 清水義範 新潮文庫 『バールのようなもの』
★☆☆ 『隠された十字架』 梅原猛 新潮文庫 『隠された十字架』
★★★ 『景観から歴史を読む』 足利健亮 NHKライブラリー 『景観から歴史を読む』
★★☆ 『美術の解剖学講義』 森村泰昌 ちくま学芸文庫 『美術の解剖学講義』
★★★ 『帯をとくフクスケ』 荒俣宏 中公文庫 『帯をとくフクスケ』
★★☆ 『木馬と石牛』 金関丈夫 岩波文庫 『木馬と石牛』
★★☆ 『朱儒の言葉』 芥川龍之介 岩波文庫 『朱儒の言葉』
☆☆☆ 『新化』 石黒達昌 ハルキ文庫 『新化』
★★☆ 『悪魔の辞典』 A・ビアス 岩波文庫 『ビアス短篇集』
 いろいろな意味で固定観念を変えてくれた10冊です。この項目の本は変にネタばらしをしないで、読ん でみてからのお楽しみということで・・・。

○五感で日本を感じる10冊
評価 題名       著者名  出版社名・収録書名          
☆☆☆ 『茶の本』 岡倉天心 岩波文庫 『茶の本』
★★★ 『陰翳礼讃』 谷崎潤一郎 中公文庫 『陰翳礼讃』
★★☆ 『無常と云ふこと』 小林秀雄 岩波文庫 『モォツァルト・無常と云ふこと』
★★☆ 『「いき」の構造』 九鬼周造 岩波文庫 『「いき」の構造』
★★☆ 『梁塵秘抄』 後白河法皇 岩波文庫 『梁塵秘抄』
★★☆ 『きもの』 幸田文 新潮文庫 『きもの』
★☆☆ 『こぼれ種』 青木玉 新潮文庫 『こぼれ種』
☆☆☆ 『菊と刀』 ルース・ベネディクト 現代教養文庫 『定本・菊と刀』
★★☆ 『山の生活』 柳田國男 岩波文庫 『遠野物語・山の生活』
★★☆ 『真景累ヶ淵』 三遊亭円朝 岩波文庫 『真景累ヶ淵』
 現代日本の文化は室町から江戸にかけて成立したことがよく分かる10冊。『茶の本』『陰翳礼讃』『無 常と云ふこと』からは侘びを、『「いき」の構造』『きもの』『こぼれ種』からは江戸の慎ましやかな精神性を 感じ取れるのではないでしょうか。

○いろいろな愛の形10冊
評価 題名        著者名   出版社名・収録書名      
★★☆ 『ハチ公の最後の恋人』 吉本ばなな 中公文庫 『ハチ公の最後の恋人』
★☆☆ 『きらきらひかる』 江國香織 新潮文庫 『きらきらひかる』
★★☆ 『放課後の音符(キイノート)』 山田詠美 新潮文庫 『放課後の音符(キイノート)』
★☆☆ 『十三夜』 樋口一葉 岩波文庫 『大つごもり・十三夜他五編
★☆☆ 『今戸心中』 広津柳浪 岩波文庫 『今戸心中他二篇
★★☆ 『春日狂想』 中原中也 岩波文庫 『中原中也詩集』
★☆☆ 『赤西蠣太』 志賀直哉 新潮文庫 『小僧の神様・城の崎にて』
★☆☆ 『文七殺し』 山本昌代 新潮文庫 『文七殺し』
★★☆ 『O嬢の物語』 ポーリーヌ・レアージュ 河出文庫 『O嬢の物語』
★★★ 『陛下』 久世光彦 新潮文庫 『陛下』
 10冊がすべて違った『常ならぬ愛』を語っています。この10冊を読み直して感じることは「正常」なんて 存在しないということ、でもオススメが『陛下』だけというのは変ですね。ろくな恋愛してないってことか…。 恋愛作品は女性の書いたものの方が圧倒的に多いのですが、共感できる事が少ないので割と読んでい ません(基本的に男の人って上三冊とかは読まないのかな?)。反対に『O嬢の物語』は女性にはかなり つらい内容かもしれません。

○意地と執念の10冊
評価 題名 著者名  出版社名・収録書名          
★★★ 『五重塔』 幸田露伴 岩波文庫 『五重塔』
★☆☆ 『青銅の基督』 長与善郎 岩波文庫 『青銅の基督』
★★☆ 『名人伝』 中島敦 岩波文庫 『山月記・李陵他九篇
★☆☆ 『恩讐の彼方に』 菊池寛 講談社大衆文学館 『仇討短編小説集』
☆☆☆ 『聴雨』 織田作之助 ちくま文庫 『聴雨・蛍』
★☆☆ 『強力伝』 新田次郎 新潮文庫 『強力伝・孤島』
★★☆ 『葉花星宿』 松本清張 文春文庫 『文豪』
★★☆ 『孫子』 海音寺潮五郎 講談社文庫 『孫子』
★☆☆ 『新釈諸国噺 裸川』 太宰治 新潮文庫 『お伽草紙』
★☆☆ 『提婆達多』 中勘助 岩波文庫 『提婆達多』
 前項の華やかさに比べると、かなり渋いです。やはり『五重塔』は名文であり名作なので外せません。 中島敦というととかく『山月記』『李陵』とこうなりますが、『名人伝』や『文字禍』など珠玉の小品はまだまだ あります。織田作之助も軽げでいい作品があるのになかなか読まれません。この夏にでもいかがでしょ う。

○演劇を読む5冊
評価 題名    著者名        出版社名・収録書名 
★★☆ 『サロメ』 オスカー・ワイルド 岩波文庫 『サロメ』
★★★ 『ピグマリオン』 バーナード・ショー 講談社文庫 (絶版)
★☆☆ 『毛皮のマリー』 寺山修司 角川文庫 『毛皮のマリー』
★☆☆ 『仮名手本忠臣蔵』 竹田出雲 岩波文庫 『仮名手本忠臣蔵』
★★☆ 『南の島に雪が降る』 加東大介 ちくま文庫 (絶版)
『毛皮のマリー』といえば美輪明宏。これも寺山修司が彼のために書いた作品らしいです。(古代日本を 再認識する7冊であげた三島由紀夫の作品の入った、新潮文庫の『殉教』の中に収められた『孔雀』も美 輪明宏に捧げられた作品です)『ピグマリオン』は手を変え品を変え何度も舞台化・映画化された作品で す。『マイフェアレディー』も『プリティーウーマン』もこれが原典。

○江戸の底力6冊
評価  題名 著者名   発行社名・収録書名          
★★☆ 『南総里見八犬伝』 曲亭馬琴 岩波文庫 『南総里見八犬伝』
★★★ 『世間胸算用』 井原西鶴 小学館ライブラリー 『世間胸算用』
★☆☆ 『北越雪譜』 鈴木牧之 岩波文庫 『北越雪譜』
★☆☆ 『えみしのさへき』 菅江真澄 平凡社ライブラリー 『菅江真澄遊覧記』
★★☆ 『白峰』 上田秋成 ちくま学芸文庫 『雨月物語』
★☆☆ 『耳嚢』 根岸鎮衛 岩波文庫 『耳嚢 上・中・下』
『世間胸算用』があがっていますが、井原西鶴の作品はどれも面白いです。太宰治をして「モーパッサン よりも誰よりも世界で一番偉い作家」評された西鶴は必読です。『南総里見八犬伝』は大河小説のはしり にして最高傑作、上田秋成は日本綺譚小説の父、菅江と牧之は民俗学の先駆。『耳嚢』は近頃怪談集 のように宣伝されていますが、江戸の旗本たちの収集癖から生まれた『江戸版今昔物語』。どれとっても 面白いのに言葉の壁がね…。

 ○欄外特撰3冊
評価 題名        著者名  発行社名・収録書名           
★★★ 『落語への招待』 江国滋 朝日文庫 『落語への招待』
★★★ 『厄除け詩集』 井伏鱒二 講談社文芸文庫 『厄除け詩集』
★★★ 『スローカーブを、もう一球』 山際淳司 角川文庫 『スローカーブを、もう一球』
 欄外といっても落ちるわけではありません。星を見て分かるようにむしろオススメ度大です。特に『スロ ーカーブを、もう一球』は甲子園の高校野球開催中に読んでいただきたい一冊です。

○次点5冊
題名   著者名 発行社名・収録書名
『瀕死の探偵』 コナン・ドイル 新潮文庫 『最後の挨拶』
『樅の木は残った』 山本周五郎 文春文庫 『樅の木は残った』
『司馬遷』 武田泰淳 講談社文芸文庫 『司馬遷』
『果心居士の幻術』 司馬遼太郎 新潮文庫 『果心居士の幻術』
『古田織部の茶道』 桑田忠親 講談社学術文庫 『古田織部の茶道』
 選外ですが、ふらんのはまり物です。『瀕死の探偵』はシャーロック・ホームズ作品60篇の中でもかなり マイナーな作品ですが、仕掛けが結構好きです。『古田織部の茶道』は茶道開眼の一冊。現在、古田織 部の武将としての評価は不当に低いと思います。この本で「戦国ダンディズムのかたまり」織部を再認識 しましょう。




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