2003年03月02日

ぐるぐる

人は廻って空へと昇る
 エジプトのピラミッド、アラブのジグラット、中国西安の大雁塔、南米インカの太陽の塔。
 洋の東西、時代の新旧を問わず塔は建てられ、そして破壊が繰り返された。人間が空を自由に飛ぶことが できるようになった今日でさえそれは変らない。塔の持つ魅力、神と感応する台。そのためには旋回して昇ら なければならない。輪廻の意味、あるいは胎内回帰の思想もここには見て取ることができる。
 泉鏡花の『天守物語』のように塔の上層には怪異が現れることがよくある。それは神に近付こうとする人間 のエゴの姿か?それとも神への畏怖から見える幻視なのか?
左上(バビロンのジグラット アタナシウス・キルヒャー著『バベルの塔』) とにかく高い。土台に対してのバランスは一切無視してい る。このキルヒャーは17世紀の博物学者で、この本の中で「なぜ月まで塔が届かないか」などを大真面目に論じている。   右上 (旧正宗寺円通三匝堂) 俗に「さざえ堂」と呼ばれる仏堂。内部が二重螺旋構造になっており、のぼりとくだりで同じ回廊を通らない 構造になっている。「三匝(さんそう・三回めぐるの意)」とは、のぼりに2分の3周、くだりに2分の3周、あわせて3周するため。    (五徳山水澤寺六角堂) 塔の内部に回転する厨子があり、六地蔵を安置する。これを廻すことで六道輪廻の安寧を願い、また祖霊 の成仏を祈った。インドのマニ車を思い起こさせる。   右下(P・ブリューゲル『バベルの塔』) 見た目にも分かるようこの塔はすでに 左傾し、失敗を暗示させている。ブリューゲルはこの絵を描くためミナレットやモスクなどを参考にしたという。


天の気、地の気
「女心と秋の空」とか「猫の目と天気」とか、とかく変りやすい天気。雷はその典型で、一転にわかに掻き曇り ごろごろと鳴り出すと一閃ピカッ、とこれです。やはり聖書に言う「神の火」のイメージはここにあるでしょう。東 洋では雷公あるいは雨龍で現される雷も、アメリカでは鳥(サンダーバード)となるのは興味深いです。
 一方地の気、風水で言えば竜脈、インドの「チャクラ」もうねうねとした蛇のように表されます。
 日本では雷の神、加茂の神も蛇体で表わされますし、地の脈=鉱脈あるいは水脈と見れば百足や蛇がこ れらの守護神と見られていますから、うねうねと捉えどころのない「気」というのを具象化するには蛇は格好の 生物だったのでしょう。
左上(雷文)中上(雷紋) ラーメンを食べるどんぶりについている文様を雷文という。四方自在に走り回る雷光を四角い渦で表わすの は、おそらく円形の渦巻く黒雲から生じるため。方と円、光と闇の陰陽の思想からであろう。雷紋は日本の家紋。葛飾柴又帝釈天で有 名な題経寺の寺紋でもある。   右上(倶利伽羅) 不動明王の変化身。明王の持物、利剣と羂索を表わすものとされるが、剣に絡 みつく黒龍は地の気「チャクラ」を表しているとも言われている。   中央(雷光) この稲妻に古来より昇竜をみてきたのである。この 形、倶利伽羅の姿に似ていないこともない。   左下(『銅の蛇を掲げるモーセ』) 人々を戒めるために神が放たれた毒蛇から皆を救 うため、銅の蛇を広場に掲げるモーセ。現在アメリカの救急車に描かれている「カドゥケースの杖(医療のシンボル)」はこのモーセの銅 の蛇を図案化したもの。天から降る蛇と地から湧いた蛇の相克の図。   右下(四手・御幣) 稲妻を象ったともいわれる。紙の三ヶ所 に交互に切れ目を入れ、まわす様に折っていく。串ともいい、元は神饌の食器であったらしい。


神聖なものは捩じれあう
 捩じれあい絡まりあい、永遠に続いていく螺旋。撚れることは生命のほとばしりを意味する。平安京の四 神、青龍に比定される賀茂川は、護岸工事をしているにもかかわらず二度三度と流れを湾曲させている。こ れは氾濫防止の意味よりも、流れを直線的にすることで気の流れ=青龍の勢いを殺すのを恐れたためであ ろう。
左上(注連縄) 神域を表すものはたいてい「双」のイメージがある。ふたつが捩じれ合う注連縄は、古来の蛇身の神を思わせる。横綱 の締める縄も神の依りましとしての縄。某俳優の首に下がるスカーフ(本当は着物の帯揚げだそうだが)も神域を表すのか?    (藤の蔓) 藤は単独では上へとは伸び上がれない。絡み合い寄りかかり成長する。鎌足に「藤原」の姓を与えたのは「生命の強い 生物の名」を付けることで自らの一族も伸びることを願ったためであろうが、どうやら天皇家という大樹に寄生することまであやかってし まったらしい。   右上(エジプトのヒエログリフ) 中ほどにある捩じれた紐のような模様は、アルファベットの「h音」を表すと同時に 「長い・縒り合わされた」などの意味を持つ。この記号を二本描き、その間に◎(太陽・光の意味)を書くと「永遠」という言葉になる。    右中央(伏儀女禍の図) 中国創世神話に出てくる兄妹の夫婦。半人半蛇で尾を絡めながら円の象徴「矩(コンパス)」と方の象徴 「規(スケール)」を持つ。   右下(DNAの単純模式図)


自然の相似形
 世界中には自分に似た人が三人はいるそうだ。いるものなら遭ってみたいが、その人の身長や格好は私と まったく同じなのだろうか?身長が少しでも高くなっただけでも顔つきは変わるから、同じかもしくは比率を崩 さず大きくなったり小さくなったりしなければならない。また顔かたちが似ていると声は似るというし、性格はと もかくとしても体質はかなり近いのではないか。しかし、芥川龍之介のように死んでしまってはつまらないか ら、やはりやめておこう。
左上(おおくま座 渦巻星雲M101=NGC5457)   右上(台風)   左下(オウムガイ) 生きた化石。オウムガイはその姿がオウム のくちばしに似ているため名づけられた。貝というが、生物学的にはイカに近い。この殻を真っ二つに割ると中は竹の節のように小さな 部屋に仕切られている。   右下(黄金螺旋) 縦横を黄金率に分割した長方形を、短い辺を半径とした弧により分割していく。すると 内包する螺旋が現れる。オウムガイの螺旋はこの螺旋にかなり近い形状である。


廻る廻る運命の糸車
 能楽『葵上』に「浮き世は牛の小車の 廻るは報いなるらん 何を嘆くぞ葛の葉の 恨みはさらに尽きすま じ」という言葉が出てくる。怨みは恐ろしい。特に女の怨みは。怨みは新たな恨みを生み、終わることがない。 怪談牡丹燈籠などにいう「七代祟る」とはすさまじい。一代三十年として二世紀祟られることになるのだ。
 西洋には運命の糸車という考えがある。ギリシャ神話に出てくる三人姉妹の運命の女神モイライのことであ る。運命の糸を紡ぐ(誕生)のがクロト、これを巻き取る(人生)のがラケシス、最後の鋏を入れる(死)のがア トロポスである。
左上(歌川広重『鳴戸渦潮図』) この渦の中から日本の創世神・天御中主神は生まれた。   右上(タロットカード「運命の環」) 大 アルカナの十番目の札。中心の環の上には三位一体を表わすスフィンクス。四隅の有翼の動物は四方を守る神、蛇は生を獣頭人身 の動物(おそらくアヌビス神)は死を意味する。環の中の文字は読み始めの文字を変えることにより様々に読める。   右中央(太陰 の図) いわずと知れた模様。陰陽の世界で森羅万象を表わす。   左下(片輪車螺鈿蒔絵手箱) 「源氏車」とも呼ばれる。牛車の 車輪は輪廻の象徴。末法の世にあって車輪が流水に弄ばれる悲壮的な図柄…と思いきや、さにあらず。木製の車輪は乾くとひしゃげ てしまうので、川に水につけて適度な湿気を与えておくという「実生活」に根付いた図案。   右下(法輪・宝輪) 仏教法具のひとつ。 輪宝とも。インドの初期仏教では仏陀を描くことを禁止していたので、仏足や法輪で表わしていた。輪廻の象徴であり、源氏車の模様 の元とされる。如意輪観世音が左の人差し指の上に載せていることもある。




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