法師功徳品 (3) 耳の功徳
世尊
「五種法師ごしゅほっし の行に励み進むと、衆生の耳は清浄になっていきます。
その結果、あらゆる音や声を聞き分けることが できるようになるのです。
音とは、ものが動くときに起きる震動によって、生じる波動はどう なのです。
信仰が深く心が澄みきった人は、音を聞き分けて、微妙なものの動きでも 察知できるようになります。
火声(火の燃える音) 水声(水のせせらぎ) 風声(風のひびき)など 自然が発する音を聞いただけで
自然界の動きが手にとるように 瞬時に分かるようになるのです。
後世 日本の国に輩出した剣豪/宮本武蔵は 宇宙の五つの要素(地・水・火・風・空ちすいかふうくう)を
「五輪書」ごりんしょ に書き 世の人々を教化しました。彼も 自然界の法則をマスターしたひとりです。
「響く言葉/[」・宮本武蔵・
自然界の音は、人の心を癒す美しい音色にも聞こえたり、ときには、思わずざわっとする寒気や
あるいは、身の危険を感じる不気味な音にも 聞こえたりするのです。
その現象の真相を 敏感に感じとることができたら、突風・津波・洪水などから、人々を守ることができます。
自然界の現象を察知する本能的な感覚は、人間よりも、動物たちの方が鋭いのです。
しかし、人間が吹いたり・奏かな でる楽器の音を聞く 音楽鑑賞などの特別な感性になると
演奏者の心の温度や、気持ちの乗り具合を感じとることなどは、人間だけが出来得るのです。
また、熟練した技師の場合には、長年の経験から培った能力として
機械の発する音で機械のどこが調子悪いのかが、すぐ分かるのです。
大勢の人間が それぞれ 異なる楽器を同時に演奏する オーケストラの名指揮者は、
どの楽器の音が、ほんの少し低いとか高いとか、あるいは、どの楽器のリズムが狂ったとか、
どの演奏者が廻りとチグハグとか 普通の人には気がつかない微妙な狂いを、聞き分けることが可能です。
法師の場合、人間の指導者だから、生き物の発する音声から その心の状態を敏感に察知できます。
生き物の出す音や声は、たんに声帯の振動だけでなく、感情や意志の影響を強く受けています。
その感情や意志の影響が、声や動作の音に如実にょじつ に現われ出るのです。
感情の激しい動き・嬉しさ・悲しさ・苦しさ・などの時の音や声は、皆、微妙に違うのです。
五種法師の行を深く積んだ衆生は これらの声の真意を、聞き分けることができます。
さらに、信仰度が深くなるにつれて
地獄声じごくしょう (地獄の苦痛の叫び声) 畜生声ちくしょうしょう (悩みに苦しむ声) 餓鬼声がきしょう (飢えに苦しむ声)
阿修羅声あしゅらしょう (いがみ合い罵倒し合う声) なども聞き分けられるようになります。
さらには、天上界からの言葉や・比丘・比丘尼・菩薩が説く教えの言葉なども、聞くことが可能になるのです。
つづいて、経文の言葉を、説明しましょう。
音・声を聞いて 箸じゃく せじ‥‥とは
美しい音楽や歌声を聞いて 美しい音色と聴き惚れることがあっても その音楽・歌声に執着しない、という意味。
音楽や歌声は、あくまでも娯楽であって それに捉われて 大切な仏の道を忘れてはならない、という教え。
耳根にこん を 壊やぶ らじ‥‥とは
三千世界のあらゆる音・声を聞いても 耳がつぶれることや 精神が混乱することは無い、という意味。
普通の人は、悩み苦しむ悲痛な叫び声や、大声で喧嘩し合う声を聞くと、精神が混乱しますが
五種法師の行を深く積んだ人は 平静な心でその音を聞き分けることができる、という教え。
世尊
「次に、鼻の功徳を説きましょう。人間のもつ五官のなかでも、鼻は最も動物的な器官といえます。
直感的感覚では、動物の世界でも、人間の世界でも、五官のなかの鼻が、ダントツの一番です。
空気の流れに左右される匂いというものは、じつにとらえにくいものです。
その匂いを、一瞬の感覚で判断することができるのが、鼻なのです。
だが 鼻はすぐ近くの匂いは、簡単に嗅ぐことができるが、遠くの匂いは、なかなか嗅ぐことが難かしいです。
五種法師の行を深く積んだ人は、遠くの匂い・近くの匂い・どんな匂いでも、嗅ぎ分けることができます。
尚 高いレベルに到達した衆生は、人間の心(気持ち)も、匂いのように、嗅ぎ分けることができるのです。
人間の心の匂いとは 人間の心の奥底の気持ち、つまり 「深心の所箸」じんしんのしょじゃく のことです」。
(4)へつづく 舌の功徳