レタリングとデザイン |
わたしたち日本の社会で使用している文字は、漢字、ひらがな、カタカナ、そしてローマ字です。
漢字やかな文字の場合には、「書道」という独特のものがあって、これは文字を美的なオブジェとして書く芸術をいうのです。 その伝統は長く深い。それは西洋のカリグラフィというものとは比較にならない相違であります。 文字をデザインすることがレタリングなのですが、レタリングは本来「文字を書く」という意味です。 わたしたちがなぜ文字を書くということに「レタリング」という英語 (すでに日本語になっているが) を使うのかといいますと、伝統的な書道が存在しているので、社会的な意味において文字をデザインすることについては、あえて「レタリング」といっているのです。 だからこうした文字を「デザイン文字」などともいうのです。 活字や、写植文字、タイプライター、ワープロ、パソコンなどの文字はもちろん、ポスターの文字、書籍や雑誌の題名や見出し、新聞広告や雑誌広告の文字、包装紙やパッケージの文字、看板や標識の文字、企業の名称の文字、テレビや映画のタイトルやコマーシャルの文字、などなど、例をあげるときりがないほどに、レタリングの必要性は増大しています。 その必要性の理由については、ここでは省略しますが容易に理解できるでしょう。 朝おきて夜寝るまで、毎日どれくらいの数量の文字と、どのくらいの種類の書体を見て生活しているのか計り知れませんが、そのたびに、美しいと思ったり、ときには不快であったりしていると思われます。 レタリングをするということは、人々に気持ちのよい文字に接してもらいたいということが第一にあります。 そのためには、人々に共鳴してもらえ、同意してもらえ、協同してもらえるデザインが必要でありましょう。 デザインというものは、もともと社会的なものでして、私的な、あるいは、個人的なものではありません。 現代のように情報化社会とか、コンピューター社会、あるいは、ハイテク社会、つまり高度工業技術社会などといわれて、社会生活が高度化しても、コミニュケーション(伝達)の手段としての文字の役割は、増大することはあっても減少することはないでしょう。 ただ、文字の形態については、かなりの変化があると思われます。 レタリングをするということは、文字の約束と伝統をふまえたうえで、常に時代の精神を取り入れた新鮮な感覚で文字をデザインするということです。 そして、まず古典的といってもよい基本的な文字の形態を知っておかなければなりません。 その上で、自由闊達(かったつ)なレタリングをするように努めたいものです。 |
1990年10月25日発行
別冊アトリエ bP47 「新レタリングの書き方」よりの抜粋です。
著者;女子美術大学デザイン科・教授 田中正明 助教授 立石雅夫
発行所;アトリエ出版社
東京都新宿区四谷2−8新一ビル 電話03-357-2741
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