小林歯科診療所


思いつくままに(その3)

[入れ歯と上手に付き合う法]

 患者さんから、入れ歯、特に総入れ歯(総義歯)に対する不満を沢山聞きます。曰く、「噛め
ない・痛い・噛むと落ちる浮き上がる・じゃま・しゃべりにくい、これなら無くても不便はない。」
 確かに、なくした歯が少ない内は、無くても不便はありません。歯が1本もなくても、合わない
噛めない入れ歯より、ない方がセイセイして、良いかもしれません。しかし、やはり入れ歯は、
入れておく必要があるのです。その必要であることを理解して、納得して入れておかなけれ
ばと思いこめば、不思議にしっとり落ち着きます。慣れることが第一なのです。
 理解して頂くためには、専門的な解説も入ってしまいますが、保健所でお話ししたことを下敷
きに纏めてみました。

1.歯の欠損 歯を失うこと
  原因は、いくつか有ります。
    むし歯:放っておいたむし歯がぼろぼろになり、治療しても十分噛める頭(歯冠と言いま
         す)が付けられない場合や、化膿が根の先にあり(骨の中に膿の袋を作って)、
         掃除しても完全にはきれいに出来ず再発の危険がある場合など、保存できず 
         に抜歯します。
    歯周病:老化によって誰でも持っている病気ですが、歯に付いた汚れにばい菌が群が 
         り、歯肉が腫れたり出血したりします。やがて歯を支えている骨が溶けて少なく
         なり、無くなってしまいます。歯が揺れたり、噛めなくなって、ついに抜かざるを 
         得なくなります。
    外傷(けが):ぶつけて折れたり割れたり、植わっている骨の穴(歯の桶の意味で歯槽と
         言います)から抜けてしまい(脱臼)、保存できなくて歯をなくします。

2.なぜ欠損のままではいけないのか

 1)歯の役目−食べ物をかみ砕くだけでなく、いくつかの役目を持っています。
    咀嚼(噛む):1・2本歯が無くても、噛めます。が、本当はかなり噛む能力は落ちます。
        6番目の歯(第一大臼歯・一番大きな歯)1本無くても30%噛む力は減ります。
    摂食(食べ物を口の中に取り込む):この役目は忘れやすいのですが、唇と舌と一緒に
        働いて、食べ物を口の中に取り込みます。
    嚥下(飲み込む):かみ砕いた食べ物を唾液と混ぜ、舌、頬、上あごと一緒に飲み込み 
        やすい形にまとめます。
    発声(しゃべる・歌う)前歯が無ければ、十分発声できないでしょう。前歯だけでなく、奥 
        歯も共鳴に役立っています。
    美容(見た目):明眸皓歯と言う言葉があるくらい、歯は美貌の中心になっています。

 2)噛むことと全身との関係
    全身の機能を調整する⇒脳と直接結びついています
     ・噛むことで唾がよく出るようになります。
     ・噛めと言う指令は、脳から口へと伝えられます。
     ・逆に、噛むと、口の中にあるセンサーが脳への血流を増して、脳を刺激します。
    ボケを防ぐ⇒脳の活性化により押さえられます。
     ・この脳への刺激が、ボケの予防になると言われています。
     ・ボケの代表「アルツハイマー病」の患者さんは、同年代の方より多くの歯を失ってい 
      ます。又、義歯を使っていない方が多いことが判っています。

 3)噛み合わせと全身との関係
  正しい噛みあわせが全身とかかわっています。歯を失って、特に奥歯を多くなくすと、顎の 
    関節に強い力がかかってカリカリと音がするようになったり、噛むと痛くなったり、ひどい
    場合は口が開かなくなったりします(顎関節症)その結果
  ・姿勢が悪くなる→肩がこったり、背がゆがんだり、
  ・バランスが悪くなります。
  ・運動能力が劣る→優れた運動選手は、いい噛み合わせを持っています。

 4)欠損のままで直接どうなるか
  ・歯が移動する
上下しっかり正しく咬み合っています→ 1本歯が抜けます
主に後の歯が前へ移動しながら倒れます
咬み合う上の歯は、飛び出してきます

  ・噛み合わせが変わる
顎の関節は、宙に浮いたような形です 歯が無くなると上下の接触が無くなり、
上下顎の距離(顎間距離)が狭くなります
時には、浮いていた顎の関節が接触し、こす
れて、音がしたり、痛くなることがあります
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3.欠損の補い方   (説明図)
   ブリッジ:歯と歯の間に橋のように取り付ける
   義歯=入れ歯:肉の上に座布団のような床をつけた取り外し可能なもの

4.入れ歯の分類 (説明図)
  大きさによる
   局部床義歯:部分入れ歯
   総義歯:総入れ歯
  材料による         
   レジン床:プラスチック
   金属床:実際は金属の骨組みにプラスチックを組み合わせる

5.入れ歯はなぜ噛めるのか、落ちないのか
   部分入れ歯:残った歯にばね等で引っ掛ける
   総入れ歯:吸着:吸い付く
           ・上顎(上あご)は面積が広く吸着の力を出しやすい。
           ・下顎(下あご)は馬蹄形で細く安定が悪いので、吸着力は付けにくく、頬・唇
             や舌が義歯の両側にあり、持ち上げてしまいます。
        咬合圧:咬む力で歯肉・骨に義歯を押しつけ、食べ物をかみ砕くことが出来ます。
             総入れ歯が落ちずに噛めるのは、この力が、大部分を占めています。
【上】上下が正しく咬み合っています
【右上】正しい位置で咬み合うと、上下垂直 の力がかかり、骨に押しつけられるようにな りますから、づれずに噛めます
【右下】骨の頂点(歯槽頂)から外にはずれ る方向に力がかかると、反体側が浮き上が り、義歯ははずれます。

6.入れ歯使用上のこつ
   とにかく慣れることです。
     歯があった時のように、「ガツガツ」と噛まず、奥歯を「ズゥズゥ」と噛みしめます。
     下顎では、舌が内側から土手に押しつけるように設計されています。口を大きく開けす
     ぎると、浮き上がります。
   異物感はあるのは当然です。
     どんな材料で、どんなに小さく作っても、じゃまになります。痛くない限りは、慣れること
     が出来ると信じて下さい。
   唾の出は悪くなります。
     緊張感異物感から口が渇いた感じがします。唾液の出が悪いと、食欲も衰え、味も悪
     く感じます。義歯の滑りも悪くなり、すれて痛くなったりします。
   多少会話がしにくくなります。
  慣れることにより、緊張感も薄らぎ、唾液の出も次第に元に戻り義歯も身体の一部になっ
    ていきます。最初は、しゃべりにくく、他人も聞きづらいと思ってしまいますが、聞いてい
    る方には聞きづらいということは、それほど多くはないのです。慣れてしまえば、ごく普通
    に会話が出来ています。
7.入れ歯の手入れ
   食後の清掃
     軽く水洗い。汚れが付いてい取れない時でも、ブラシで強くこすると、床のプラスチック
     がすり減りますので、軽くなでる程度にしましよう。義歯専用のブラシも有効です。
     市販の義歯洗浄剤も有効です。1週に2〜3回で効果があります。
   熱湯はかけない
     変形することがあります。
   落とさない
     破損したり、バネが曲がったりします。洗面台や机に近づけて、取り扱って下さい
   寝るときは:はずす?はずさない?
     はずして歯肉を休めるーという説もあります。方法としては、正しいのですが・・・
     噛み合わせを維持したり、残っている歯の負担を軽くするために、はめたまま寝ること
     をお勧めしています。
   保管する時
     常に装着しているのですから、保管することはないはずです。が、擦れて痛かったり、
     破損したり、やむを得ずはずす時は、透明な、中身の見えるようにしておきます。間違
     って捨てないためです。出来れば、水の中が良いのです。
8.入れ歯の寿命
   痛くなった時
     削りあわせなど、調整で、使用できます。
   合わなくなった時
     骨や、肉の変化によることが多いのですが、裏打ちして合わせることが出来ます。
     クッション材は、応急的なものです。一時的に留め、裏打ちによって改善しましょう。
   破折(壊れた)した時
    時間経過により、プラスチックは劣化し、金属は疲労します。寿命といえます。再製作の
    必要があります。

番外.歯科医師が入れ歯を作るとき心がける事
      この内容を理解して頂ければ、より上手に、入れ歯とつき合えます。
 1.歯肉の状態、残存歯の状態
     この状態を十分把握できれば、よい入れ歯が出来ます。逆に、状態が悪いと、良い結
     果が得られません。
        ドテ(顎堤といいます)の高さ:高く幅があると良い。
        小帯(スジ)・舌の動き:動きが大きいと、はずれたり、擦れたりする。
        唇・頬とドテの間の空間の深さ(口腔前庭):深いと安定する。
        土手の内側の舌との間(口腔底)・上顎全体(口蓋):深いと安定します。
 2.印象:正確に型を取る
     ぶよぶよの歯肉や、異常な骨の出っ張り(骨隆)がじゃまになります。
 3.咬合:正しい噛み合わせ
     患者さん本人が判らないのを、探し出します。間違えると、駄目な入れ歯になります。
 4.人工歯の配列:歯を並べる位置と、方向の決定
     上下の顎では、歯が無くなった時、骨の吸収の程度・方向が異なります。上下の顎の
     位置がずれますので、修整します。原則的に、噛む時の力は、義歯を内側方向に押し
     つけます。その力のおかげで、噛む時義歯は安定します。
 5.部分入れ歯では
    バネの配置:安定するため、3点で支持します。正三角形の頂点にバネが架けられれ 
            ば、安定します。その位置に、歯がないと苦労をします。
    遊離端義歯:最後に歯がないので、バネを付ける場所の選択に工夫がいります。
            通常は、反対側までのばして、バネを架けます。そのつなぐ方法によって、
            じゃまな感覚に違いが出ます。

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