今月のひとこと バックナンバー【平成20年】

平成20年
《1・2月》
 朝日新聞に、「骨髄細胞を使った、歯槽骨の増骨」に関する記事が載っていました。詳しい情報は専門誌からも得
てはいませんが、血小板を使う同様の方法は、実用化されていますから、可能な方法である事は確かです。顎堤
(歯茎の土手)が吸収して平らになっている場合、増骨して高さを確保する事が出来ます。(正しくは、出来る事もあり
ますの段階ですが・・・)
 新聞記事では、増骨した部位に、インプラントを埋め込むとありましたが、いずれも健康保険の適用外です。骨髄採
取と増骨手術の料金設定が分かりませんが、1歯ならば増骨手術なしでも対応できますから、数歯でも数十万円
か、無歯顎に近いと考えれば、数百万円の費用がかかるはずです。
 福音のように書く場合、費用についての記述も合わせ掲載して頂きたいところです。

《3月》
 歯科の治療で難しいのは、矢張り有床義歯(入れ歯)でしょう。充填やクラウンブリッジ(詰め物と被せ物:冠)は着
けて調整すれば終わりです。そのまま自分のものとして使えます。
 一方義歯は、装着してからが大変です。柔らかい粘膜の上に乗っているだけですから、噛む力がかかると、あちこ
ちあたって痛くなります。時には、傷になる事もあります。その部分を見付けて調整を繰り返します。ところが、何回調
整しても痛くて使えない事があります。それでも作り直しを含めて、必ず使えるようになります。噛めると信じて、根気
さえ失わなければですが。
 患者さんの協力が無くては、うまくいきません。そのため、術者を信じて頂くしかないのです。

《4月》
 後期高齢者制度が始まりました。どんなに制度が変更されても、診療の現場は変わりません。特に高齢者に対し
ては、筋力や咀嚼嚥下力(噛む力、飲み込む力)の低下をいかに補うかに腐心します。
 制度の変更の度に我々を戸惑わせ思案させるのは、診療費の削減を狙った受診抑制策です。診療時間や回数の
規制は、繰り返しの必要な治療や訓練を切り捨てる事になります。項目を指定した文書交付の強制は、作成に時間
を取られ、肝心の説明の時間をそがれる結果になります。
 医療は、歯科医療を含め、患者さんと施療側が力を合わせ、試行錯誤しながら進めていく部分が、まだまだ多く残
されているのです。机上の立案だけで済む問題ではありません。

《5月》
 産科、小児科に次いで麻酔科の医師不足が深刻な状況になっていると報道されています。いわゆるリスクを負い、
少しのミスも訴訟に発展し責任を追及されやすい状況に在ると言われています。
 一方、我々歯科医の業界では、歯科医余りが言われ、TVでワーキングプアーなどと揶揄されています。人出が余
っていても基本的に医科の資格とは異なり、援軍には行かれません。しかし、麻酔医は、歯科といえども医科の麻酔
医と同じ研修と仕事内容となっていますので、即戦力として手術に立ち会えるのです。最近歯科大学の歯科麻酔医
に、医科への移籍の打診があるそうです。とかく差別扱いされる歯科医ですが、認められる分野が少しでも出てきた
ことは喜ばしいのです。
 もっとも、市立札幌病院救命救急センターでの歯科医師による気管挿管「医科研修」が違法行為とされ、書類送検
されていますから、何かご都合主義にも思えます。高年齢のリスクを背負った患者さんが多い我が医院では、AED
や人工呼吸、心臓マッサージなど救急対応の訓練を毎年受けることは、当然のこととしています。

《6月》
 ガソリン価格がついに170円/Lを越えそうな模様です。原油高騰に端を発した物価値上げ、あらゆる分野に波及し
始めています。4月に改訂された医療費は、値上げとはいえ0.5%に満たない額で、患者さんにとっては負担増が最小
限に留まり幸いといえましょう。
 しかし、後期高齢者保険料の徴収や、地方税の増加による保険料率の見せかけの減少処置はあっても、保険料
負担が実質増加になった方は多いのです。実際の診療費増加は最小限なのですが、保険料の増加と治療代の増
加を錯覚されている患者さんも多いと思います。
 そうでないとしても、物価高で何かを節約して自衛せざるを得ないのですが、医療費にしわ寄せが来始めていま
す。長い目で見ても、持病の重傷化は、より多くの医療費が必要になってしまいます。日常の健康管理により、医療
費は削減できるのです。
 政府の最近の医療政策は、疾病の抑制という本来の重要目的を避け、受診抑制に腐心しているように思えます。
その結果が後により多大な医療費に跳ね返ってくるのは、明白なのですが。

《7月》
 再びGTR術についての質問が増えてきました。(GTR術=歯周組織再生誘導手術:歯槽膿漏で破壊された骨を
増骨する手術) 新聞紙上で、揺れたり腫れたりした歯槽膿漏の画期的で福音であるなどの記事がしばしば取り上
げられているからでしょう。
 歯周病を専門とする友人に確認したところ、“限られた条件の下での成功例であり、今の段階では、多くを期待でき
る手法ではないのが実態である”とのことでした。
 予防が歯周病(歯槽膿漏症)の最良の治療であることに変わりはないようです。
 再生療法は、歯科に限らず医療全般で多くの期待を集め、これからの主流となることは間違いありませんが、発病
しないこと、すなわち予防が万全ならば、必要性は少ないのです。

 《8月》
 いびき治療も睡眠時無呼吸症候群として健康保険の対象となってから、お尋ね頂くことが多くなりました。
 手順は、睡眠障害を専門(得意)とする医科診療所で検査診断を受けます。睡眠時無呼吸症候群の診断結果が出
て、スプリント(マウスピース)に依る治療が必要として医科より紹介状(診療依頼書)が出ます。その診療依頼書を
歯科医院に持参し受診しますと、健康保険の対象になります。
 一番ご質問頂くのは費用に関してです。歯科での必要経費は、初診料や歯科での検査代を含めても、スプリントの
製作費は3割負担の方で、自己負担は10,000円以内になります。但し、虫歯や欠損(抜けて歯がない)歯石・歯槽膿
漏症などがある場合は治療が必要ですから、その費用は別にかかります。(上下の歯がしっかり咬み合わないと、
スプリントは入れられません)
 医科での診断に要する費用は他院の事情ですから分かり難いのですが、いくつかのホームページで確認した所、
おおよその所が分かりました。検査入院の費用は健康保険が適用されますが、自費の個室代がかかりますのでそ
の費用を含めて 2〜3万円程度のようです。日帰り精密検査が可能な医院もあり、3割負担で10,320円 の記載もあ
りました。

《9月》
 先日NHK・TVの番組で虫歯予防についてCOの解説をしていました。予防歯科に力を入れていることでよく知られて
いる山形の熊谷先生が登場してお話ししていました。
 「虫歯とは言い切れないCOと、ごく初期の治療するまでもないC1の虫歯は、観察をしていればあえて“削って治
療”は必要ないのです。」というお話しでした。当然のことで、日常診療では多くの歯科医は、そのようにしています。
問題は「観察の必要」を、患者さんに理解して頂くことなのです。
 現実には、リコールはがき(健診のお知らせ)に対する反応が、最近では10%程度しかないのです。かっては、お
知らせをすれば半数以上の患者さんから来院の連絡がありました。自院だけかと思って友人の予防に力を入れてい
る医院でも同じ傾向だと聞きました。
 患者さんの理解を得る力不足もありますが、それだけでなく社会情勢か何か、来院を妨げる要因があるように思え
ます。それでも予防が最良の治療であることは事実です。少ない負担で健康を守るのは定期的な健診につきるので
す。

《10月》
 「フォサマック」という名の薬を内服している患者さんが多くなってきました。骨祖鬆症の治療薬で、外にも同様の作
用をする内服薬や注射剤があります。
 毎月のように警告書が歯科医師会より届けられています。「フォサマックを始めとする骨祖鬆症の治療薬使用の患
者さんが、抜歯などの観血手術後、顎骨壊死・顎骨骨髄炎を発症した事例がある」というのが内容です。当院のよう
に患者さんの平均年齢が高いと、当然加療服用されている患者さんがいます。血液凝固阻止剤(バッファリン等)の
ように、一定期間服用停止すれば良いという見解はなく、主治医の先生に問い合わせても、この種の情報を理解し
ていない場合が多く、対処に戸惑っています。
 今まで考えられなかった病気が現れ、それに対して有効な薬が開発されます。そのため、予想外の副作用も現
れ、思わぬ事態が起こります。
 他の病気で薬を飲む、または、注射などの治療を受けている場合は、些細なことでも、必ずお伝えください。(リス
ク)危険は取り除かなければなりません。

《11月》
 歯科の治療で審美(白い歯・自然感)重視の考えは以前からありました。前歯が特に重要視され、陶歯(瀬戸物)
やレジン歯(プラスチック)を使って、自然な感じを出す努力がされてきました。臼歯(奥歯)でも、義歯(入れ歯)では
可能でした。
 問題は臼歯(奥歯)の詰め物や被せ物にあります。咬合圧(咬む力)が強く、詰め物では形が複雑なので、方法や
材料が制限されます。被せ物では陶材を使い白くできますが、保険では金属しか使えませんでした。又、詰め物に
は使えません。
 最近では、臼歯(奥歯)の詰め物にも自然感(白い)が要求されるようになりました。保険でもコンポジットレジン(プ
ラスチック)の使用が認められ、白くできるようになりましたが、金属に比べもろさがあり欠けやすい欠点が有ります。
もっとも、この点は業者や研究者のデータでは否定していますが、臨床の実感では、歯との境目が欠けているのが
多く見られます。特に隣の歯との接触する部分は仕上げ磨きが出来ないので、汚れが溜まりやすいのです。
 現在でも、金属(特に金)が、耐久性では一番ですが、外観を取るかの選択は一概に決めかねる問題です。

 《12月》
 歯磨きの習慣が一般的になって、虫歯や歯周病が激減したのは、事実です。一方、歯磨きの弊害ーー実際“害”
ではないのですがーーとして、歯頚部楔(くさび)状欠損が目立って増えています。これは、歯ブラシの誤った使用に
よって、歯肉際の歯を、鋭く切れ込んで削ってしまった状態を言います。
 知覚過敏を起こし、水や空気が“しみる”ようになります。横磨きで、歯質を削り取ったためです。歯を磨きすぎること
はありません。磨き方に間違いがあるためなのです。
 一般に、歯磨きの仕方を学び、教えられる機会はないのが普通です。健康保険は、疾病’(病気)のためのもので、
歯磨き等の予防には使えませんでした。現在では、病気の管理という名目で、病名の付く患者さんには、健康保険
で指導出来るようになっています。
 定期検診は、必要不可欠です。歯科医院で、口腔管理の指導を受けましょう。一度何らかの治療を受けていれば、
永久に指導が受けられます。
 ただし、歯頚部楔(くさび)状欠損は、「かみ合わせの異常な圧力で、エナメル質の剥離が起こったもの」という説が
台頭してきました。しかし、大半は歯ブラシによるものには、間違いはありません。



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