平成19年
《1月》
最近、最後の一息が続かない患者さんが増えてきました。冠を被せれば、詰め物を詰めれば、義歯を入れれば、
の段階で来院しなくなるのです。終末処置と呼んでいますが、終末処置さえすれば、5年、10年と耐えられるので す。その直前で中断すれば、それまでの処置が、すべて無駄になります。半年から1年後には、回復不可能の状態 になります。
心配して、電話や、はがきを差し上げるのですが、大多数の方は、音信不通です。何か理由があるのでしょうが、も
ったいないことです。
《2月》
歯を抜いて無くなっているのは、歯牙欠損症というれっきとした病気です。病気なら、直さなければなりません。と
ころが1本や2本では、そんなに不便はありません。そのままにしておく方が多いのです。
歯が抜けたままですとどんな障害があるのでしょう。歯の移動や、咬合(咬み合わせ)の異常が起こるとがありま
す。将来、もっと沢山歯を無くした時、回復に苦労することになります。
《3月》
インプラント治療に対する質問が多くなっています。歯が無くなった時の選択肢が増えたのです。入れ歯(義歯)ブ
迷った時は、とことん、主治医と話し合って下さい。それでも疑問が解決できない時は、セカンドオピニオンとして、
リッジに加え第3の選択肢となったのです。ブリッジでは、色々条件があり出来ない場合もあります。入れ歯は、舌 感など、使い勝手に難点がありますが、条件を選びません。その点インプラントは、近年の改良で、飛躍的に成功率 も上がり、自分の歯と同じ感覚で使えます。一般的になってきました。しかし万能ではありません。代替えの方法も あります。 他の先生にも話を聞いて下さい。良心的な主治医なら、喜んでセカンドオピニオンとの相談を、受け入れてくれるでし ょう。
《4月》
ホワイトニング(歯を白くする)の看板を町でよく見かけます。肌の色、歯の色や汚れは気になります。磨いただけで
は、汚れは取れますが、白くするのは限界があります。肌は、シミそばかすは、レーザーや薬品で脱色します。年齢 による変化は防げませんが、紫外線を防げば、ある程度白くなります。
その点歯は、年齢と共に濃い色になっていきます。最初から濃い人もいますが、内部から変化していきます。ホワ
イトニングは、簡単に言えばオキシフルで髪の毛を脱色するのと同じ作業です。髪の毛が傷むのと同じガサガサにな るはずです。髪の毛は、トリートメントで潤いを与えて保湿します。歯の場合の表面処理は、よく磨く以外の話を、講 演会や文献でも聞いた記憶はありません。
手入れを十分していても、数年で着色し、元に戻ると考えられています。
《5月》
入れ歯は、出来るだけ補修をして使用して頂いています。新しい入れ歯は、慣れるのに時間がかかります。バネ
(クラスプと言います)が折れたり、人工歯が脱離や破折しても補修できる場合が多いのです。
残っていた歯をやむを得ず抜いた場合でも、入れ歯に歯を追加します。全て出来る訳ではありませんが、技術の進
しかし、年数を経た義歯(入れ歯)は、バネの金属疲労、陶歯のかけ、人工歯の摩耗、レジン(歯肉になる赤い部
歩で、金属同士を熔着出来るようになりました。溶接ではないので、熱の伝導が少なく、プラスチックが燃えたり熔け たりしないので、分解せず原型のまま細工が出来ます。もっとも、健康保険には、義歯修理費の項目しか有りません が、熔着など特殊技法の費用をどうするか、課題となります。 分)の劣化などがあり、新しくした方がよい場合も多いのです。
《6月》
近年、ビジネス街での昼の診療に、変化が起こっています。企業の合理化(リストラなど)により、就業時間内の歯
科診療の受診がしにくくなっています。そのため、激しい痛みのある急患以外、受診しないのです。又、応急処置後 の再受診の時間がとれなく、未来院が増えています。そのため、夜間、休日の受診となりますが、継続するのには、 努力がいります。残業、休日出勤、急な私用などでキャンセルが続くと、来院しにくくなるのでしょう、中断する患者さ んが多いようです。
住居地域であるここ高井戸に移転しても状況は変わりません。子供は学校やお稽古ごと、主婦も共働きやパートな
どで、昼の時間帯は受診しにくいようです。歯科医院側では、診療時間の延長や、土曜休日診療で対処するように なりました。医療は、サービス業ですから、利用者(患者さん)の便宜を図るのは当然としても、労働条件の悪化は、 スタッフの確保を困難にしています。
《7月》
痛みのトピックスでも記載しますが、「痛い」について、注意が必要です。
「痛み」を感じるのは、危険が迫っているサインなのです。痛みによって、危険を知らせているのです。口の中での
痛みの多くは、虫歯です。自分の口の中は、普段は見えませんが、痛みを感じる事によって、注意を促しているので す。虫歯以外にも、口内炎をはじめ、歯肉の異常も、痛みによって知る事が出来ます。
歯科医師がもっともよく利用する痛みは、入れ歯の不具合です。擦れて痛い、かみ合わせの異常で、関節や筋肉
に異常がある場合、痛み方、痛みの場所で、調整をします。
痛いからはずしてたまま来院された時、原因がつかめず入れ歯の調整は出来ません。
《8月》
最近、又、診療中断する患者さんが増えてきました。急患で来院しても、応急処置のみで、次回予定が立たない
と、予約せずに帰ります。若い方に多く、診療を受ける時間に余裕がないのです。土曜休みのはずが、ほとんど出勤 であったり、夜中にしか帰れなかったり、労働基準法など、守られている と思えません。おかげで、口の中は、悲惨 な状態です。部外者の診療側では、どうにもしてあげられないのですが、幸い昔と違い、満員状態ではないので、受 け入れには余裕があります。時間変更も、急患も何とか受け入れられる診療所が多いのです。
歯科には自然治癒がありません。間が空いても、続けていれば治療は終わります。取り返しの付く内に、少しずつ
でも診療を受ける努力しなさい、と、励ますしか術はありません。
《9月》
歯を抜くという事は、歯科医師にとっては、敗北です。いかに保存するかに、全力を傾けます。
しかし、どうし ても保存出来ない歯は止むを得ません。患者さんも納得して、抜歯の日を約束して帰ります。しか
他院で再処置に期待される患者さんも居ますが、抜歯は、歯科医にとっての最後の決断ですから、大筋間違う事
し、かなりの数で未来院、延期の申し出があり、抜歯せずに終わる患者さんがいます。歯を抜く事は、避けたいので す。直前で抜歯の意志が萎えてしまうのです。救急処置によって、腫れや痛みを取っただけですから、遠からず再発 して、同じ苦しみを味わうのです。 はありません。再度同じ苦しみを味合う前に、抜歯の決断をすべきでしょう。 セカンドオピニヨン(診断や処置方針を、主治医以外に相談する事)は当然受け入れています。そのための説明を 厭う事はありません。
《10月》
セカンドオピニオンという言葉があります。医療で用いる時は、主治医の診断や治療方針などを、主治医以外の医
師に意見を求める意味に用います。「対診」は、直接2者に診断を求める場合です。 患者さんの多くは、主治医の治療に疑問や不安を持った時、親兄弟など親族や、親しい友人に意見を求めるのが 常のようです。安心と同意、又は否定を求めて、自らの不安を払拭しようと計るのでしょう。当たらずとも遠からずの場 合が多いのですが、経験に頼るアドバイスに過ぎず、「精神的安堵」に過ぎません。 矢張り、専門知識を持つセカンドオピニオンに勝る物はありません。主治医に、疑問点を質し、納得いかなければ、 セカンドオピニオンに意見を聞く事を告げるべきです。信頼に値する主治医なら、セカンドオピニオンを喜んで受け入 れるでしょう。
《11月》
昨年の介護保険の見直しで、介護予防の概念が大幅に導入されました。
歯科の分野では、口腔ケアという言葉で表されています。口腔内の清掃と考えてしまいますが、咬筋をはじめ、口
輪筋など食物を摂るための機能を強化する事も含んでいます。歯科では、今まで“噛む”事に重点が置かれていたた め、摂食(食物を口に入れる)嚥下(飲み込む)への意識と取り組みが不足しており、技術開発にも遅れがあります。
自分の力で噛む事は、誤嚥性肺炎を防ぐのみならず、呆け防止にも有効な事が明らかになっています。何よりも、
生き甲斐に繋がります。まだまだ未開発の分野ですので、患者さんとの共同で、技術を完成させなければなりませ ん。
《12月》
今までも相談は受けていましたが、正式なセカンドオピニオンとしての意見を求められました。
前歯の治療が途中なのですが、内部の清掃治療が終った時点で、「歯が割れていると疑われるので、継続歯は出
来ない、抜歯が適応である。補綴(抜いた後を補う)法としては、義歯とブリッジとがあるが、この場合は、インプラント が最適である」との見解が示されたが、果たしてそれが正しい判断かの意見を求められました。
X線写真の結果、根充(内部治療は完了)しており、像の上では異常は認められません。この場合、歯のひび割れ
程度では、X線写真には現れませんし、特別歯根が割れている症状もなく、主治医の判断でしか確定できません。 現状では、抜歯の必要性の判断は、出来なかったのです。もう一つは、求められた判断が、抜歯の必要性なのか、 インプラントの有用性なのか、短い時間では希望を判断しきれなかったのです。
結論として、症状がないので、このまま終末処置(この場合継続歯=差し歯)をして、経過を見て、症状が出
てから抜歯を考えるよう、主治医と相談するのが良いとしました。
このように治療途中での診断は、正確には出来にくく、長期診てきた主治医の判断の方が正確に出来るのではな
いかとの思いもあります。最初と、途中経過が分からないからです。判断を正確にする事も出来ますが、それには内 部を覗いてみる必要があります。すなわち転医して頂く必要があり、セカンドオピニオンではなくなります。
保険制度の制約もあり、同時に2カ所の医院での治療は、特殊な場合以外は、許されないのです。
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