夜……PM6:30 ところ……メガロポリスのマーケット
秋の日は釣瓶落し――夕日が沈むとあっという間に夜空が広がった。進と雪は海を眺めるのをやめて立ち上がった。
「さぁてと…… 夕食は星空を見ながらっていうのはどうだい?」
車に向かって歩く道筋、進が雪の肩を抱き寄せてささやいた。
「えっ? どこで?」
「ははは…… 後は任せてもらおうかな」
「ええ、いいわ」
雪のOKを貰い、進は勢いよく車を発進させた。車はどんどんメガロポリスに近づいて行った。
「おうちに戻るの?」
「いや、ちょっと晩飯の買出しにね」
進が笑ってウインク。雪は肩をすくめてくすっと笑った。彼に思惑があるらしい。だから雪はそれに従うことにした。
車は程なく、メガロポリス郊外のマーケットに入る。テイクアウトの惣菜が各種揃っている店だ。
「どうぞお嬢さん、お好きなものをお取りください」
商品の並ぶ棚を前に、進がおどけて言った。雪もにっこり。
「じゃあねぇ、これとこれ……あ、それも美味しそうね。あっ、こっちも!!」
「そうだなぁ。これも美味そうだぞ。こっちはどうだ?」
二人してあれもこれもと手にとって、買い物カートに放り込み、あっという間にその中に様々な惣菜が並んだ。
「こんなに食べられるかしら?」
「大丈夫だよ、きっと。それに……たくさん食べておかないとな。後で……」
進が語尾を濁した。進君、たくさん食べて何する気かな? 雪もその言葉尻を捕まえた。
「えっ? 後で?」
「い、いやぁ。何でもないよ。たくさん食べて元気になろう!ってな。ははは……さ、さ、次!次!」
「あん、もうっやぁねっ!」
笑ってごまかす進の心の中がちらりと見えて、雪が赤くなった。進の肩を片手でぱちんと叩いて照れる。進はそれには素知らぬ振りで、カートを押して歩き出した。
続いて行ったのは、リカーショップ。進はワインを1本手に取った。
「あら? ワイン買うの? でも、進さん車を運転してるのよ」
雪がちょっと非難気味に尋ねた。
「ん? あ、ああ…… ほんの少し飲むだけさ。それにゆっくりして酔いを覚まして帰るから」
なぜか必死に言い訳する進。雪はおかしくなってきた。
「ほんとぉ?」
「ほんとだって!当たり前だろ!! 雪が飲めばいいじゃないか。運転しなくていいんだし……」
進が真面目な顔で雪にワインを勧めた。
「あら、進さんが飲みたいんだったら、私が運転してもいいのよ」
「い、いいよ。そんな心配しなくても。俺は昨日たっぷり飲んだから、今日は雪にサービスするって」
「ふうん、そうなの?」
「そうそう……」
雪は横目で進の顔を見た。進が雪の鋭い視線にびくっとして顔を背けた。雪に笑いがこみあげてくる。雪は、そういうことね、と気が付いた。ワインを買った一番の目的は……『雪に飲ませる』ことらしい。
「すっすむさぁ〜ん、私を酔わせてどうするつ・も・り!?」
「さ、さぁ〜、これで買い物終わり!! よし、星を見に行くぞ!」
進は雪の言葉が聞こえない振りをして空を向く。そしてさっさと車を止めた駐車場に向かって歩き出した。
後ろからついて行く雪は、笑い出しそうになるのを必死に押さえていた。
(背景:Moonlit)