月   光



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 !!

 彼女の立つ位置が、ちょうど僕からは窓の外の月の光を背負う形になった。月光を背景に、彼女の均整の取れた体が黒いシルエットになって見える。

 そして、体の線にまとわりつくように、透き通った布がひらひらとゆらめいている。

 あれが……あの時の?

 僕は口をぽかんとあけたまま、しばらくその姿に見入っていた。

 逆光の為、彼女自身の顔の表情も体の細部もよく見えないのだが、それがまたなんとも言えずエロチックだった。

 僕は、その姿に導かれるようにベッドから降りて、ゆっくりと彼女のほうに近づいていった。

 すると、雪は何かに気付いたように、恥ずかしそうに顔をちょっと斜め下にそらした。

 僕から見られるのが恥ずかしいのか? いや、そうじゃなくて、僕の……?

 月光を背にしている彼女から僕を見れば、ちょうど逆に月の光を浴びた僕の裸の体全体がはっきりと見えているはずだ。

 僕も雪に見られている……

 ひどく緊張してきた。喉もからからに乾いている。

 「古代君……あたし……」

 雪はそうつぶやきながら、体を隠そうと身をよじらせた。

 「ダメだよ、雪……そのまま……隠さないでくれ」

 僕は喉が乾いてしわがれそうになった声で、そう彼女に頼んだ。そして、無理やり喉の奥から唾液を導き出すと、ごくりと飲んだ。

 「でも……恥ずかしいわ」

 雪がそう呟く。

 しかし僕には、もうそんな声は耳に入らなかった。あの時と同じ姿をした彼女の魅力に吸い寄せられるように、一歩ずつ彼女の元へと近づいていく。

 心臓の鼓動が激しくなった。

 近づくに連れて、彼女の体の色が少しずつわかるようになってきた。

 彼女の身にまとっているネグリジェは、まさしくあの時に見た透明のピンク。もちろんその下に身につけているのは、黒い……だけだ。それもあの時と同じ。

 それだけでも、僕は感動でこのままどうにかなってしまいそうな気分になった。

 あの時は数メートル離れたところから見たっきり動けなかったが、今日は違う。どこまでも近づける。誰にも遠慮することなしに!

 じわりじわりと足を進め、とうとう手を伸ばせば彼女に触れられるところまでやってきた。

 そこで僕は立ち止まった。


 ここまで来ると、彼女の体の全てが衣(ころも)ごしにはっきりと見えた。

 月の光の加減で青白いほどに白く輝く裸体を、まとった衣が霞のように、うっすらとピンク色に染めている。

 彼女はまだ恥ずかしそうに、僕から視線をはずしたままだ。

 けれど、さっき僕が言ったことを忠実に守って、何も包み隠さず、体だけはまっすぐに僕の方に向けていた。

 たぶん、彼女の中にも僕に見つめられたい、という気持ちがあるのだろう。それを裏付けるように、彼女の体も反応を示し始めていた。

 ふっくらと丸い胸の先端は薔薇色に色づき、まるで僕に早く触れてと誘っているかのようだ。

 体全体が、さっきより赤みをさしてきたように見える。

 彼女は、乾いた自分の唇を潤そうと、舌をほんの少しだすと、唇の上をゆっくりとなぞった。濡れた唇が僅かに開いたあと、彼女の視線がやっと僕の方へ動いた。

 潤んでいる……!

 雪の瞳は、熱に浮かされたように潤んで、僕を誘惑していた。

 僕は、その誘惑に負け、すぐに足を踏み出して抱き締めたい衝動に駆られた。


 ……が、それを必死に抑えた。

 このまますぐに触れてしまうのが、ひどくもったいない気がしたのだ。

 最後の一歩を踏み出さず、じっと見つめていると、彼女のほうが先に痺れを切らした。

 「古代君……」

 と小さな声でつぶやく。

 その声は甘くとろけそうで、視線はすがるようで…… まるで僕に早く抱いてと囁いているかのようだった。

 だが、僕は首を左右に2、3度振った。

 「まだ……だめだ。まだ……もう少し見ていたいんだ……」

 僕の気持ちは正にその言葉通りだった。もう少しこのまま見ていたかった。

 ぞくぞくとした奇妙な感覚が体中を駆け巡っている。けれどその感覚、つまりは我慢することがたまらなく気持ちよかった。

 それをもっと味わおうと、僕はさらに彼女の体を上から下まで舐めるように凝視した。

 その僕の視線が、さっきよりもいやらしくて執拗だったのか、雪がもじもじし始めた。

 「や……だ、恥ずかしいわ……」

 彼女はそう言うと、さっきまでまっすぐにしていた体をくねらせ、両手で胸を隠そうとした。

 「だめだっ……」

 僕はとうとう最後の一歩を踏み出して、その手を握り再び両に開かせると、彼女は、「あっ」と小さな声を発して僕を見つめた。

 「とてもいいんだ、すごく…… 雪のこの姿を見てるだけで、たまらなくなりそうだよ」

 この時点で、僕の心臓は完全に下半身に移っていた。そこからドクンドクンという大きな鼓動が体じゅうに広がっていく。

 彼女の顔を見ると、そこは桃色の衣をまとっているわけではないのに、ほんのり赤く色づいている。

 きっと……彼女の体にも、快感と興奮が走っているに違いない。

 それでも、僕はまだすぐには抱き寄せずに、両手を彼女の肩に乗せるだけにした。

 ゆっくりと上から下へ手でなぞり、二の腕のあたりから、その手を彼女の前面へと移動させた。

 ちょうどそこには二つの美しい膨らみがある。透き通った衣の上から見た二つの双丘は、彼女の荒くなり始めた呼吸に合わせて、上下に大きく動いていた。

 僕は二つを同時に、グイッと持ち上げるように握った。そして、両方の親指で薔薇の蕾を丁寧になぞると、

 「はぁ……んん……」

 彼女は感極まったような吐息のような声を漏らした。

 「感じてる?」

 と尋ねると、雪はまぶしそうに僕を見てから、コクンと頷いた。

 そんな姿に、再び僕の体に快感が巡った。

 「あの日、この姿が目に焼き付いて眠れなかったんだ。触れてみたくて、抱きしめてみたくて……」

 そうつぶやきながら、さらに胸への愛撫を続ける僕の肩に、雪の手がそっと乗った。その手が僕の首筋を優しくなぞる。

 「古代く……ん……」

 彼女の甘い声にドキリとしながらも、僕は愛撫の手を緩めることはなかった。

 片手で彼女の体を支えながら、もう片方でネグリジェの外から膨らみを包むように愛撫し続ける。

 雪の膝がかすかに動き始めた。たぶん、快感が走るのを必死に堪えているのだろう。

 小刻みに小さな声が漏れ、僕の首に巻き付けられた腕に力がこもっていた。

 

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(背景:La Moon)