X'mas in 2200〜Their happiest time〜


−Page 4−

 12月24日がやってきた。今日は地球が十数年振りに迎える平穏なクリスマスイブだ。
 本来は、キリスト教の教祖イエスキリストの誕生を祝う厳かな儀式のはずが、200年余り前から、若者達が楽しむイベントに変わってしまった。賛否両論はあるものの、やはり若い彼らにとっては、ある意味では大切なイベントとなっている。
 特に今年は、久しぶりの平和なクリスマスの開放感からか、街のあちらこちらで色々な若者向けのパーティが催されている。

 その一つに出席したのが、我らがヤマトクルーと連邦中央病院の看護婦のグループだ。付き合っているカップルはいないが、以前合コンで知り合った仲だけに、気軽な話に盛りあがっていた。もちろん、女性陣を甲斐甲斐しくエスコートする中心人物は、南部康雄だ。パーティ前に、女性全員にちょっとしたクリスマスプレゼントをするという配慮も忘れていない。

 会場は、とあるホテルの大ホール。部屋の中のそちらこちらに、クリスマスツリーやリースなど雰囲気を盛り上げる飾りがされている。食事はビュッフェ形式。太田にとっては美味しいこと間違いなしだ。
 パーティ参加者は、気楽な付き合いのグループが多い。恋人同士のカップルならば、こんなパーティよりも二人きりになれるシチュエーションを選ぶからだろう。
 パーティは、食事をとりながら舞台の演奏を聞いたりゲームに参加したりと、賑やかに進んでいった。



 大いにゲームに盛りあがった後、南部が一息ついて食事を取っていると、江本絵梨がやってきた。

 「南部さんっ! ご苦労様っ!」

 「いやぁ、みんな楽しそうでよかったよ。君も楽しんでるかい?」

 「ええ、もっちろんよ。でも……南部さんって本当にこういうイベントもの得意よね」

 「あはは……まあね。こう言う気楽なのが大好きだから。それより絵梨さん、今日のクリスマスイブ、本命の方はよかったの?」

 絵梨には、BFが何人かいる。南部もその一人だが、互いに気軽な付き合いだ。絵梨の本命は、中央病院の医師らしい。今回の誘いも、誰か暇な女の子いないかな?という南部からの声かけに、絵梨が答えた形なのだ。

 「いいのよ、彼、一ヶ月前から研修でヨーロッパに行っちゃったの。一年間は帰ってこないし、その間に何してるかはそれぞれの自由ってことっ!」

 にこりと笑う絵梨は、明るくあっさりと言ってのけた。

 「へぇぇ、随分気持ちの大きい彼氏だよな」

 「って言うより、私に惚れてる弱みよ」

 絵梨はくすりと笑って、ウインクをする。

 「あっははは…… それはどうもご馳走様」

 南部が恭しく頭を下げた。

 「南部さんはどうなの? 本命は誰なのかしらねぇ。ねえ、南部さんって、あの南部重工のお坊ちゃまなんでしょう? 私達みたいな庶民じゃ相手にならないわよね」

 「やめてくれよ、親父は親父、俺は俺だよ。半年くらい前まではちょっといいなって思う人はいたけど、告白もする前に玉砕したしさ。GFはたくさんいても、俺に本気で惚れてくれる人なんていないのさ」

 南部がふうっとため息をつく。「南部重工のお坊ちゃま」と言う言葉は、彼の人生の中の一番の重荷だ。ヤマトの中でこそ、ほとんどそれを意識する事はなかったが、地球に帰るなり、それはまた彼を悩ませている。帰還を迎えてくれた多くの美女達も、ほとんどはその地位が望みの娘達なのだ。

 「まあ、アンニュイね。でも……半年前って言うことは…… ヤマトの中にいたのね? ということはぁ…… もしかして雪ちゃんだったりして?」

 絵梨がいたずらっぽく見る。それでも南部は悪びれもせずあっさりと答えた。

 「あっははは…… あ・た・りっ! 俺たち4人とも多かれ少なかれ我がヤマトのヒロインに惚れてたのさ」

 「へぇ、そうなんだぁ。と言うことは、古代さんってよっぽど魅力的だったのね。そうよねぇ、なんてったってヤマトの艦長代理、地球のヒーローだものね」

 絵梨がうらやましそうに言う。が、南部は「地球のヒーロー」と言うところで、思わず吹き出しそうになるのを抑えるのに必死だった。くくくっという笑いを押し殺して答える。

 「まあね。いい男だよ。まっすぐで熱血漢で……男は惚れる。けど……ここだけの話、どう考えても女に持てるタイプじゃないんだよな。女心の機微なんてものは、皆目わからないやつだし……今夜だってどうしたんだか。彼女のためにレストランの一つも予約する事も思いつかない朴念仁なんだぜ」

 「ふぅん……そうなんだ。じゃあ、今ごろ雪はプリプリ怒ってるかしら?」

 「ところが……だ。我らがヒロインは、そういうことは重々ご存知のようでね。たぶん、『古代君と一緒ならどこだっていいわよ』なんて甘い声で言ってくれちゃってるんだろうなぁ。ああ、うらやましいっ!! ほんと、いい女を捕まえたよなぁ、古代は」

 情けなくも嘆き天を仰ぐ南部を見て、今度は絵梨が吹き出しそうになる。

 「うっふふ……そうかもね。でも、女の子っていうのは本当に好きな人と一緒ならどこだっていいのよ。特に雪なんかそういうタイプよ。思い込んだら一途って感じだもの……」

 「だろうね。で、君も本気で惚れた相手ならそうなのかな?」

 「さあねっ、私も身を焦がすような恋はしてないから……」

 「えっ? じゃあ、その研修に行ってる彼氏は?」

 「うふっ、好きよ。やさしいし、何でも買ってくれるし……」

 笑うその姿が小悪魔的だ。本気で惚れているのか打算なのか…… 損得無しで進を思う雪とは全く違うキャラクターだ。いやしかし、普通の女性ならそうなのかもしれない。南部は頭を抱えてわざとおびえた顔をした。

 「うへぇっ! やっぱり女は恐いねっ!」

 「うふふ…… でも南部さんは、どんな人がいいの?」

 「俺の相手かい? そうだなぁ、洗練された大人の女性がいいね。年上だっていい。ワインバーで一人で飲んでる姿が似合うような人がいいなぁ」

 「南部さんらしいわね。あなたならそう言う人も上手にエスコートするかもね。じゃあ、間宮先生みたいな人狙ってるの?」

 間宮先生――間宮希は、連邦中央病院の医師だ。先日の合コンにはヤマトクルーへの興味からか参加してきた。その時の美しさには、雪を見なれた彼らでさえ引きこまれそうな華麗な雰囲気があった。

 「いいねぇ、あの人は…… けど残念ながら、今のところ男には興味なさそうに見えたなぁ。ちょっと聞いたんだけど、フィアンセがガミラスとの戦いで亡くなったって話だろ?」

 南部が眉をしかめて尋ねる。

 「ええ、らしいわね」

 それに絵梨も真面目に頷いた。恋人や婚約者または夫をガミラスとの戦いで亡くした女性は大勢いる。彼女もその一人なのだ。最愛の人を失った失意は、そう簡単には消えはしないだろう。南部は、とても自分の手におえない相手だと思っていた。

 「ま、その内巡り合えるさ。理想のオ・ト・ナの女性にね」

 「楽しみにしているわ。結局見つけた相手が、年下のいたいけな少女だったりしてねぇ」

 その「オ・ト・ナ」という南部の言い方が可笑しくて、絵梨はわざと反対のことを言って笑う。南部は当然それをばっさりと否定した。

 「あっははは…… それは絶対ないって!!保証するよ」

 このセリフ、後ろで耳をそばだてていた相原君から、後々思いきり突っ込みがあったと言うことだけ、ここではコメントしておこう。



 ところで、残りの3人だが、太田はもちろんまずは食事である。しっかり食べてしっかり飲んで……且つ、それなりに女性との会話を楽しんでいた。
 しかし中身はなぜかグルメの話題ばかり。それがなかなか好評なのだ。ちょっとおしゃれな店や美味しい穴場話は、若い女性にはそれなりに有益で、絵梨の連れてきたギャル達の他にも、何人かの女性が来て話を聞き入っていた。
 太田健二郎、実は結構モテたりして……?

 相原は、千佳と話していた。千佳が話す病院での急患対応の様子を聞いて、ひえ〜だの、ぎょえ〜だのと、目を真ん丸くしてびっくり仰天してばかり。
 その反応が面白くて、彼女の話がだんだんとエスカレートして行く。最後にはスプラッタ張りの怪我人の治療の話を聞いて、相原の食事はとんと進まなくなってしまった。
 千佳の方は全く平気で、血しぶきが飛ぶ話をしながら、レアステーキをぱくついている。相原は看護婦とは絶対付き合わないぞ、と心の中で固く誓うのであった。

 島はというと、少々手持ち無沙汰な様子。南部と一緒にパーティのゲームに参加するでもなく、太田の話を横で聞いていたり、相原がびっくり仰天するのを薄笑いを浮かべて見ているだけ。当然ながら彼の場合はそれほど動じるわけではない。なんとなく冷めた感じの彼であった。



 そろそろパーティも終り近くなった。照明が少し暗くなりスローテンポのダンスが始まった。南部は颯爽と、そして太田と相原は女性に引っ張られるように、ダンスフロアに出ていった。
 島は一人傍観している。とそこに相原に逃げられた千佳がやってきた。

 「島さん、ダンスはしないんですか? パーティはあんまり楽しくなかったですか?」

 「いや、そうでもないよ。ゲームなんかは参加するより見てるほうが楽しいしね。食事も腹一杯食べたし…… ダンスは……どっちかっていうと苦手だな」

 島が苦笑する。ここに進がいれば同じことを言っているだろうな、と思う。だが……雪に引っ張られたら、あいつもしぶしぶ行くかな?などとも思う。

 「でも、今日はこんなところに来てていいんですか?」

 「何が?」

 千佳の尋ねた意味がわからず、島が聞き返した。

 「だって島さんって恰好いいし、実は彼女がいるんじゃないかって私達噂してたんですよ」

 「あはは、いないよ、彼女なんて……」

 「意外だわ。それってすごくもったいないわっ!私、立候補しようかなぁ」

 千佳が嬉しそうに笑った。だが島にはそれが本気で言っているとは思えなかった。だからこちらも冗談で返す。

 「それは光栄だなぁ」

 「あんっ! 全然本気にしてないっ! まあ、いいわ。立候補なんかしたら……先輩に叱られちゃう……

 語尾の声が小さくなって、島には聞こえなかった。

 「えっ!?」

 千佳が気にしているのは、綾乃のことだった。綾乃は今日のパーティにこれない事をとても残念がっていた。合コンの前から綾乃が島にあこがれている事は千佳も聞き知っていた。だが、その密かな思いを島にばらしてしまっては、綾乃から大目玉を食らってしまう。

 「ううんっ、なんでもないですっ! さ、もう少し食べてこようかなぁ。私今日これから仕事なんです。綾乃先輩と交代で…… たくさん食べて頑張らなくちゃ。でも……綾乃先輩今頃いじけてるかも…… 本当に来たがってたんですよ」

 「そう言えば、間宮先生と佐伯さんが仕事だって言ってたね」

 「ええ、間宮先生は出張で東京にいないんですけど、綾乃先輩は準夜勤で12時まで仕事なんですよぉ」

 さりげなく綾乃をアピールする千佳。いい後輩だ!

 「そうか、それは残念だったなぁ」

 「島さん、綾乃先輩に会いたかったんですか?」

 千佳の鋭い突っ込みが出る。

 「そ、そういうわけじゃないよ」

 島も合コンであった綾乃のかわいらしい笑顔は記憶にあった。あの時はゆっくり話をしなかったが、彼女となら楽しい会話ができそうな気はしていた。だが、今の島にとってはそれ以上でもそれ以下でもなかった。
 彼の心には、まだ雪への思いが残っている。いつか進と雪の間で、将来の約束でもできればきっぱりとあきらめられるかもしれない、などと思うのだ。それはあの二人を見ていると、そんな遠い未来ではないだろうとも思う。
 ただ、パーティに来たかったという綾乃の残念そうな顔がなんとなく浮かんできて、少しかわいそうに思えてくる。

 「あっそうだ! 君、これから病院に行くって言ったよね。ちょっと待ってて……」

 島は千佳の前から席を外すと、しばらくして手に小さな花束と箱を持って戻ってきた。

 「せっかくのクリスマスイブに楽しめなかった綾乃さん達準夜勤の看護婦さんに、お土産を渡してあげてくれないか。そこの出口で売ってた花とケーキだけど……」

 島の心遣いはやさしかった。千佳も綾乃のことを宣伝した甲斐があったと言うものだ。

 「まあっ! ありがとうございますっ! 島さんにいただけるなんて綾乃先輩喜びます!!」

 そんなこんなでそれなりに楽しいクリスマスイブを過ごした彼らは、それなりにいい気分で帰路についた。
 しかし、心の中では、来年はきっと彼女を作って二人っきりのクリスマスイブを過ごそうと密かに誓うのであった。古代にだけいい思いをさせてなるものか!と思ったかどうかは定かでないが……

 そしてもちろん、イブを仕事で過ごさなければならなかった綾乃も、千佳からのお土産の品と言葉で、ほかほかのあったかな気持ちになったことは間違いない。

 (島さん……ありがとう……)

 千佳の配慮で綾乃にだけ手渡されたその花束を抱きしめながら、綾乃は島への思いを募らせ始めていた。

 それなりに幸せだった彼らの2200年のクリスマスイブは終った。

 ところで、我らが古代進と森雪は、一体どんなクリスマスイブを過ごしたのだろうか?おっとそれは……次のお楽しみ。今日のところはここでおしまいっ!

BACK     NEXT

トップメニューに戻る       XmasRoomへ

(背景:いちごのキッチン)