X'mas in 2200〜Their happiest time〜


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 時間は少し遡って、23日の夜。クリスマスのプレゼントだけはなんとか買った進。途中で簡単な食事をとってから、自室にもどった。
 今、進が住んでいるのは、まだ暗い地下都市の一室だ。防衛軍施設や公共の建物などは、随分地上に立ち並んだ。年が明けたら一般市民もどんどん地上に戻るらしい。

 進もそろそろ地上の住処を探さなければならないのだが、めったに地球にいないこともあり、後回しになっている。

 ほとんど物も置いていない殺風景な部屋に戻ると、進はベッドに倒れこんだ。時間は夜7時を過ぎていた。

 (あ〜あ、疲れた。買い物ってのはどうしてこんなに疲れるんだろう? ああ、明日どうしよう…… プレゼントは買ったけど……雪はどうしたいんだろうなぁ。困ったなぁ…… もうすぐ電話が掛かってくるんだろうなぁ。そしたら……なんて言おう)

 悩み多き!?青年は、着替えもせずにベッドで大の字になって天井を睨んだ。



 しばらくして、予定通り電話のベルが鳴った。スイッチをオンにする。やはり相手は雪だ。番号を見ると自宅からかけてきているようだった。進は、ごくりと息を飲んで、そっと受話器を取った。

 「はい……古代です」

 その声にはじかれたように、雪の元気な声が響いてきた。

 『あっ、古代君っ! お帰りなさい。画像もONにしていい?』

 「ああ、わかった」

 雪に乞われて、進は電話の画像のスイッチもONにした。雪の顔がアップで現れ、進の顔を見るとにこりと笑った。既に化粧も落として部屋着を着ている。
 元々端正な顔立ちの雪のこと、化粧―と言ってもごく薄化粧だが―をしていなくても、その美しさは変わらなかった。
 
 「雪こそお疲れ様。もう晩飯は食べたのかい?」

 『うん、さっき帰ってきてご飯食べてお風呂も入ったわ。早く電話したかったんだけど、ゆっくり落ち着いてからの方がいいかな?って思って……』

 「うん、そうだな」

 と答えつつ、進の心臓がドキドキと鼓動を大きく鳴り始めた。

 『でね……明日なんだけど…… 明日はクリスマスイブよね?』

 雪がちょっと言葉を止めた。進の胸がずきりと痛む。いきなり来たか、と思う。もうだめだ、素直に謝ろう!と進は思った。

 「あっ、あのっ……ご、ごめんっ!!」

 『えっ、何が? どうしたの?古代君』

 いきなりの進の謝罪文句に、雪は目を真ん丸くした。進は雪の顔が見れない。うつむき加減になって、ぼつぼつと言葉をつなげた。

 「明日……どこも予約してないんだ…… だから……その……行く所決められなくて……」

 進は肩をすくめながら、雪の言葉を待った。「バカッ!」っていきなり怒鳴られるだろうか……それとも……「ひどい」と言って泣き出すだろうか……
 が、雪の返事は意外な言葉だった。

 『あらっ、よかったわ!』

 「えっ!?」

 進がびっくりして顔を上げた。いきなりの言葉に拍子抜けする。あれ?どうして? よかったって?

 『ちょうどよかったわ。ねぇ、古代君。明日家に来ない? パパとママが一緒にクリスマスを過ごさないかって言うの。古代君、お正月はいないでしょう? だから……』

 「あ、ああ…… けど、ほんとにいいの?」

 まだ雪の態度が信じられず、半信半疑で恐る恐る尋ねた。

 『いいわよ。古代君は嫌?』

 進の態度が引きがちなので、逆に雪のほうが不安そうに尋ねた。

 「嫌だなんて…… うれしいけど……」

 『けど……?』

 「あの……さ。どこかレストランとかパーティとか行きたかったんじゃないかって思ってたんだ。実は、俺……そう言うこと全然知らなくて…… そんな話を南部達から聞いたのが、この前タイタン基地で……予約しないとどうしようもないって言うし、それで……そのう……」

 進のしどろもどろの言い訳を聞きながら、雪は不安な顔をだんだんと嬉しそうな顔に変え、最後には声を出してころころ笑い出した。

 『うふふ…… いいのよ、古代君。私、全然そんな事期待してなかったもの』

 「へっ?」

 『だからぁ、古代君がそんなところに気が回るなんて、ぜ〜んぜん思ってなかったから……気にしなくてい・い・の・よっ!』

 「あっ……そう……」

 ぽかんとした顔をしていた進だったが、雪がにこにこする顔を見ていると、今度はだんだん険しい顔に変わっていった。

 『どうしたの?』

 「む…………」

 雪に全く期待させてなかったと聞いて、さっきまで申し訳無い気持ちで一杯だったのが、俺ってそんなに期待されてないのか、と思うと逆にだんだん腹立たしくなってきたのだ。

 「なんとなく……面白くない……」

 雪はプイッとふくれる進のそんな態度が可笑しくて、プッと吹き出した。

 『やだっ! 古代君ったら、うふふ……』

 くすくすと笑いつづける雪の顔を軽く睨みながら、進はまだふてくされている。

 「なんだよぉ!」

 (自分が何もしていなかったくせに、期待されてないと言われると面白くない、だなんて、古代君って子供…… でも、ちょっとかわいいわっ!)

 雪はおかしくて笑い続ける。しかし、進がなかなか機嫌を直さないので、とうとう笑いを納めた。そしてじっと画面の進を見つめた。

 『古代君っ! 来年は……とっても期待してるわ、ねっ! 素敵なクリスマスにして…… でも今年はパパとママの顔を立てると思って、ね、いいでしょう?』

 雪に甘えた声と少し潤んだ瞳で見つめられると、進の心はあっという間に舞い上がってしまう。

 「うっ、うん……そうだな」

 根が単純なこの男は、それでいい気分になるのだ。へへへ……と笑い声まで出てしまう。

 (そうだな、来年はきっと、よしっ!)

 進の機嫌が直ったようなので、雪もにっこりする。

 『じゃあ、明日ね。クリスマスはお夕食の時だけど、私お昼から準備もあるし…… でも早く会いたいなぁ……』

 早く会いたいのは進も同じだ。すっかり乗り気になってこんな提案をする。

 「昼過ぎに行って、何か手伝おうか?」

 『ええ!そうね、じゃあ、お部屋の飾り付けでもしてもらおうかな。お昼ご飯も軽い物でよかったら家で食べて』

 「ああ、ありがとう。じゃあ、お昼前に行くよ」

 『ええ、待ってるわ』

 「ああ……早く会いたいよ」

 今日最高の笑みで、画面を見つめ合う二人。画面に映っているのでなければ、今頃抱きしめあってチュッとしているに違いない。それほど熱い空気が流れていた。
 その雰囲気に流されて、雪がまた甘えた声を出した。

 『うふっ、ね、古代君…… 何か言うことなぁい?』

 「何かって?」

 『うふっ…… 決まってるでしょう? 私のこと、あいしてるぅ?』

 雪の爆弾発言―進にはそう思えた―に、進はぎょっとなる。

 「なっ…… そ、そんなこと電話口で……」

 言えるわけないだろう!? 進は、その続きの言葉が出てこないほど、真っ赤になって動揺していた。

 『だ〜めっ、言って! じゃなきゃ、明日招待してあげないんだから!!』

 雪が今度は少し激しく迫る。その迫力が画面を通しても伝わってくる。

 「むっ……」

 『はやくぅ!』

 雪がじっと見つめる。進がおずおずと口を開いた。顔は真っ赤だ。

 「あ……あいしてるよ……』

 小さな声だったが、進が言ったことで、雪は満足そうに微笑んだ。進が雪に「愛している」と言ったことは、今までほとんどなかった。これくらい迫らないと、進はこの言葉を言わないのだ。

 『んふっ、うれしい。私も、あ・い・し・て・るっ!』

雪の言葉に、進は再びドキリをした。このまま雪の家まで駆けつけていって抱きしめたい衝動に駆られる。それを必死に納めて、照れ隠しに怒鳴った。

 「じゃ、じゃあ切るぞ!」

 『うふふ……おやすみなさい、古代君』

 「おやすみ……」

 電話を切って、進は肩から大きくため息をついた。

 「ふう〜っ! 雪のやつめ……何を言わせるんだよ、いきなり。ああ言う言葉はそう簡単に気軽に言えるもんじゃないんだぞ。ったくぅ……」

 口では文句を言いながら、顔はだんだんにやけてくる。さっきの会話を色々と思い出してみる。と、ふと思い出されたのが……

 「けど、俺ってそんなに当てにされてなかったのかぁ……って、確かに俺のこと良くわかっているってことかな、あいつは…… あはは」

 嬉しいような、けれどなんとなく情けないような、変な気持ちになる。が、最大の難関クリスマスイブの危機を、意外にも難なくクリアした事で、進は気を取りなおした。しかし、これが全て雪の広い心の故などとは、決して思いが及ばない進であった。

 「明日は雪んちかぁ…… ま、いっか。ご馳走たっぷり食べられるし、不幸中の幸いに、お父さんとお母さんのプレゼントも買ってあるし…… こりゃあ、ほんとに怪我の功名だな。南部様様ってところだぜ」

 そう、明日は楽しいクリスマスイブ。今年の二人のクリスマスは、雪の家での楽しいホームパーティと相成った。

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