4年目のサプライズプレゼント
真田家を辞した進は車に戻ると、車内の携帯端末から、ちょっとした調べ物をして、「これだっ!」と大きく頷いた。
それから、必要な部分をプリントアウトすると、今度はこれもさっき調べたとある店に駆け込んだ。そこは……
「この曲を入れたオルゴールを作ってもらえませんか? 15日までに欲しいんですが、できますか?」
店主がいらっしゃいませと答えると同時に、進が息せき切ってメモ書きを渡した。店主はそのメモを見て、にっこりと微笑んで頷いた。
「大丈夫ですよ。有名な曲ですからね、曲型がありますので、3日もあればできます。15日には十分間に合いますよ。器のタイプはどんなものがよろしいですか?」
「ああ、よかった。それじゃあ、えっと……」
進は、店主の説明を受けながら、雪の好きそうな木目調の上品な小箱を選んだ。
「それで、できたら送ってもらいたいんですが……」
「わかりました。送り先をこちらにどうぞ」
進は枠の中に自宅の住所と雪の名前を書きながら、店主にまた頼んだ。
「あの……この曲の説明書きと私のメッセージも同封したいんですが」
「構いませんよ…… もしかして、お兄さんプロポーズされるんですか? この中にエンゲージリングなんて入れると効果的ですよ」
店主がニコニコしながら尋ねた。確かにこの曲ならばプロポーズにも、うってつけかもしれない。
「えっ? あ、いや…… はは……プロポーズって言うわけじゃ」
照れ笑いする進に、店主がからかいの声をかける。
「お兄さんほどのいい男なら、これでプロポーズしたら間違いなく成功しますよ。私が保証します!」
営業スマイルもあるだろうが、そんなことを太鼓判押してくれる店主に、進は照れまくってしまった。
「はは……いや、プロポーズはもういいんです。その、妻に……贈るので、結婚記念日に」
赤い顔で答える進を見て、店主はしたり顔で頷いた。
「ああ、そうでしたか…… それはいい贈り物になりますね。奥様は幸せ者でらっしゃる。ははは……」
「いえ、そんな……」
店主の笑顔を見ていると、これは成功しそうだと、進は自分の思いつきに確信を持った。
「じゃあ、こちらのカードに、メッセージをお書きください。15日当日に着くようにすればいいですか?」
「はい、それでお願いします」
進はカードを書き上げて店主に渡し、金を支払った。そして、「ありがとうございました」という満面の笑みの店主に見送られて、進も笑顔で店を後にした。
その日、帰ってきた妻を迎えた夫と子供は、ひどく上機嫌であった。どうかしたの?の問いにも、夫はニコニコ笑うばかりで何も言わない。
ただ、今日友人宅を何件か回った話をしたので、妻は久しぶりの旧友達との会話が楽しかったのだと、思った。
「自分だけみんなに会ってきてずるいわ」
と逆にちょっぴり拗ねてみたりする妻に、夫は、
「君はいつでも会いに行けるだろ、それより結婚記念日は楽しみにしてろよ!」
と嬉しそうに言ってみせるのだった。
「え? 何か見つけたの?」
「当日まで内緒だよ」
「あん、ずるいっ!」
結局、妻がどうなだめすかして聞き出そうとしても、夫はそれ以上話そうとはせず、前夜のお返しとばかりにベッドサービス満点の夫に、妻はいつしか我を忘れていった。
(背景:pearl box)