泣き声、それは、燃え盛る火の中からかすかに聞こえる。

子供か、大人かは判然としない。

人か、動物かもわからないというのに、何かの泣き声だということはわかるのだ。

俺達二人は、戦う意欲を消失して、火のむこうを見つめる。



「おい、その手にためてる力、あの火に向かってぶつけてみろ!」

悪魔が、更なる悲劇を求めて、指図してくる。カッとして、

「そんなことしたら、さらに炎上するだけじゃないですか!!!」

「なんだ。その力を水に変えるとか、できないのか?」

「できません!あんたこそ、悪魔なんだから、水芸のひとつやふたつ披露してみたらどうですか。あれだけえらそうに、名前連呼してたんですから、さぞかしいろんなことができるんじゃないですか? 」

「・・・・・・・・・。水とは属性が違ってお友達じゃないんだ。何でも安直に言ってくるな。それになあ、こういうことは何でも専門家に任せたほうがいいんだ。」

ちょっと悔しそうに言ってくる。じゃあ、属性はなんなのか、今後の展開にも影響してくるのでぜひ問いただしたいところだったが、そんなことよりも、中にいるものの救助のほうがとりあえず先と、方策を考え始める。

「まだこないなあ。もう一回、呼んでみるか。」

「何、仲間呼ぶつもりなんですか?」

聞き捨てならない。ただ一人でも何とはなしに、もてあましているというのに、もう一人悪魔が増えるとなると、話が違ってくる。

しかも、話の流れでは、属性が水の悪魔が来るのかもしれない。そうなると、この場は、全く不愉快だが、逃げることにして、再戦にかけたほうがいいのかもしれない。緊張しながら、いろいろ考えをめぐらせている。すると、



「いや、消防署にさっき通報したんでな。そろそろ来てもおかしくないと思うんだがなあ。」



・・・・・・・・・・・・・・・・。

どこに、消防署に通報する悪魔がいるんだ。

この調子だと、窃盗犯や痴漢を見つけたからと言って、警察に通報するんじゃないのか?

そう思って、そのまま言ってみると、

「あたりまえではないか。市民の義務だ。」

と、悪魔の風上にも置けないようなことを言ってくる。

「あんたな・・・税金納めてないような悪魔に、税金で奉仕してくれる公僕を使っていいと思ってるのか?そういうことは、税金払ってからいってくれないとな。」

「なんだとう。毎回、買い物のたびに消費税払ってるぞ。ちゃんと。きっちり。」
「住民税と所得税は?」

「・・・払ってない。つうか、戸籍がないのに払いようがあるか!!!」



いや、なんか、もう、ぜんぜん話があさってに飛んでいってしまった。

なんで、俺は、こんな夜更けの火事場で悪魔と税金談義をしているんだ・・・

しかし、ずいぶん騒いでいるというのに、まだ、ピーポーだか、ウーウーだか忘れたが、消防署のサイレンは聞こえてこない。

火の勢いは次第に強くなり、隣家に燃え広がりそうな勢いだ。



「で、今おまえにできることってなんだ?」

悪魔がきいてくる。正直に、

「バケツリレーくらいですかねえ。」

と答える。水系の力がやはりないのと、何かの術力を使おうとしても、さっきの不発の業でかなり空になってしまっているのだ。

後は、人としての体力くらいしか残っていない。

「人間は、やっぱりやわだなあ。まあ、仕方がない。ここは一つ、坂本三四郎様が、一肌脱ぐとするか。」

といって、悪魔はにわかに着ている服を脱ぎだした。





つづく。



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