そうして、すべての火が消し止められて、現場検証が終わったあとも、あの悪魔は戻ってこなかった。

もうすっかり夜は明け、白々としている

ずっと、いまかいまかと戻ってくるのを待っていたので、すべてが鎮火して、燃えつくされたうちの柱の土台しか残っていない残骸を見つめながら、えらく、失望する。

結局、俺は、信じてはいけないものを信じて、だまされた、ということなのか。

きっとそうなのだろう。

なんという、甘ちゃん。

やはり、悪魔を信じてはいけない。先達が言っていたことは決していつも間違っていなかったのだ。

例外があると、彼がそうである、という証拠など ないというのに、なぜそう信じ込んでしまったのだろうか。

知らないうちに、悪魔の持つ“魅了”に引っかかっていたのだろうか。

そう思うと、足元においてある、彼の置いていった服も、いっそ、あの火の中に放り込んでしまえばよかったと思わないではいられない。



そうして、心が若干ブルーになりながらも、うちに戻ることにする。

ここにこれ以上いても仕方がない。

朝のミサのしたくもしないと、そろそろ間に合わない。まあ、弟もいるから、あいつに任せても問題はないんだが。

彼の服をどうするか、ちょっと迷ったが、結局うちに持っていくことにする。

気分的には、もう捨ててしまいたいくらいだが、残留しているものの調査で何かわかるかもしれない。とりあえず証拠の物件は何でも必要だ。

そうして現場を離れようとしたときに、なにか空から落ちてくる。



なにか赤黒い塊。

焼けた匂いのする、それは、人の形をしていて、焼けた羽の骨組みだけ背中に見えている。

瞬時にそれがなにかを理解し、駆け寄る。

うずくまり、うめき声も立てないため、もう、これはだめかと、とりあえず脈や息があるかどうかだけ確かめようとする。

(悪魔にあるかどうか知らないが。)

そっと鼻と口と思しきところに耳を当てると、

「・・・・・こ・・ぞ」

と、なにか言っている声がする。

生きている。

何を言っているかに集中して、耳を傾けると、切れ切れに伝わる言葉は、

「猫だったぞ。」

ということらしい。彼が身を丸めて、全身全霊で守っていたものが、そっと、彼の腕の中から、這い出してくる。

幸い、ちょっと毛が焦げていて、煙にいぶされて目がなみだ目になっているくらいで、猫には被害がない。

助けた側は、すっかり焼けただれ、髪の毛すら残っていないというのに。

正直言って、俺は、悪魔というのは、超常的な存在であると、思っていた。これまであって、さようならしてきた悪魔達も、やはり超人的で、こんな風になっているのをあまり見たことがない。

だから、彼を送り出したときも、きっとあの劫火の中でも、きっと無事でいると思っていたのだ。

なにか超人的な皮膚で、火などに負けない、そう思っていた節がある。

が、こんな状態を見ると、悪魔といえども、人と変わらないのでは、と認識を改めざるを得ない。

そして、こんなに黒焦げになって、彼が助け出したのが、猫一匹。

どこかのヒューマンドキュメンタリーでも、安すぎて、取り上げられないような内容だ。

そう思うのに、なんだか、胸が一杯になって、とにかく、この人を助けないと、と思う。

そうして、焼けた肌の傷に触れないように、そっとかかえあげて、自分のうちに向かったのだ。

助けた猫も連れて。





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