自分の叫び声で目が覚めた。

いやな汗をたくさんかいている。飛び起きようとしたが、体が思うに任せない。

そこいらじゅうから痛い信号が発せらている。

痛みが収まるまで、じっと動かない姿勢でうずくまる。

数を数えて気を紛らわせる。30を越えるあたりで無心になり、痛みから頭が切り離されて、ただ数だけで頭が一杯になろうとしたときに、扉が開いて、誰かが入ってきた気配がした。





悪魔が目を覚ましたのは、火事場から運び出して、治療などを施した3日後だった。

傷は、人では考えられないくらいの尋常でない速度で、勝手に修復されていくように見えた。

全く完全に治ったというわけではないが、3日目にして、むき出しで丸剥けになっていた皮膚が、何とか薄皮がついてくるかのようにふさがってきている。

いや、この常軌を逸した回復力。さすが悪魔と、何とはなしに、とぼけたことを考えてしまう。

これで後は意識が回復すれば、一安心と思っていた矢先のことだった。



俺は、別の部屋で、たまりにたまったこまごまとした事務処理を行なっていた。いや、聖職者といえども、仙人ではないため、ある程度の日常処理を行なわないと飯が食えない。まあ、うまくやればウハウハの宗教者生活とも無縁のため、普通の公務員のように、報告書を書いたり、経理処理しないといけないわけだ。めんどっちい、と思っても、誰かかわりにやってくれるわけでもない。美人秘書がつくなどということはないのだ。

えらくまずいことなんだが、俺は今回のことを上に報告していないのだ。同業の家族にも打ち明けていない。

うちに悪魔がいて、治療している、と。

いや、なかなかに言い出しづらい。というか、言い出せない。

家族から独立した教区をもらっているからばれていないが。

明らかにルール違反というか、報告義務を怠っているため、処罰の対象になることはわかっているのだが。

まあ、意識が戻ってから、事情聴取と情報収集を終えてから、それらのことについて考えようと自分を納得させていたときに、部屋の向こうから叫び声が聞こえた。



慌てて駆け込んでみると、悪魔はうずくまっている。もう、叫び声は上げていない。

扉を開けた音で気がついたのか、こちらを見やっている。

なんと声をかけていいのか、戸惑っていると、

「ここは?」

と聞いてくるので、

「俺のうちです。」

と答えると、俺のうちじゃわからん、と結構はっきりした声でつぶやいている。本当に回復が早い。

あと2〜3日したら元気はつらつになるんじゃないのか?

それでも、やはりしゃべるのが億劫なのか、目で問いかけてくる。

体は、まだ痛々しいままなのに、目だけは強い光を保っている。

よくよくみるといろんな色だ。宝石でいうといろんな色が混ざっているオパールのようだ。

その目を見つつ、

「服を脱いで火に飛び込んだのを見届けて、戻るの待っていたら、こんがり焼けたあんたが空から落っこちてきたのを担いで俺のうちに連れてきて、看病したんですが。」

と、一息に全部説明した。

すると、得心がいったのか、うなづきつつ、あの猫は?と目で探すので、無事を知らせた。傷に触るといけないので、向こうの部屋に追いやっておいたのだ。

その無事を聞いて安心したのか、ほっとしたように細めた目の色が淡く和らいだ。

すぐに、傷が引きつれて、痛みの強い顔に変わってしまったけれど。







つづく。







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