「クリスマスプレゼントは何が欲しい?」





などと無造作に聞いてこられると返答に困る。

あの人から飛んできた携帯メールをしばし無言でみつめる。

何がいいか。

本当に欲しいものをいっていいのだろうか。

おそらくあの人は、プレゼントというものは店で売っているきれいな包装紙に包まれているものを想定しているに違いない。

欲しいものはあるにはあるが、店で売っている価格のあるものではないため、それを欲しいという場合には注意が必要だ。

おおよそ世間に値段のつかない非売品、商品ではないもの、というものが多々あふれている。

たいていのものが金を出せば、ネットのオークションやら何やらで手に入る便利な世の中になってはいるが、いまだに価格のないものを手に入れる方法というのは確立されていないのだ。

だが、全く手に入れることができない、という訳でもない。

金ではない、何かを提示するという方法。

その提示した何かが、相手の意向に合致していたならば、商談成立。

どれを提示すれば、手に入れることができるのかについては、目下模索中だ。

必ず手に入れる、と心に決めているため、早々下手は打てない。

が、そう気長に事を運ぼうにも、意外にも自分の心はせっかちにできているのか、



「何が欲しい?」



などと聞かれた日には、正直に、



「坂本さんが欲しいです。」



などといってしまいそうだ。



「そうか・・・よかろう。好きにしろ。」



といって、あの人が心持ち顔をこちらに上げるようにして目を伏せるので、誘われるようにそっとその頬に手を添えて甘く口付け。

などという展開になるはずがない。

絶対却下される・・・

即行。

おそらく、その不用意な一言で厳戒態勢がとられるに違いない。

ようやっと、記憶の端に追いやられていたのを視界に入るくらいまで持ってきたというのに、眼前に「立ち入り禁止」のテープが張られ、全身ハリネズミになられたら、たまらん・・・

あの人はおそらく逃げるためなら国外逃亡も問わないに違いない。あの外人兄弟の二の舞を踏むわけにはいかないのだ。



そんな訳で、こちらとしてはえらく用心深くというか注意深くならざるを得ない。

何が欲しいか。

何が欲しいと答えて欲しいのか。

そんなことを考えつつも、何かを隠蔽するような他に欲しい物品となるとなかなか浮かばない。

たいてい自分で買えるからな。この歳になると。

部屋の電気が切れていたから蛍光灯、この頃肩こりがひどいから湿布、忙しくて買い損なった雑誌・・・

どれも本当に必要だが、プレゼントで頼んだ日には、子供の遣いじゃないとまじ切れされる。自分でも嫌だ、そんなもん頼まれたら。

そうしてしばらく、自分の欲しいものについて熟考を重ねたが、特にない、という結論に至る。

結局は、一番欲しいもの以外はどうでもいいものなのだ。

今年は、うやむやに勢いに任せて煙に巻いて、クリスマスを一緒に祝うというのを勝ち取っているため、それで十分なのだ。

あの人が欲しいものをリサーチするという名のデートで幸いプレゼントも購入できたし、俺のクリスマスというイベントのもち札カードはおおよそ出揃ったため、あとは当日にどの程度あの人の譲歩を引き出すことができるか、ということに腐心するだけでいいのだ。

だいたい、クリスマスを一緒に祝うといった時点で却下されなかっただけでも御の字。

一度OKがでたものは、既得の権利としてよほどのことがない限り来年も有効だ。ということは、来年もクリスマスに一緒にと言い出しても不審ではないということだ。

希望としては、来年はそんな前例主義に基づいてではなく、カップルの一つのイベントとして祝うことができるといいのだが。

まあ、目標として掲げるだけで、あせらず騒がず急がず。



そんなことを思いつつ、メールの返信を打った。

おそらく、特にない、という返事にえらく苦情が出るに違いないが。

クリスマスというイベントの主眼が、子供の頃のようにプレゼントやごちそう・ケーキにない以上、そう答えるより他はない。

あの人が一緒に祝える、ということに喜びを感じてくれる日なんてくるのかなあ。←すでに弱気。



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