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【第二部・殺人】
あらすじ
二部は三幕あり、1幕「ヘカベ」、
2幕「アガメムノン」、3幕「エレクトラ」。
全ての幕で殺人が行われる。
ひとつの戦争が発端となった復讐、憎しみ故の殺人。
1幕、ヘカベ(渡辺美佐子)は小さな子どもを殺す。
娘ポリュクセネ(川本絢子)をアキレウスの生け贄にされ、
財宝を持たせトラキアに預けた最後の息子ポリュドロスは
トラキアの王ポリュメストル(渕野俊太)に惨殺されていた。
そしてヘカベは王ポリュメストルの目を突き刺し、
その息子を殺した
。
2幕、妻クリュタイムネストラ(白石加代子)が
夫アガメムノン(平幹二郎)を殺す。
娘イピゲネイヤを死にいたらしめ、
トロイアの王女カッサンドラ(中嶋朋子)を
花嫁として連れ帰った夫アガメムノンが
ギリシャ軍を率いて凱旋帰国してきた。
クリュタイムネストラはありったけの賛辞で迎えるが、
風呂場でくつろぐ夫を斧で惨殺、
カッサンドラも葬った。
3幕、息子オレステス(尾上菊之助)が
母クリュタイムネストラを殺す。
父アガメムノンを殺され、
母の愛人アイギストス(吉田鋼太郎)に虐げられるエレクトラ(寺島しのぶ)は
弟オレステスの帰りをひらすら待っていた。
オレステスは父の復讐を遂げよとのアポロンの神託を受けていたのだ。
再会した二人は共謀して母を短刀で刺し殺し、愛人アイギストスも殺した。
テーマが殺人なのだから、重い。
けれど、凄い!どの殺人も憎しみと狂気に満ちている
。
1幕
ヘカベの殺人
。母なれば子の復讐したいと思うのではないだろうか。
それも殺人を犯した人間を一番苦しめる方法で。
実行に移すか否かは別として・・・。
アンドロマケが獅子のように子どもを守ろうとしたように、
ヘカベもまた子を失った悲しみに獣と化す。
渡辺さんの押さえた声がコロスを支配し、
アガメムノンの心さえ動かし、
静かな復讐の火がじわじわと燃え上がる。
そんな感じだった。
復讐ならばアガメムノンも殺したいはず、
しかし彼は勝者でヘカベは敗者だ。
が、ポリュメストルは裏切り者だった・・・・。
カッサンドラ(1部)
、ポリュメストルの予言通りこのあとヘカベは嵐にあい溺れて死ぬのだが、
そこでもしかしたら息子ポリュドロスの魂と出会えたかもしれない・・
・せめてそうさせてあげたいと思う。
ヘカベとアガメムノンの芝居が好きだったなあ。
アガメムノンが少し若造に見えるくらいヘカベの姿は大きかった。
平さんも渡辺さんとのお芝居の場面はゆだねられてたんじゃないかしらん?
なんて思ってしまった。
2幕
妻が夫を殺す。現代でもよくあることだ。
生け贄はないけど・・・。
娘を殺した夫が不在の間に愛人を作った妻。
戦場で女を抱きまくり王女を妾に連れ帰る夫。
うまくいくはずないじゃない。
現代でもここまでの夫婦っていないんじゃない?あるの?
この時代には離婚なんてなかったのかなあ?
(今なら泥沼離婚ってことになるんだろうなあ。)
そこで殺すことにした?
夫を殺すと決めている女のなんとしたたかな事よ!
蕩々とその口から流れ出るでまかせ?うそ?
でもうその裏には必ず真実が見える。
本当は夫を愛したい、愛されたい、尊敬したいと
願っているんじゃないかしら。
だからこそ、裏切りを感じて憎しみは夫の凱旋の日に頂点に達し、
叶わなかった愛を見事に斧で断ち切ってしまった。
白石さんの鬼気せまる演技に鳥肌が立つ。
愛した夫の血に染まって斧を持つ白石さんは壮絶で美しい。
そのままの姿で愛人と唇を合わせる満ち足りた至福の表情・・・
王妃でなく女だなあ〜と強く思った。
カッサンドラの中嶋さんの声は独特なんですね。
それにあんなにパワーのある方とは思いもしなかった。
お札ひらひらの巫女ファッションで神に憑かれて未来を語る。
狂女と言われたり、アポロンの乙女と言われたり、
いろんな解釈があるようだけど、
グリークスのカッサンドラはその両方の感じがあったみたい。
アガメムノンの腕の中でしどけなく身をよじる姿は
あきらめと屈辱の全てを受け入れた生け贄のように見えた。
3幕
いよいよ話題の女殺し油地獄!姉弟競演の3幕だ!
写真で見たオレステスとクリュタイムネストラの迫力に
舞台を観る前から期待していた。
その、テラテラと光る液体の中でくんずほくれつして殺しあうなんて
とても素敵!←オイオイ・・・
いやあ、菊之助さんの肉体美にはちとびっくり
、着物が濡れ、肌が光り、足をとられて転びまろびつ・・・
いいじゃないですかあ
。殺人も舞台で魅せるには美しくなくては!
逃げまどう母クリュタイムネストラの恐怖にひきつる姿もまた
究極の快感←オイオイ・・・
昔、古代ローマの剣闘士の試合観覧を娯楽としていた人々の気持ちも
こんなのだったのかな?
あのネバネバした液体が
人の心から滲出してきた憎悪と殺意の膿みのようだったなあ〜〜。
それと今回すっかりファンしてしまったのが寺島しのぶさん。
なんてお上手なの!声、が好き。
ひとつの言葉、センテンスにいろんな感情を細かに含め表現し、
私達に届けてくれる。
姉弟のシーンも菊之助さんとしのぶさん、ではなく、
オレステスとエレクトラだったと思う。(当然だけど…)
エレクトラのセリフでとても心に残ったセリフがあります。
母、クリュタイムネストラとの会話。
「なぜアイギストスが私につらく当たるのを放っておくの?」
これってそのまま現代の子ども虐待の図にあてはまりませんか?
継父による虐待、それを見て見ぬふりする母親。
エレクトラと同じことを母親に言いたい女の子が
今もこの日本にいっぱいいると思うのです。
そして最後に彼女は殺した母に言う
「あなたは私が憎んだ人、そして私が愛した人」
母に愛されなくて、ほかの全てがあったとしても、子どもは飢える。
今の世にもエレクトラはたくさんいる、と思った。
で、2部にはぬわーーんとヘレネさまはお出にならない。
ちと寂しい。
でも『ヘレネ』という名は何度も出てくる。
その名を聞くたびに自動的に頭に
ヤンさんヘレネが浮かぶようになっている。
これぞ、オートマチック安寿ファン仕様!
ヘレネさまは嫌われてばっかりでおいやでしょうけど、
ファンはその名前を聞くだけで満足
しちゃうんだなあ〜。
〜♪It's automatic!〜
【そんな訳で2部で、何回ヘレネの名前が言われているか数えてみました。
(戯曲でね)】
1、ヘカベ「ところがヘレネがお前の正体を告げ口した」
2、セリス「今はヘレネと愛人のパリスを呪うことしかできない。
あの二人が悪いのよ・・・あの二人が。」
〜で、溺れ死ねだの顔がめちゃめちゃになれだの、
腐った肉をカモメがつつけだの・・・(あっ!今気がついた!
このコロスたちが言ったことは
全てヘカベの息子ポリュドロスの身に起こってるんだわ・・・)
3、そして「ヘレネ、ヘレネ、ヘレネ、」
「トロイアの淫婦ヘレネ」
以上、1幕(計6回)
4、コロス「ヘレネは何をした?」
からヘレネの美しさを金色に輝くだの、
あの目、一瞥だけで心に憧れの矢を射込む目、
だの、言われちゃう!
5、アガメムノン「ヘレネの略奪はこれで償われた、」
6、コロス「ああ、ヘレネ、ヘレネ、
お前は永久にこの家を汚してしまった。」
7、クリュタイムネストラ
「ヘレネが悪いなどと言うのではない。
これはヘレネとは関係ない」
以上、2幕(計6回)
8、エレクトラ
「ヘレネは暴力で連れ去られたのではないわ」
9、クリュタイムネストラ「ヘレネが悪いのよ」
以上、3幕(計2回)
よって6+6+2=14!
計、
ヘレネの名は14回も出て来ますのじゃ!
みなさん、何かというとヘレネ、ヘレネだもんね。
うれしーな!
もっと言って〜〜!!
次はヘレネについてる形容詞特集でもしよっかな?
さあ、次はいよいよ第3部ですじゃ!どうぞ!→3部へ