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   accel.  〜言えなかったI love you〜   ♯4







「ねえ、心が温かくなるように・・・手を繋ごうか?」

私はとてもズルイ。

「・・・え・・・っ?」

戸惑いながら聞き返す彼に、私は少し恥ずかしくなって笑った。

私はズルイ。
うん、自覚してる。
だから理由をつけて彼に促した。

「誰も居ないし、たまには青春らしいことしたいじゃない?」

この年下のオトコノコが、私に好意を寄せてるって、ちゃんと知ってる。

「お手をどうぞ?王子様。・・・私じゃイヤかな?」

本当は、唇が乾いて・・・声が震えてた。
誰でもない、晃君に・・・そんなことを言うなんて。
だけど、私は想い出が欲しかった。
一瞬でもいい。晃君と繋がり合う時間が欲しかった。

「たまには・・・いいですよね・・・?」

晃君の声が、同じように掠れていて、私は嬉しくてくすくすと笑ってしまった。
彼の言い方が、あんまりにも彼らしくて。
愛しくて愛しくて、切ない。

「ナイショね?」

ほんの少し、私が触れただけで、彼は体中の筋肉が固まってしまったかのように硬直する。
頬はうっすらと赤く染まり、瞳はおどおどしながらも、口元が綻ぶのがわかる。
繋いだ掌がじっとりと汗ばむのを感じて、私は・・・私もどきどきするのを感じてる。

恋をしてる。

そう感じて、心が急に弾みだす。 嬉しくて、恥ずかしくて、手を大きく振った。

「私、男の子と手を繋いだの、小学校以来だわ。」

晃くんが向ける視線は、まっすぐで、揺るぎないものであるかのように、私の胸を射すくめる。
彼が、学校で注目を集める存在であることも・・・きっと私が自惚れる原因かもしれない。

――私は自惚れてる。

久遠晃というオトコノコに、好かれているということに。
そして、それを気づかないフリをしている自分に。
握り締める掌が、ちゃんと「オトコ」していることに、私は改めて気づかされて思わず目を瞑った。
繋がれた掌から、彼の鼓動が伝わるかのように、私の胸も強く打つ。

「いいな、私もこんなお兄ちゃん欲しかったな。」

純粋に、私は晃君とこうして歩けることが嬉しくて、そしてズルイ私は私の気持ちに蓋をして、わざとおどけて見せる。
晃君のことなんて、「オトコとして見ていないよ」と言うかのように。

「私は一人っ子だからね。お兄ちゃんって憧れるよ。・・・・・・って、晃くんは年下でした。」

並んで歩く、そのことが、特別なことだって・・・・私だけが知ってる。

忘れてほしくない。
私のことを覚えていてほしい。
私を好きでいたことを・・・後悔してほしくない。

不意に涙が込み上げて、夜空を仰ぎ見た。
嬉しくて仕方ないのに。
悲しい。
私は晃君に恋してる。
だけど、告げられない。
それは、ズルイと自覚している私でも、流石に躊躇われた。
気持ちを知られたくはなかった。
今のまま、「先輩」と「後輩」でいたい。
誰にも立ち入られないような境界線を築きながらも、私たちの間にあるものを他のみんなは感じ取ったとしても、私たちの関係はこのままで。

だから、涙。
零れないで。

今、涙が零れたら、私たちのこの関係は・・・変わってしまうかもしれない。

「・・・先輩・・・僕・・・」
「ねえ、晃君。星って不思議よね。」

何か言いかけたその言葉を遮るように、私より少し背が伸びた、晃君の瞳をすり抜けさせて星を見た。
涙はかろうじて、瞳の奥に引っ込んでくれた。
あれだけ泣いて、まだ涙が残っていたのが不思議なくらいだというのに。
彼のことを考えるだけで、涙がまた生成される。
でも、今は必要ない。

「星?」
学校の隣にある、駅への近道の公園は、ひっそりと静まり返っていた。
互いに握り合った手は、離れがたいとでもいうようにしっかりと繋がれていたから・・・私たちは何となく公園の中をゆっくりと歩いた。
風が私たちを通り抜けていく。
木々がざわめいていた。
私の心の中のように。
「・・・・星の光りは・・・随分前に放たれたもので、今見ているこの瞬きは、本当はもう存在しないかもしれないでしょう?」

――もう、存在しない。

自分で言葉にして、私は馬鹿みたいに・・・また瞳の奥に仕舞い込んだ涙が滲んでくるのを感じて、頭を振った。

「・・・こんなに綺麗なのに、今、存在するかもわからないなんて・・・不思議じゃない?」
明るく言って笑顔を向けると、晃君は私の手を引っ張ってベンチに導いた。

「先輩、時間ありますか?ちょっと・・・休んでいい?疲れちゃって。」
握った手は離さずに、晃君はベンチの前で立ち止まった。
「う、ん。時間は大丈夫だけど・・・。」
「ラストに3周ダッシュしたんですけど、足が痛くて。」

苦笑する晃君に、私は慌てて手を離した。

「座って!ごめん、気づかなくて。捻ったりしてない?冷やした方がいい?」
「や、ちょっ!先輩!?」

両手で彼の肩を掴んでベンチに座らせる。
そうだ、晃君は大事な試合の前なのに!
私の感傷につき合わせてしまった。

「ごめんね、生徒会の仕事に引っ張り込んじゃって・・・!」

思わずしゃがみこんで、晃君の両手を握り締めた。
そのベンチの脇の外灯だけが明かりを灯していなかった。だから、晃君の表情は影になって見えなかった。

「先輩、僕は自分で手伝いたくてしてるんですよ。捻ってもいないし、ただ疲れただけですって。」
「でもね、痛みは放っておいちゃダメだよ。体が悲鳴あげてるんだからね?ちゃんと自分の体の声は聞いてあげなくちゃダメよ。」

思わず胸を押さえて俯いた。
自分自身に言い聞かせるような、そんな気持ちになっていた。

「カンナ先輩・・・?」

心配そうな晃君の声にはっとして、ようやく私は大袈裟すぎたと感じたけれど、そのままの姿勢で・・・手を握ったまま立ち上がれなかった。

「・・・・・・・・・・そんな経験が・・・・あったんですか?」

静かに問いかけられた声は、答えを求めると言うよりも・・・説明を求める声だった。

私は、彼にどこまで心を見せてしまったんだろう?

また風が吹いた。


2006,4,6






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