「題詠マラソン2003」(051〜075) 神崎ハルミ(現、伊波虎英)
051:敵
敵味方二分しのべつ争える <ドーナツ星> をがぶりと齧る
052:冷蔵庫
冷蔵庫の扉を開けるあの感じ 玄関の鍵穴がこわい
053:サナトリウム
クリスタル硝子の花瓶おもいつつバスに揺られてサナトリウムへ
054:麦茶
凍らせた麦茶カラコロとけるまで寄り道をしたふたりの夏は
055:置く
テーブルに腕時計置き臓器提供者(ドナー)とはこういうものかとふと思いたり
056:野
金星に幽閉された野うさぎは詩人O氏とT氏だたぶん
057:蛇
恩赦ではなく冤罪を晴らしたと四肢を巧みに動かす大蛇
058:たぶん
ぶんぶんぶんたぶん五月のみつばちが僕の脳(なずき)に巣くいておりぬ
059:夢
「あのたぁ、タキたぁ」 サキちゃんの夢は斉藤(たいとう)クンのお嫁たん
060:奪う
捨てられるように生まれてきたんだね 雪代(ゆきしろ)に指から奪われる
061:祈る
祈るとき右手は大地、左手は天空 みずに満たされてゆく
062:渡世
<ヤミ金> の黄色いビラは渡世という花粉にまみれ指を汚しつ
063:海女
「海女さんになって真珠をさがしてた」いいさ見つからなくったって
064:ド−ナツ
アンドーナツハアナガナイカラキライキライ
アメリカハ◎◎◎カラ◎◎◎◎
065:光
闇の破片、光の破片が突き刺さる驟雨のあとの屋久杉林
066:僕
「なんでだろ〜ぉ、なんでだろ?」と僕はただ振り真似付きで唄うお馬鹿だ
067:化粧
お化粧はそこまでにしてさあ僕と夢のしっぽを探しに行こう
068:似る
皇帝ペンギン隔離ののちの <学ぶ> には杳(とお)き <真似る> のオウムの独語
069:コイン
みどり児の眼(まなこ)溢れるしろがねのコインでまわすスロットマシン
070:玄関
玄関の灯油タンクのみずいろが闇に浮かんで地球のようだ
071:待つ
アップルパイ焼きあがるのを待ちながら寂しくおもう冬の引力
072:席
空爆機操縦席にキムタクがいて俺もいるじゃん GOOD LUCK!!
073:資
肌に触れたちまち消える <Q資料> 春押し退けて戦争が来る
*Q資料(クーしりょう) … マタイとルカとが福音書を著す際に、マルコ福音書以外に共通の資料としたとされる仮説上の文献。
074:キャラメル *表記修正
キャラメルの甘い香りを放ちつつ園児がうたう賛美歌「ラーメン」
075:痒い
痒いのは目でも鼻でも頭でもなくてひこうき雲のところだ
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