今月のひとこと バックナンバー【平成23年】

平成23年

1月
  新年を迎えても景気の良い話は多くはありません。それでも証券取引所の大発会でのご祝儀相場は、予想以上
良いものだったと聞きました。
 アメリカでも上昇の兆しが見え、中国やインドなど東南アジアでは経済発展が著しいようです。投資には縁がありま
せんが、日本でも経済に活気が出て来れば一般人にも良い波及を願います。
 経済的時間的な余裕が出来れば、最近増えていた治療の中断による口腔内の破壊が食い止められると思われま
す。インプラントをはじめとする「高度医療」も大切ですが、高額治療による利益確保以上に、基礎的な治療すら脱落
しかねない階層への対策を、歯科界自身も考える時でしょう。

2月
  入れ歯を支えてきた(鈎=バネ)の架かっていた歯が壊れ(金冠が外れたり虫歯で歯冠部が無くなって)入れ歯が
支えられなくなり外れやすくなることがあります。冠部を再製すれば良いのですが、根が短く頭を支える程土台が十
分な長さがないことがあります。それでも強固に骨に植わっている場合、まだ抜く程でなく使用出来るのです。
 この場合縦に咬む力には十分耐えられるので、横揺れの少ない「(根面)アタッチメント」と呼ばれる装置を使って入
れ歯の脱落や浮き上がりを防ぐことが出来ます。根の中に心棒(ポストと呼びます)を差し込むのですが、根より飛び
出す装置はごく短いので、ポストの長さは短くても脱離せずに済みます。(てこの原理で可能なのです)。
 鈎ほどの維持強度は有りませんが、その他にも装置を併用してカバーすれば十分実用になります。但し、健康保
険では使用出来ないので、自費として費用がかかります。それでも装置の種類を選べば、セラミック冠やゴールド冠
の数分の一の費用で済みます。何よりバネが表に見えないので自然観が保たれることと、無理に残した歯ですから
通常より寿命が短いことが多いので、万一抜歯となっても元の入れ歯は少しの補修で使い続けることが出来るという
良さがあります。

3・4月
  まもなく年度末を迎え4月になると学校では新学期となり、進級新入学で新しい生活が始まります。義務教育では
学校保健法などで身体検査や口腔健診などが実施されます。
 全身の身体検査は多くの高校では行われていますが、口腔健診(お口や歯の健康検査)は最近では実施されて
いる学校も多いのですが、義務化されていないので行わない学校もあります。まして大学や専門学校では実施は希
なのです。まだまだ成長期の体では早期発見、衛生指導が欠かせません。
 率先して自主的にかかりつけ歯科医を作り口腔健診とプラークコントロール(ブラッシングの仕方など)の指導を受
けることをおすすめします。地方自治体よっては無料健診の制度が有り、請求すると受診できる場合もあります。健
康診断は原則健康保険の対象外ですが、軽い歯肉炎や疑わしい虫歯(Co)など有れば(口の中ではまず何もないこ
とはあり得ないのですから)立派に病気といえますから、健康保険でスケーリング(歯石・歯垢除去)が行える場合が
ほとんどです。

5・6月
  6月に入ると歯の衛生週間が始まります。この運動の経緯を見てみると「1928年から1938年まで日本歯科医師
会が、「6(む)4(し)」に因んで6月4日に虫歯予防デーを実施していた。1949年、これを復活させる形で口腔衛生週
間が制定された。1952年に口腔衛生強調運動、1956年に再度口腔衛生週間に名称を変更し、1958年から現在の
歯の衛生週間になった。」とあり、関係者の我々ですら現在の名称が何であったかはっきり言えないことがあります。
 紛らわしい名称変遷にはそれなりの社会背景や、運動の目的の変化があったと想像されます。過去の「良く噛め
る」「虫歯にしない」一辺倒から「歯周病」や「摂食の介護」に至る必要性の変化が如実に影響しているのでしょう。
 纏めてみると「摂食(捕食)」「咀嚼」「嚥下」という「食べる」という一連の行為が滞りなく行える環境を維持するため
の必要なケアとキュア(予防と治療)を守る運動といえましょう。

7月
  高井戸に移転した当初は、夕方遅くの時間帯が予約で一杯で患者さんの対応に追われていました。最近気が付
いてみると、夕方の時間に空きが目立ちます。久しぶりにやってきた会社勤めの患者さんに聞いたところ、リストラで
社員数が減ったので残業が多くて、定刻よりかなり退社が遅れ夕方に通院しにくくなったとのこと。
 確かに街を歩いてみると、8時9時と遅くまで診療時間を延長している歯科診療室が目立ちます。そうすることで対
応すると同時に営業も確保を図っているのでしょう。しかし実働していなくても長時間の拘束は、身体的だけでなく精
神的にも疲労するものです。疲労による診療過誤など起こらなければよいのですが。
 この夏は電力不足の対応による時間差の勤務が増えそうです。早く出勤して早く退社、土日働いて平日休暇、遊
びだけでなく歯科治療にも時間が有効に使えます。日のある内の診療行為は、患者さんにも医療者側も最善の体
調・状態が得られるので、最良の診療内容も自然と付いてくるのです。

8月
  日本全体が高齢化社会となっていますが、40年以上歯科診療を続けていると術者である院長と一緒に患者さん
方も年をとっていきます。高齢者の歯科医師には若い患者さんは魅力がないのでしょうか、新しい患者さんも高齢者
の割合が多くなります。
 認知症や痴呆(この言葉現在は使用しない方向にありますが、表現上は理解しやすいので)でなくても高齢者は記
憶力の衰えが起こりやすいのです。すなわち物忘れしやすいのです。義歯(入れ歯)を入れている割合も多いのは当
然ですが、この事からトラブルが起こります。
 物忘れの最初は「置き忘れ」から始まります。入れ歯をはずし何処へ置いたか忘れる、ティッシュに包んでおいてう
っかりゴミと間違えて捨ててしまった・・・などのトラブルがかなり多く発生しています。
 当医院では、清掃以外は義歯は常に口の中に入れておく・・寝る時も・・を推奨していますので置き忘れは起こらな
いはずですが、擦れて痛い、緩くて外れるなどの理由ではずしておく場合があります。そんな場合は、ガラスコップ、
ビニール袋など透明な入れ物に入れ、歯ブラシと同じ場所に置くと決めておくとなくすことは少なくなります。要介護
者の介護に当たる方も心がけて下さい。
 それよりも、入れ歯の不具合は外しておかないで、出来るだけ早くかかりつけの歯医者さんで処置を受けて下さ
い。

9月
 原発事故以来人々の関心が放射線に集まっています。
 報道メディアのコメントには「放射線」「シーベルト」などなじみの薄かった言葉が飛び交い、実態が分からないだけ
に不安を煽っているような状況を作り出しています。歯科診療にとっても日常のごとく使用されているX線も放射線の
部類なので、今まで以上に注意が必要となっています。
 歯科治療の多くは内部の見えない堅い物質である歯や骨を扱うことになります。その病態を把握するためには、透
過する光線=放射線を使って内部を撮影しなければなりません。本来照射しながら内部の様子を実際に眺めながら
作業が出来ればよいのですが、被爆量が多くなるので短時間照射で済む写真撮影をして撮ったフィルムを判断材料
とします。
 放射線被曝は体内に蓄積されると言われていて、生涯被爆量が問題になります。しかし、実際にはその値は確た
るものはありません。が、従来からの研究で医科・歯科を含めてX線使用による治療行為によっての重篤症状の報
告はされていません。(かって歯科医師が自分の指でフィルムを押さえて撮影していたため、30年程の診療後皮膚
に潰瘍を起こしたとの報告を見た記憶はあります)
 X線照射は避けたい所ですが、治療上必要な程度は日常宇宙から降り注ぐ放射線量以下と考えても間違いではな
いでしょう。

10月
 医学の進歩によって予防薬の応用が進んでいます。
 脳梗塞・心筋梗塞など血栓によって起こると考えられている病を疑われる患者さんには、ワルファリン・バッファリン
など抗血栓療法(地が固まりにくくする薬を継続的に飲む)が盛んに行われています。当院は高齢者比率が高いの
で患者さんが服用していることが多く注意をしています。抜歯など出血を伴う治療・手術では血が止まりにくいので
す。
 少し以前には手術前1週間程服用をやめていただいていたのですが、その為障害が起きる割合は意外に高く
(3%程と言われています)主治医も停止しないよう指示する場合が増え、現在では飲み続けたまま手術をしなけれ
ばならない場合も多くなりました。
 診療室で縫合を始め止血タンポンなどの止血法があり恐れることはないと言われていますが、やはり通常より止ま
りにくく止血を確認後帰宅しても、翌日まで患者さんを不安がらせるようなにじみ出などが残ることが多くあります。
 凝固時間(PT-INR:プロトロンビン時間)を必要最小限に留めるよう抗血栓薬量や種類をコントロールすることによっ
て、止血をより確実に出来るのではないかと考えられます。唾液という血餅(血のかたまりで止血の要)を洗い流して
しまう液体の存在と、圧迫止血のための包帯の出来ない環境の口腔内を理解いただいて、主治医の先生のご協力
もいただきたいのです。

《11月》
 ドラッグストアーに口腔ケアーのコーナーが拡充されてきました。
 ずらり並んだ歯ブラシはもとより歯磨きジェルやフロス・歯間ブラシなど、望ましい傾向です。最近充実してきたのは
「電動歯ブラシ」のコーナーです。ドラッグストアーはもとより家電量販店も各社の製品が陳列され、時折宣伝員も説
明に躍起の様子です。
 患者さんからも「電動歯ブラシ」の有用性について聞かれることが多くなりました。かっての前後運動や回転運動に
代わって音波による振動を利用する方法に代わり、理論的に現在のブラッシングの理想型となりました。手で歯ブラ
シを振動させる(細かく動かす)代わりを機械がやってくれるのですから、本人はただブラシを歯に当てていればよい
のですから、手が多少不自由な方や、高齢者、幼児など細かい動きの苦手な年代でも苦労なく理想の歯磨きが出
来るのです。
 注意すべきは、勝手に歯ブラシが動くので安易に磨いているつもりになりますが、歯ブラシが当たらない所は磨か
れません。歯の間裏側など手磨きでも毛先の届きにくい所は、電動でも磨けません。しかし自動で磨く動きをしてい
るので歯に当たりさえすれば良いのです。磨き残しがないかどうかは染め出し液などでチェックすれば良いのです
が、主治医に相談すれば良い回答が得られるでしょう。
 
《12月》
 健康保険では近年「歯科疾患管理」として口腔全体を継続的に維持管理する方向に向かっています。在宅医療で
も「訪問歯科衛生指導」や「歯科疾患在宅療養管理」など指導管理に重点が置かれ始めています。介護保険に於い
ても「口腔ケアー」がさらに整備され拡充されてきました。
 歯科医師会も積極的に施策を進めるよう啓蒙に努めています。患者さんからも質問を受けることが多くなりました
が、介護保険でも医療保険でも「口腔ケアー」は狭義の意味「刷掃指導や義歯管理の仕方」などの口腔のメンテナン
スを指しています。しかし課題はもっと深い所にあります。
 年を取り食べ物が満足に食べられなくなってきた時、通常の食材は無理でも柔らかく煮込んだり細かく刻んだりと
食事を口から摂り続けることは「人間の尊厳を保つ」など大仰に考えなくとも、呆けや老け込みを防ぐためには重要な
ことなのです。
 摂食(食べ物を口に入れる)咀嚼(噛む)嚥下(飲み込む)が満足に出来なくなった場合流動食で栄養を摂る方向に
進みがちです。しかし経菅栄養や流動食ではQOL(人間らしい生活〔意訳〕)の改善は得られません。摂食・咀嚼・嚥
下を正しく指導し実地に訓練出来る職種や人材・施設の現状は把握されていない・・・というより極端に少ないので
す。現状把握と摂食訓練など患者さんに紹介出来る施設など、今後の調査検討課題とします。

 今月のひとこと バックナンバー【平成22年】

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