今月のひとこと バックナンバー【平成22年】

平成22年
 《1・2月》
 日本歯科医師会雑誌に、「インプラント治療が第一選択か」と題して「部分床義歯(部分入れ歯)を考える」との解説
記事(論文or示説)が巻頭に掲載されました。新技術を素早く取り入れることが、優れた歯科医療であり優れた歯科
医師と言い切れるでしょうか。
 新技術の経年的結果(時間経過による治療結果の良否の判定)は、医療にとっては20〜30年では信頼性は十分
とは言えません。と言っても、新技術は「救世主」ともなり得るので、十分な事前検証をした上で、治験を経て実際に
臨床(患者さん)に施術されます。しかし、10年程度の経年観察では、判断基準としては不十分です。
 最近「インプラント」を第一選択にする例が増えていますが、高価な上完治までの期間も半年近くかかり、その間は
既存の方法(主に義歯)で咬合・咀嚼(噛むこと)を保つ必要があります。今まで安定した評価が得られてきた技術で
まかないきれない時に、採用するのが順当ではないかと考えます。「インプラント」をはじめとする新技術も、試行錯
誤を繰り返した後、安定した地位を獲得出来るのです。
 義歯(入れ歯)は不都合が有ればはずしてやり直せばそれで済みます。手術を必要としインプラントのように身体の
中に装置を埋め込む処置をした場合、再治療には再び手術が必要になることが多いと思われます。高齢者には、そ
んな場合、初回と同じように体調が維持出来ているとは限らないという事情も考慮しておかなければなりません。
 冒頭の記事は、義歯も工夫次第では違和感も少なく、かなり良好な状態で作ることが出来ると述べていました。も
っとも、健康保険の制限内ではある程度の妥協が必要としていますが・・・。

 《3月》
 “歯科医はワーキングプアー”と断言していたTV番組がありました。「ブラックジャック」気取りの渡りの歯科医まで
登場して、「インプラントの施術出来ない無能力な歯科医の代わりに、助太刀して渡り歩いている」などの趣旨の発
言をしていました。
 開設管理の歯科医一名で、開業運営している歯科の診療所が大部分です。歯科医は一口腔を一つの単位として
考え、機能の回復を図ります。その為には得手不得手はあったとしても、全ての技術を取得し研鑽する必要がありま
す。おまけに、10年30年と患者さんの一生の経過に責任を負う気概で診療に当たるのが当然です。
 一人の患者さんの口腔内の治療を計画する時、考えられる設計は一つではありません。耐久性、便利さ(違和感
や発声など)、応用性(残った歯の状態と今後の経過)など要素は多岐にわたります。おまけに経済性(費用の多
寡)まで考慮する必要があります。
 インプラントはその中の一部に過ぎず、しかも現在までの経過はまだまだ少ないのです。安定した治療と言えるの
は何時のことになるでしょう。インプラントを施術しないのと出来ないのとは異なりますが、しないのは“負け犬の遠吠
え“と言われます。確かに施術出来てもしないのは、出来ないと同じです。
 あらゆる手段を講じても満足な口腔機能が得られない場合、インプラントに頼らなければならないかもしれません。
しかし、まっとうな歯科医なら自ら施術する努力をするか、地に足の着いた責任の取れる歯科医に依頼し、自分の大
切な患者さんを技術が優れていたとしても、責任の所在のはっきりしない“渡りの歯科医”には施術依頼はしないで
しょう。

《4月》
 4月は入学・就職など、人生の転機となる出来事が多い時です。転勤の多い時期でもあり、見知らぬ土地への転
居を余儀なくされることも多いのです。
 全身の健康管理も同じですが、特に口腔(歯や歯周病など)は、日頃のケアが長い人生に多くの影響を与えます。
平たく言えば、定期的に健康診査を受けることが、歯や歯茎の健康に不可欠なのです。突然の転居でかかりつけの
歯科医・お医者さんに行かれなくなってしまいます。新しい医院を訪れるのは億劫なことで、つい健診を怠ることにな
ります。
 歯科医は出身大学の狭い範囲に限らず、学生時代の趣味のサークルや学会での付き合いなど多方面からの繋が
りを持っています。言い換えれば、全国にネットワークがあるのです。最近の情報開示の流れもあって、今までの診
療の経過や流れを患者さんに伝え、移転先に最適な医院が有れば紹介も出来るのです。
 移転が決まれば医科・歯科に限らず情報の提供や紹介を依頼しておくことが必要でしょう。移転後、必要が生じた
時になってからでも、前医は誠意を持って対応してくれることでしょう。

5
 小中学校での歯科検診が始まる季節です。かっては歯式(歯の場所を示す一覧表)に、う歯(虫歯)の程度などを
記入していました。現在では、う歯や歯肉炎の有る無しのみの記載に留める場合が多くなっています。
 これは、設備(灯りなど)不十分な場所で、短時間に大勢の健診をするため診査が不正確になる恐れがあるから
で、精密な検診を受けるようにとの勧告なのです。多くは自覚症状のない場合なので、治療を受けるように促した紙
を受け取っても、時間がないなどの理由で数ヶ月おいてしまうことが多く見られます。
 永久歯であっても幼弱な(萌えて間がない)場合、虫歯の進行は想像以上に早い場合があります。治療はさてお
き、とりあえずは現状と治療の必要度だけでも精密検査を受けることをお勧めします。一部の私立高校では歯科検
診のない場合もあります。自主的な健診が必要です。

6
 審美歯科=歯・口元を自然に白く見せることが言われ初めて、かなりの時間が経ちました。元来自然な状態を再現
する意図だったはずが、作り物の美を求めるようになってしまいました。自然に見えることが一番という概念は置き去
りにされ、歯は白ければよい、綺麗に並んでいればよいという風潮が蔓延しています。不自然な白さでも、白い程良
いと考えるのです。
 その流れから、口の中に金属が露出することを嫌うようになりました。被せ物や詰め物は陶器やプラスティックで補
うことが出来るようになりました。最後に解決が難しかったのは入れ歯のバネで、弾力性が必要なので金属が最適
だったのです。アタッチメントと言われる装置を歯の中に埋め込み、外部に金属を露出させない方法もありましたが、
健康な歯を削る必要が生じたり、加工精度が高度で費用が高額だったりして、普及は進みませんでした。
 最近では歯や歯肉の色をした弾力性のあるプラスチックが現れ、バネの代用が出来るようになりました。形態をよく
見るとやや不自然な点もありますが、金属色はなく自然に見えます。幾つかの症例を試してみましたが、実用にはな
りました。費用(健保対象外)・耐久性と破損した時の修理に難点がありますが、材質が日々改良されていますか
ら、期待は持てそうです。

7
 学校の歯科健診も夏休み前にはほぼ終了しています。現在の小中高生は、部活や塾や習い事で忙しく夏休みに
入ってから歯科診療所を訪れることが多いので、これからの時期に混み合うでしょう。と言っても一昔前と違って、子
供の虫歯はかなり少なくなっています。デンタルIQ=歯に関しての関心が高まり手入れが行き届いていて、良い結
果が付いてきています。
 健診表も精密検査を受けるようにとの注意にすぎず、実際の健診は受診先の診療所で行います。その際「CO」の
記号表示の理解が曖昧で、今まで苦心をしていました。「CO」は「シー零」でなく「Cオー」なのです。数字のゼロでな
く、アルファベットのオーなのです。Caris Observasion の略で日本語に直すと「要観察歯」となります。
 虫歯の程度はC1〜4で表すので、ゼロと勘違いしてしまうのです。要観察(CO)とは、虫歯の程度を表している訳
でなく、虫歯ではないけれども経過によっては虫歯になるので、特に注意して手入れをする必要があるとの警告なの
です。最近論文や解説文ですら専門用語や常用語をアルファベットの頭文字を使った省略形で表記している例が多
いのですが、内容を十分理解出来るためには、出来れば日本語で、せめて省略しない用語で記載して欲しいので
す。

8
 最近何件か前歯の打撲で来院されました。お子さんは普段からかなり多くありますが、大人の方も数名ありまし
た。歯牙破折と亜脱臼程度でしたが、完全に抜け落ちる場合もあります。最近の歯科専門誌での報告に、抜け落ち
た歯の保存には牛乳が一番との記載がありました。通常「生理的食塩水」と考えていたのですが、体液に近い「牛
乳」に軍配が上がったようです。
 押し込まれた歯は引き出し、内外に傾いた歯・やや抜けかけた歯は元に戻し、接着材や針金を添えて数本を固定
します。通常は数週間で揺れも止まり実用上は通常に戻るようです。但し、骨にひびが入ったり、歯髄の血管が切断
しているような場合は、数ヶ月咬むと痛いなどの症状も残るようです。
 乳歯の場合は、後に続く永久歯にも影響する場合もあるようです。後の変色もあります。とにかく打撲直後は応急
処置が必要ですが、数週間数ヶ月の経過観察が必要と思われます。経過を見てから打撲の状況が分かるという不
確定な要素が多すぎる症例なのです。
 それでも歯をぶつけてしまったら、軽傷であってもとりあえず診察を受ける方がよいのです。夏休みシーズンは、事
故も多いのです。

9
 歯の磨き方、歯ブラシの選び方を聞かれることが多くあります。その場合「食べたらすぐに、必ず、丁寧に磨いて下
さい」と答えます。「昼はチョット」という答えが返ってくることが多いのですが、外出先は無理でも、仕事先で昼休み
があるなら、歯磨きに3分程時間は割けるはずです。
 洗面所の設備不足もありますが、トイレの片隅でもその気になれば出来るのです。それでも昼は無理ならば、休日
など出来る時だけでも歯磨きすればよいのです。『歯磨きしないと口の中がさっぱりしなくて気分が良くない』と思うよ
うになれば成功です。
 歯磨きの仕方・方法にも幾つかの種類・考え方に違いがあって、どの方法を採るかは歯科医師の間でも違いがあ
りますが、その上患者さんの手首の力や、頬の筋肉の強さなど色々な状況によっても代えることになります。歯ブラ
シの選択も、磨き方の手法によって変わります。
 「歯磨きを確実に実行している」と分かれば、主治医の歯科医は親身になって相談に乗ることが出来ます。歯ブラ
シ選びや歯磨きの方法の選択はそれからのことです。

10月
 高速道路休日上限1000円、地方では無料化も社会実験として行われ始めました。それに伴って事故が増えたよう
に感じていましたが、JAFの機関誌で実際に無料化の前の数倍に事故が増えているとの報告がありました。慣れな
い走行が無理を呼んでいるようです。
 そのことと一概に比較出来ませんが、歯の治療にも一部過去に似たような現象が起きていたことがありました。国
民皆保険で歯科の治療費が当時社会保険の本人ならば初診料の支払いだけで後は無料同然でした。家族や国保
加入者でも、法令で決められた多分それまでより安価な治療費の更に一定割合の負担で済み、全額個人負担であ
ったそれ以前よりは治療が受けやすくなったのでした。
 その理由だけではないのですが、(態勢に応じられるには歯科医師数が少なかったので)患者さんの洪水となり診
療拒否などの非難ニュースが新聞紙上を賑わせました。需要の拡大で患者さんの渋滞が起こったのでした。
 その後歯科大学の開設が相次ぎ需要と供給のバランスは改善されましたが、保険財政の悪化から患者さんの負
担が→1→2→3割と増えるに従って治療中断が増え、現在の景気低迷で収入減となった若者を中心に治療中断率
が更に跳ね上がっています。高速道の料金無料化とは異なり、歯科治療費を無料化するよりも、就業環境が歯科治
療が受けやすい環境・・・例えば就業中の疾病治療(歯科と限らず)に雇用者が一定時間を与えるなど・・・があれ
ば、完治率が上がり健康が維持されるでしょう。

11月
 10月に入っても真夏のような暑さが続いていましたが、11月が目の前に近づいてきていきなり札幌から雪便りが、
大阪では木枯らし一番が吹きました。異常気象と言えるのでしょうか。
 この時期当院では抗生剤の使用が急激に増えます。夏の暑さを必死に耐えていた身体が、涼しさにほっと一息入
れて緊張が解けるのでしょうか、歯槽膿漏や埋伏智歯など慢性疾患が急性発作を起こすのです。つまり、常に存在
する病気であっても身体の抵抗力によって押さえ込まれているものが、抵抗力が崩れて病気として表面に現れるの
です。
 完全治療が出来れば問題ないのですが、歯槽膿漏など現状維持しか方法がない場合などは、日頃のメンテナン
スで病気として現れないようにコントロールすれば良いのです。それでも体力が落ちれば腫れたり痛んだり症状が現
れます。
 異常程でもなくても違和感を感じたら早めに検診を受ければ初期段階で抑えられます。歯科に限らず他の部位でも
同じ事が言えます。

12月
  今年もカレンダーが後一枚となりました。・・・師走の常套句ですが・・・夏の猛暑とこのところの冷え込みから例年
になく色鮮やかな紅葉の便りが届いています。
 こちらは例年通り歯槽膿漏や親知らずの腫れ、古い虫歯の疼きなど慢性疾患の急性発作(普段はおとなしくしてい
る細菌が、急に暴れ出し腫れたり痛んだりすること)が増えます。暑さに必死に抵抗してがんばっていた身体が、涼
しくなることで気を緩めそれまでのがんばりが途絶えてしまい発病するのです。因果関係ははっきりしていないので
すが、季節の変わり目が一番感染症対策の抗生剤の使用が増えるのは事実です。
 予防法は「十分な睡眠、適正な栄養を摂り、適度な運動」通常の健康対策に他なりません。歯科・口腔分野では、
「おかしいな?」と思ったら早めの健診を受けましょう。

今月のひとこと バックナンバー【平成21年】


トップへ
戻る



今月のひとこと バックナンバー【平成21年】