今月のひとこと バックナンバー【平成26年】

《1・2月》
新年早々新聞一面に「歯科ポイント制」との記事が掲載されました。
 概要は『歯科ポイントのしくみは、東京都渋谷区の歯科コンサルタント会社が2006年から運営を始めた。同社によ
ると、全国約6万9千ある歯科医院のうち、加盟しているのは約400。加盟医院で治療を受けた患者は、同社のウェ
ブサイト上で治療や設備の満足度について6問のアンケートに答え、歯科医院の口コミを書き込むと、治療内容によ
って100円〜1万円相当のポイントをもらえる』とありました。
 マスコミで「歯科医院の過剰」が報じられて時が経ちましたが、確かに町に「歯科」の看板が目立ち過当競争の波
が当院にも押し寄せています。50年近くの運営を経てきた当院でも安定してはいてもある程度の影響は避けられま
せん。まして開業したてや開業年数が少なければ経営に危惧を持ち、実際苦戦を強いられている医院も多いことでし
ょう。集客のため手段を選ばず“ポイント制”に活路を見いだそうとするのもやむを得ない面もあります。
 しかし業者からなにがしかの(記事によると30%にもなる)手数料を支払えば、健康保険収入はただでさえ収支バラ
ンスぎりぎりなので、余分な経費負担はいずれ経営を圧迫し、手抜きや過剰診療への道につながりかねないので
す。
 患者さんにとっては病気治療でポイント(キャッシュバック)など期待外のサービスは魅力的かもしれません。しか
し、あくまで医療は質が第一なのです。しかも、日本の医療保険制度では、最低限の負担で最高とは行かないまで
もかなり質の高い医療が受けられるのです。目先のプレゼントより、“安心・安全”を買って欲しいのです。

《3・4月》
「食後直ちに歯を磨いてはいけない」というコメントが一人歩きしてる。概要は「食後すぐの口腔内は、食べ物の酸や
糖分で酸性に傾いているので、歯のエナメル質は弱まっている。 この状態で歯磨きをすると、歯の表面を傷つけてし
まい虫歯のリスクを高める。」「 歯の腐食を防ぐには、少なくとも食後30分経ってから歯磨きをするのが望ましい。象
牙質(デンティン)と呼ばれるエナメル質よりも柔らかい組織があり、食後30分経たずに歯を磨いた被験者の口内で
は、象牙質の腐食が確認された。」との見解からと思われる。
 「象牙質の腐食が確認された」とあるが原則象牙質はエナメルまたはセメント質に覆われ内部にあり露出していな
いのでこの論理には無理がある。ということは酸性に傾いているのであればプラーク(食物残渣)が付着していれば
より強く酸食されるであろう。時期の問題より歯を傷つけるような強圧をかけず、早い時期にプラークを取り除く方が
歯の浸食は少なくなる。
 あながちこの理論が間違っているとは言えないが、汚れたままの状態で放置しておけば細菌学的には虫歯菌がプ
ラーク上にバリアを張りプラークが取れにくくなり、細菌に因る乳酸発酵はすでに開始されており、食べ物の酸以上に
酸食は進むこととなる。
 新しい理論を唱える時あたかも今までの考えを否定してしまうのはどうであろうか。少なくとも「こんな考え方も出来
る」程度にとどめて、多くの意見が議論されて初めて結論になると思われる。混乱させセンセーショナルな“フェイン
ト”はいい加減やめにして欲しい。

《5・6月》

  6月4日〜10日の期間「歯と口の健康週間」です。「虫歯予防デー」に始まり「口腔保健週間」など名称は変遷し
てきましたが「お口の健康」を守る運動の根本は変わりません。
 近年統計数字を見るまでもなく一般の方々の虫歯の数は減り、歯周病を中心とした口腔内は良好となっていること
を実感しています。その反面「楔状欠損(歯ブラシで歯を削ってしまう)」や時には「擦過傷(擦り傷)」をよく見かけるよ
うになりました。
 「歯磨きのしすぎですか?」との質問を出されますが、歯磨きにしすぎは原則有りません。極論を言えば、一日中磨
いていても構いません。・・・そんなことをする人はいないと思いますが・・・。要は磨き方を間違えないことです。問題
は「磨き方を習う」機会が無い、または少ないことです。この週間だけ「お口の健康」を強調しても効果は少ないので
す。定期的に検診をして問題点の早期発見をし、その折りに(歯磨きの方法、歯ブラシの形もすこしづつ進化している
ので)新しい知識を身につける機会として下さい。
 かって「リコールはがき」を出してお知らせしていましたが、返信のあった方は数%に過ぎず、その手段は諦めざる
をえなくなりました。現在は患者さんの自覚に頼らざるを得なくなっていますが、何らかの手段がないか模索していま
す。

《7・8月》
 前期高齢者健康保険の本人一部負担金が、4月から2割となりました。今まで1割負担だったのは特例処置で2
割負担が本来なのです。特例処置が廃止されて本来に戻ったわけですが、4月1日までに70歳に達していた方々
は今まで通り1割に据え置かれています。
 一見既得権の擁護にも見えますが本来の姿に戻し、これから高齢を迎える方々と同一にすべきなのが公平である
と言えます。本来決められていたはずの2割負担なのですから既得権ではないはずです。
 ただし、新しく前期高齢者になったほとんどの方々は所得の如何に関わらず3割負担であったはずですから、所得
が一定以上有る方を除いて2割負担に減額されますから、負担減となり実感としては不公平感は余り感じないと思
います。1割の方を2割に戻せばかなりの批判を受けるでしょうが、5年経てば全ての方が後期高齢者の範疇に入っ
て特例処置は自然に消滅するので、今現在の批判を受けることは避けたのでしょう。
 問題は後期高齢者であっても一定以上の所得があれば、3割の負担が課せられるのです。資産があり働かなくて
も悠々自適で生活出来れば1割負担で、資産がなくて一生懸命働かざるを得ないのにその点は考慮されず3割の負
担が負わされます。3割が課せられる年間所得の基準はかなり低く設定されており、何か釈然としません。
 
《9・10月》
 IT用語としてはその方面に通じている人には一般的なのですが「CAD/CAM」方式による歯間修復が健康保険に
採用され半年が経ちました。小臼歯に白い歯が保険で入ると期待されたのですが・・・。
 従来ですと歯に金属冠を被せるには、口の中で削り整えた歯を型どりした模型を作り、その上で蝋原型を彫刻刀や
蝋ベラを用い手で形作り、鋳型として鋳物を作るのです。「CAD/CAM」法を簡単に述べると、型どりした模型を3Dセン
サーで読み取り、旋盤などの機械を使ってコンピューター制御の元(レジン・セラミック・金属など)ブロックを削り出す
のです。
 保険では材料のブロックは一定の要件を満たすファイバーフィラーの入ったレジンとなっていますが、現在では3社
3品種が指定されています。問題はこのような“先端的技術”が採用される時は施設基準が定められて届け出が義
務づけられます。経験年数、技工士及び基準に準拠した設備があるか診療所内にない場合は同等の設備基準を満
たす技工所との連携を機械の詳細と共に届け出る必要があります。
 それだけの手間暇かけても収入に寄与するのは僅かです。自院に設備するには費用がかかりすぎ、コストの回収
には無理があります。現在の提携技工所も投資コストの回収は見込めないと二の足を踏んでいます。
 しかも4・5番(小臼歯)にしか使えないので使用頻度は更に狭くなります。ファイバーフィラーが入っているといえど
もたかが“レジン”(プラスチック)なのです。セラミックほどの安定性も精度も期待出来ないのです。
 新技術が現れる度に「施設基準」なるものがお上から申しつけられ、末端の歯科医療を担って一番底辺で活動して
いる多くの零細歯科医院を閉め出しているのです。


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