今月のひとこと バックナンバー【平成28年】

《1・2・3月》
  1月からいきなり新技術・材料が導入されました。歯が大きく欠損している時(虫歯が大きくて、汚れた部分を取り
除くと頭の部分の大半を失ってしまった時)被せるためには土台が必要です。従来は周辺の歯質が多く残っていれ
ば穴をふさぐだけで十分ですからプラスチックの一種コンポジットレジンや金属を詰めました。崩壊が多く冠を十分維
持できないときには、ポストコアといって歯根に(少し太くて長い金属のピン)を差し込んで土台としていました。
 今回導入されたのはグラスファイバー繊維をレジンで固めて強度を増したポスト(棒)を使用した土台です。臼歯(奥
歯)は複数の歯根があり、それぞれ方向が違うので金属の鋳造体では平行なポストが挿入出来ず、グラスファイバ
ーのポストを異なる方向に挿入してから全体を一つに固めるのは、理にかなっているのです。
 問題は、噂はあったのですが改訂期でもないのに新技術が導入される例は希なことで、しかも1社の1種類の材
料のみだったのです。もちろん今までも同類の材料も技術もあったのですが、保険で採用されたものとは異なり、単
価も数倍していますが実績もあり数社が性能を競っているのです。それは制度や単価からも使用は出来ません。
 新技術の導入を否定する訳ではありませんが、我々開業医が良かれと思う技術・材料には(色々あるので今後取
り上げていきます)無反応で、今導入の意義は?と思われる物がいきなり導入されるのは誰が何処で画策している
のかはいささか疑問を感じます。


《4・5月》

 4月健康保険の改訂がありました。改訂主旨・歯科医療の目的として【生活を支える医療】が掲げられていました。
 具体的にいくつかの方策が述べられていましたが難解な文言であるため説明しにくいのですが、「地域包括システ
ムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点」が最初に掲げられていました。読み進んでいくと「高齢化が
進む中で、医療と介護の連携を図る。合わせて大病院と零細歯科医院の棲み分けを進める・・・・と解釈出来ました。
 まだ内容が十分把握理解出来ていないので、今後この欄でわかりやすく読み解いてみたいと思っています。中で
も事前から言葉のみが先に聞こえていたのは「かかりつけ歯科医」でした。蓋を開けてみると「施設基準」が定められ
ていました。(近年新項目が出てくると、施設基準に合致しないと実施出来ない例が多くなっています・・これについ
ての見解も順次述べたいと思っています)
 歯科医療(他の分野でも同じですが)は継続的に一生メンテナンスを続けなければなりません。それには特定の歯
科医と付き合うかかりつけ医が必要になります。ところが「かかりつけ歯科医」の施設基準は「複数の歯科医」また
は「歯科衛生士」がいなければなりません。講習の講師の都歯の担当理事によれば該当する診療所は数%ではな
いかと言います。何のための設定なのでしょう。

《6・7月》

 4月健康保険の改訂に「地域包括システムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点」があり「かかりつ
け歯科医」の文言が文書化されました。読んだだけでは何のことか理解しにくいのですが・・・。
 細かい内容が記載された一覧表が資料の中にありました。考え方や具備すべき条件が一覧で示されていました。
ただ気になる記述として「かかりつけ歯科医機能の評価」が細かく規定されているのですが、「考え方」は改めて記
載することはない歯科医師・診療所としては当然のことです。が、「具備すべき条件」はどうしてそこへ行き着くのかと
思われる点が多々ありました。
 元来「かかりつけ歯科医」は患者さんが認め「この歯科医にずっと面倒を見てもらいたい」と考え、歯科医側も喜ん
で応じることで自然に成り立つものだと思います。制度として「かかりつけ歯科医」を定めるのなら、登録制にした上
でセカンドオピニオン的に他者の意見を求めるのには、かかりつけ医の了承が必要など二者の間にこだわりを起こす
懸念も出てしまいます。
 高齢化社会に向けて必要なシステムと決めつけていますが果たしてどうなのか、次回より考えてみたいと思いま
す。

《8・9月》
2年に一度健康保険の点数改訂が行われます。その際、点数の増減だけでなく診療項目の追加や削除、大幅な編
成替えがあることも度々です。最近の傾向としては新たに追加された項目(新規に加点されるので収入増を期待す
るのですが)には「施設基準」なるものによって算定に「具備すべき条件」がつく場合が多い・・・多数なのです。
 条件の中には設備(AEDや空気清浄機=室内バキュームなど)、歯科技工士や歯科衛生士、複数の歯科医師な
ど人的配備など通常の歯科医院では対応が困難な条件も多いのです。
 前回も述べた「地域包括システムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点」との整合性がドコにあるの
か疑問が残ります。長年“町医者”として地域密着を目指して診療に従事してきました。歯科衛生士や歯科技工士
がいるに越したことはありませんが、全歯科医院でそれらを、確保することは困難というより配備できるのは少数な
のです。
 歯科医師自身が患者さんに衛生指導したり、当日義歯の修理をしてなぜ加点されないのでしょう。衛生士技工士
両者は単独での歯科医療行為はできず、指導指示するのは歯科医師なのです。歯科医師自身には両者の業務を
実施する技術も持ち、資格もあるのにです。必要以上の設備投資と雇用を求める意味があるのか疑問です。
 ちなみに保険財政の圧縮の観点から新規項目を含めて総財源は一定の枠内に収められています。ということは新
規項目を請求できなければ、今までより収入減になる勘定です。

《10・11月》
 局部義歯(部分入れ歯)は、残存歯(残っている歯)に維持装置(外れないように止める金具類)をつけ保持するの
が原則です。保持装置にはいろいろ種類がありますが、健康保険で使用できるのは、鉤(バネ)が原則です。
 単純で応用の利く鉤は費用も安く殆どのケースで使用できます。(理想的には保険では使用できないよりよい性能
の金属があります)ただ、金属ですから独特の色(保険の場合は銀色ですが)があります。前歯や正面に近い場所
では見えてしまいます。不自然で外観の印象に違和感を与えるのに躊躇される患者さんが多いのです。
 もちろん術者方でも承知しており、金属の見えない方法を多数考案しています。金属でないプラスチックなどのバ
ネ、入れ歯の内部に金属部分を隠すアタッチメントと呼ばれる装置などです。しかしこれらは高価で健康保険では使
えません。今の制度では、一つでもこれらを使い別費用がかかると、義歯そのものの費用も保険外として自費になり
ます。
 最近前歯の次の小臼歯など外観に触れる部分は、保険でも白いプラスチック(ハイブリッドレジン)など使用できる
ようになりました。外観のみが理由ではないのですが、鉤より安定感の出しやすい他の方法も使用できるように改善
されると良いのですが・・・もっとも、装置によってはそれだけで現在設定されている入れ歯代金を上回ることもあるの
ですから、採用される望みは薄いのです。最も義歯本来の機能回復には外観よりむしろより性質の良い金属で残っ
た歯を保護するのも一理あるのです。


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